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他の人がやっていないからこそ価値がある。金彩工芸士【三宅工芸株式会社】代表取締役・三宅誠己

全国各地の経営者様をインタビューし、事業の特徴や人柄をお伝えするインタビュー企画。今回ご登壇いただくのは、【三宅工芸株式会社】代表取締役・三宅誠己さんです。

18歳から着物職人一筋で、オンリーワンの和装花嫁衣装の製作をされている三宅さん。着物を見るだけで、どれだけ丁寧にお仕事をされているのかが分かります。伝統的なものを作るだけでなく、どんどん新たな挑戦をされる三宅さんに、事業の内容やこだわりを伺いました。


三宅誠己(みやけ のぶみ)/金彩工芸士
1967年京都市生まれ。18歳から着物職人一筋で腕を磨き続けて36年以上。和装花嫁衣装の打掛や白無垢を制作し続け、その間1万着以上の着物の制作に従事。2014年に独立し、2016年には三宅工芸株式会社を設立。これまで多数の芸能人の方々に花嫁衣装を提供。ブランド NOB MIYAKE を立ち上げ、国内外に日本の職人の技術を発信している。

ホームページ:https://nsplus.net/
Instagram:https://www.instagram.com/nobumimiyake/

小幡 渉(おばた わたる)/ライター
2021年よりSNS運用代行・コンサルタントとして独立。Web集客に力を入れたい企業様の代わりにSNS運用や発信のサポートを行なっている。人と距離を縮めること、文章を書くことが得意。滋賀を中心に活動中。野球、お笑い、筋トレが好き。特に好きなのは、オードリーとなかやまきんに君。

note:https://note.com/all_happy



18歳で職人の道へ

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ーー自己紹介をお願いします。

三宅誠己(のぶみ)と申します。京都生まれ京都育ちで、18歳の時から36年以上職人をしています。特に和装の花嫁衣装の製作に特化してきました。着物のジャンルとしては、金彩工芸士と言って、金箔を塗ったり貼ったりして着物に装飾しています。あとは、アワビの内側を削って出た白っぽい綺麗なものを着物に使うという珍しいことをしています。本来であればパキッと割れてしまうものを柔らかくして着物に使うという技術を持っています。


ーー小さい頃から職人になることを決められていたんですか?

小さい頃から絵を描くことが好きでした。でも、中学・高校の時は絵を仕事にするとは全く思ってなくて。実際に高校3年生の秋までは受験勉強をしていましたし。

当初は大学進学を考えていましたが、ある時「もう勉強はいいや」と思ったんです。じゃあどうしようかと。僕の両親が職人をしていたので、両親の跡を継ぐことにしました。それも突然です。進路課の先生や周りの人たちは突然の進路変更にビックリしていましたね。


ーー高校卒業後すぐに両親の跡を継がれたんですか?

両親の跡を継ぐと言ってもいきなり継ぐのではなく、就職という形で別の会社に修行に出ました。その会社でやっていたのが、花嫁衣装の製作です。会社では3年働き、その後両親と4年間一緒に仕事をしました。

両親と働いた後は修行先の会社に戻ることに。それからはずっと花嫁衣装の製作をしています。


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やめようと思うたびに固くなる決意

ーー18歳から職人一筋なんですね。途中で職人をやめたり別の道へ進んだりはしなかったんですか?

何回か途中でやめようと思ったことがあります。最初にやめようと思ったのは、子どもが産まれた時。着物に対して不安を感じたんですよね。本当にやめようと思ったので、全然違うジャンルの会社へ面接に行って就職も決まっていました。だけど、ギリギリのところで思いとどまり、就職はせず職人を続けることに。

子どもが産まれた時以外にも、何度かやめようと思いましたが、職人を続けることを選んできました。やめようと思うたびに「やっぱり続けよう、絶対にやめないぞ」という決意が固くなるんですよね。



事業形態を大きく変えるキッカケ

ーー職人人生で転機となった出来事があれば教えてください。

コロナの大打撃が、職人人生の中で大きな転機となりました。僕はブライダル関係の仕事をしてきたので、コロナによる影響を大きく受けたんです。売上自体は8割ほど減ってしまって。続けられるのか、やめるべきなのか色んなことを考えました。

元々は一社専属のOEM*として仕事をしていたんですよ。デザインの図柄だけをいただいて生地に落とし込む仕事です。弊社の仕事はほぼ100%その会社に依存していました。今まではそれで良かったんですが、コロナの影響で仕事がかなり減ってしまった。


弊社には息子も含めて何人もの職人が在籍しています。会社を続けるためには何ができるのか。たくさん考えた結果、一から着物を自社で作ることに。今までは弊社の名前を出さずに仕事をしてきましたが、全部自分たちでできることに気付いたんですよね。

一から自分たちで着物を作って、完成品を自分たちの名前で売る。会社を存続させるためにたくさん考えたからこそ、新しいアイデアが生まれました。昨年には新たなブランドを立ち上げ、現在ではオリジナルの打掛を作りためています。2022年の春からは衣装を使ったレンタル事業もスタート。事業形態を大きく変えられたのは、コロナの“おかげ”だと思っています。


*OEMは、他社ブランドの製品を製造すること、またはその企業


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新ブランド「NOB MIYAKE」の立ち上げ

ーー着物を一から自社で作られるようになった後、何か変化はありましたか?

