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読書会に最適、原稿肥大化の時代の「覚悟の短編集」~斎藤真理子 × 豊崎由美、グアダルーペ・ネッテル『赤い魚の夫婦』(現代書館)を読む~

2021年11月の月刊ALL REVIEWSフィクション部門は、韓国文学の翻訳者にして伝道者の斎藤真理子さんをお迎えし、今年の8月に邦訳が出版されたグアダルーペ・ネッテル『赤い魚の夫婦』を読み解きます。ネッテルはメキシコの女性作家で、本書は初めての邦訳本。11月23日には訳者の宇野和美さん、編集者の原島康晴さんのオンライン対談が在日メキシコ大使館と現代書館の共催で行われたばかり。重版もされた話題の本です。

※対談は2021年11月29日に開催されました。
※対談はアーカイブ視聴が可能です。

薄い本に短編5編

『赤い魚の夫婦』は150ページ強の本に、動物(うち一編は菌類)をモチーフとする短編が5本入っています。豊崎さんは「パソコンで書くことが世界中で普遍的となり、原稿が肥大化していく傾向の中で、短く収める作者の覚悟を感じる」といいます。
また、表題作の『赤い魚の夫婦』と『北京の蛇』はパリが舞台で、登場人物もフランス人。韓国でも外国を舞台にした外国人だけが登場する小説が増えている、と斎藤さん。
一方、話の展開は意外と普通で、設定からして独特のマジックリアリズムのような小説とは異なる。「誰が読んでも楽しめる作りなのに、手を突っ込むと底がない」と豊崎さん。
豊崎さんと斎藤さんが語り合うことにより、作品の理解を深めていく行く様は本当に面白いです。「語り合うことで理解が深まる。読書会に最適な本」と豊崎さん。

観賞魚を贈る登場人物に悪意を感じる

表題作『赤い魚の夫婦』はパリを舞台にしたフランス人の若夫婦の物語。「フランス人夫婦の話とはいえ、ラテンアメリカの雰囲気も感じる」と豊崎さん。
斎藤さんは夫婦に、観賞魚ベタ・スプレンデスを贈るポーリーヌに悪意を感じるといいます。斎藤さん曰くベタ・スプレンデスは愛の水中花のような華やかでふわふわした魚だそう。(動画では、自らの体を揺らしてベタ・スプレンデスを説明する斎藤さんがみれます!。)こんな生き物、普通は妊婦には贈らない。

ベタのイラストbyいらすとや
赤いベタのイラストがないのが残念


『赤い魚の夫婦』は妻のモノローグ。夫から見ると、別の見方もあるだろうと、豊崎さん。夫のこと、友人の意図など語るポイントが多いという点で、確かに読書会にはうってつけの短編です。

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『ゴミ箱の中の戦争』はゴキブリが登場するのですが、ブラジルの女性作家リスペクトルの『G・Hの受難』にもゴキブリが登場するそうです。ちなみにリスペクトルの『星の時』は月刊ALL REVIEWSでもとりあげています。

このほか、短編5編すべてについて、自称「あらすじ職人」の豊崎さんが紹介するので、動画では、5つの短編の全容もわかります。アーカイブ視聴が可能です。

【記事を書いた人:くるくる】

【「ALL REVIEWS 友の会」とは】
書評アーカイブサイトALL REVIEWSのファンクラブ。「進みながら強くなる」を合言葉に、右肩下がりの出版業界を「書評を切り口にしてどう盛り上げていけるか」を考えて行動したり(しなかったり)する、ゆるい集まりです。
入会すると、日本を代表する書評家、鹿島茂さんと豊崎由美さんのお二人がパーソナリティーをつとめる、書評YouTube番組を視聴できます。
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友の会会員の立案企画として「書評家と行く書店ツアー」、フランスのコミック<バンド・デシネ>をテーマとしたレアなトークイベントや、関西エリアでの出張イベント等が、続々と実現しています。2020年以降はオンライン配信イベントにより力をいれています。
さらに、Twitter文学賞の志を継承した「みんなのつぶやき文学賞」では、友の会会員有志が運営にボランティアとして協力。若手書評家と一緒に賞を作り上げていく過程を楽しみました。
2021年2月には、鹿島茂さんとの対談6本をまとめた『この1冊、ここまで読むか!超深掘り読書のススメ』が祥伝社より刊行されています。
本が読まれない時代を嘆くだけではダメだと思う方、ぜひご参加ください。
ALL REVIEWS友のTwitter:https://twitter.com/a_r_tomonokai



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