古文 和歌のひらがなは要注意

古文では、よく和歌が出てきます。和歌といえば、掛詞・枕詞・縁語と
重要な要素満載です。「十訓抄」で、やせこけた尼が物乞いをして
寒そうにしているので、ひとえ(単:裏地のない着物)を1枚もらう話
に出てくる和歌です。

かの岸を漕ぎはなれにしあまなればさしてつくべきうらも覚えず

まず、和歌は必ず基本57577で区切って読みます。

かの岸を 漕ぎはなれにし あまなれば さしてつくべき うらも覚えず

こうすると意味が前より取りやすくなります。ここでひらがなに注意して、
掛詞になっているかチェックします。定番の「あま」=「海女」と「尼」
は気がつきやすいのですが、「うら」=「浦」と「(着物の)裏(地)」は
見落としがちです。平安時代の女性の装束で十二単(じゅうにひとえ)が
ありますが、和歌を詠む前に、ひとえ(単:単衣)の着物を1枚もらうことが伏線になっています。

「かの岸」は「彼岸」で”悟りの世界”を意味します。尼は、お釈迦様のいらっしゃる西方極楽浄土に行くために、出家して仏道修行に励んでいます。

受験研究社の訳では、「彼岸に向けて、すでに漕ぎ離れてしまった海女であるから、もう櫓(ろ)を漕ぎ進めても、こちらには漕ぎ着けるべき浦もないことだ。((世俗間を)離れてしまった尼ですから、むりに(この単衣に)つけるような裏布もないことです。)」となっています。

次に、紀貫之の土佐日記です。場面は、都へ帰るために船で移動中、風が吹き波が高くなって、船が沈みそうになって、住吉の明神に幣(ぬさ:神様に供える紙などで作った捧げもの)を海にいれ、それでも風や波が収まらず、
鏡を海に投げ入れると、鏡の面(おもて)のごとく収まった、です。

「     」神の心を荒るる海に鏡を入れてかつみつるかな

ここの空欄に入るのは、枕詞で、神に掛かる枕詞は、競技かるたで有名な漫画のタイトルにもなった「ちはやぶる」です。

解説せすが、住吉の明神とは、大阪の住吉大社のことで瀬戸内海を通る船の航海の安全を祈る海の神様です。鏡を投げ入れるとありますが、ここにも意味があります。よく神社の御社殿の奥に、大きな鏡を置いているところがありますが、神道では鏡は、神様が宿られる依り代の1つになっていますので、ここでも鏡を海にささげたことにつながります。鏡の面とあるのは、鏡の表面は平ですので、海の波が収まって平らになったことを意味します。

最近の古文の先生は、ここまで解説しているか分かりませんが、書かれていることには、文化的背景がありますので、平安時代の人々の暮らしで、旧暦(太陰暦)・男女の装束・住居・家具や小物などの知識があると、古文も理解しやすくなりますので、一度「国語の便覧」を見てみることをお勧めします。

お役に立てたら、幸いです。

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