着物を一から自分たちで作るようになってからは、さまざまな業種の方とお話することになりました。「こんなことを考えているんですが、できますか?」と相談することもあります。100%自分たちで仕事を生み出せる分、他のジャンルと掛け合わせられるのが面白いですね。


また、テレビに出演したりプレスリリースを出したりして、認知拡大のために動き出しました。これまで10本以上のテレビに出ましたし、メディアの取材もたくさん受けてきました。さらに、日本だけでなく海外にも出たいと思っていたので、「NOB MIYAKE」というブランドを立ち上げました。


ーー海外進出もされたんですね。どのような流れで海外進出を果たされたんですか?

交流会やビジネスミーティングなどを通して出会った人に、海外在住の日本人を繋いでもらいました。そこからまた紹介をしていただいて。どんどん広がっていきました。

着物だけでなくインテリアなど、海外の人はどんなものを求めているのかリサーチするようにしています。海外在住の日本人にお話をよく聞くようにしていますね。また、僕たちがやっていることや商品を海外に届けるためにプレゼン資料を作成しました。今後のさらなる海外進出に向けて準備を進めています。



商品を作る過程を届けたい

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ーーInstagramなどのSNSでも積極的に発信されています。

世の中に流通している花嫁衣装は西陣織でできたものが多いんですよね。西陣織は機械にデータを差し込むことによって、機械で作られているんです。

一方、弊社では手書きで書いたものを手書きで落とし込んで、手書きで作っています。たくさんの手間をかけた作り方です。手間をかけて作る、という商品価値を知ってもらいたいんですよね。だから、僕はInstagramで毎日発信しているんですよ。写真や動画を通して、商品を作る過程を見てもらいたい。僕たちのやり方を少しでも多くの人に知ってもらえるよう、発信しています。



新たな商品の開発

ーーInstagramでの発信の影響はいかがでしょうか?

発信を継続していることもあって、先日フォロワーさんからお問い合わせが来ました。その方は九州のオーダースーツ屋さん。普段投稿している着物の写真を見てくださっていて、「着物に施している金彩をスーツにできませんか」とのこと。日本の生地や職人の技術をスーツに反映させて、海外で販売していきたいという思いを持たれているようでした。

お問い合わせをいただいたものの、問題点があって。スーツってクリーニングするじゃないですか。クリーニングする際には石油系の溶剤が使われるんですよね。石油系の溶剤を使うと、金箔を接着させるための樹脂が溶けてしまう。だから最初は「金箔を使ったスーツはクリーニングできませんよ」とお伝えしました。

それでも、「金彩を施したスーツを海外で販売したい」と言われたので、開発することに。クリーニングしても大丈夫な金彩を施したスーツが出来上がりました。価格は数千万円。今では某百貨店で扱われていて、日本のトップレベルのセレブが購入される商品となっています。

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限界を決めず、まずはやってみる

ーーお仕事をされる上で大事にされていることはありますか?

まずはやってみることを大事にしています。商品を作る際、僕たち職人は安全策を考えるんです。返品や商品としての価値をなくすことは良くないこととされているので。だからこそ、金彩を施したスーツの相談を受けた時は「ありえない」とさえ思っていました。でも、結果的には無茶な提案も形にすることができた。どんなことでも、まずはやってみることを大事にしてきたおかげです。

職人として物理的に難しいことはたくさんあって。「クリーニングしても金彩が取れないようにする」とか「硬いあわびを着物に貼っても取れないようにする」などは、すごく難しいんです。でも、他の人がやっていないからこそ価値がある。これからも人がやらないようなことを続けていきたいです。


また、「やめる」ということを一切考えないようにしています。今まで打掛を作り続けてきたので、今後も作り続けていきたい。着物以外にも海外に向けたインテリアなども出していきたいです。



今後の展望

ーー今後取り組んでいきたいことについて教えてください。

今後はフルオーダーで花嫁衣装を作っていきたいですね。お嫁さんが思い入れのある花を打掛に施すなど、一から作る完全フルオーダーの打掛です。僕がやっている着物のやり方においては、大量生産が難しい。なので、今まで培ってきた技術を活かして一つひとつを丁寧に作っていきたいです。

また、藤原紀香さん、東原亜希さん、浜崎あゆみさんなどの衣装を作ってきたので、芸能関係の方の衣装製作にはお力添えができます。

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ーー繋がりたい方がいらっしゃいましたら、教えてください。

海外で日本のものを流通させようとしている方や海外在住の日本人の方と繋がりたいです。日本で使われている着物をそのまま海外に持っていっても使われないんですよ。海外の方って帯を締めたりできないじゃないですか。フランスでは羽織るためのカーディガンなど、着物の形を変えたものが出てきています。フランスのカーディガンのように、国柄に合わせて製品を作っていくことが大事だと考えています。そのため、海外に住われている方で協業できそうな方と繋がりたいです。




編集後記

伝統や歴史のある職人の世界でさえも、常にアップデートが求められているんだなと痛感しました。変化に対して柔軟に対応できるかどうかが、これからの時代を生き抜いていくカギになりそうですね。また、三宅さんが製作されている着物を見ると、本当に細かくレベルの高い技術の結晶であることが分かります。職人さんに対するリスペクトがさらに深まりました。

三宅さんと繋がりたい方は、ホームページやInstagramのお問い合わせ、または小幡までご連絡ください。本当に素敵な着物ばかりです。


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