指定自動車教習所界隈の闇

日本人の多くが、18歳になり高校卒業の時期を迎えると、運転免許を取る過程で、指定自動車教習所に通うことになると思います(以下特筆しない限り教習所とします)。教習所とは、健全な交通参加者の育成をする、また道路交通法の規定により技能試験を免除される卒業証明書を発行できるという意味で、一般私企業以上の倫理観、遵法意識が求められると思います。しかし、現実にはそうした理想とはかけ離れたことが行われています。以下自分が「教習指導員」の仕事を探す中で気が付いた事を記していこうと思います。

国立国会図書館にない「指導員の教科書」

一般に言われているのは、教習指導員になるには、教習所に入社したうえで、事前教養を受け、各都道府県の免許センターで行われる指導員審査を受けることです。こうした事前教養や審査対策で使われるのが指導員の教科書、すなわち一般社団法人全日本指定自動車教習所協会連合会が発行する「指定自動車教習所実務必携」です。しかしこの本は教習所の間でしか出回っておらず、それが個人で審査を受ける方の障壁になっていると思います。それだけならまだ良いのかもしれませんが、この本は何故か国立国会図書館に蔵書がないようです。国立国会図書館法は、第25条で、私人が印刷物等を発行した際に、完全なものを、少なくとも1部数納めることが規定されています。もちろんこれが機密扱いのもの、発行部数が著しく少ないなどであれば例外規定がありますが、全国で使われるこの本にそうした事情があるとは思えません。国立国会図書館のホームページで検索すると全指連関係の本は24件ありますが、2007年ごろの「応急救護処置」を最後に一切出てこないのは不思議なことですし、「各指定自動車教習所のレベルアップを目標にした諸事業を行ってい」ると自らプロフィールに書いてある全指連が、実務必携以外においても、本の1冊を納めることもできないのは皮肉なことです。

守られない「求人のルール」

自分は、以前に教習所に職場の見学が可能か問い合わせをしたことがあります。返ってきた返事は、書類審査を経た上で

面接の方は皆さん自動車学校や教習指導員についてよく御存知なので今まで現場を見たいとか言われたことはありません

とのことでした。求人には未経験歓迎や「長期勤続によるキャリア形成のため40歳までの方」などと書かれていたせいか、確かにメールのどこを見ても経験者しか雇わないだとかは書かれていません。けど「よく御存知」といった遠回しな言い方になっているのは、教習所自身が、この求人の違法性を自ら認識していることに他ならないと思います。求人を若年者のみに限ることは、それが未経験者を対象にするものであること、及び新卒と同等の待遇・教育制度が必要であることを意味します。問い合わせをしなければ、この求人がどのような意図を持つのかわかりませんし、求職者は求人が真っ赤な嘘であることまで想定して仕事を探しているわけではありません。
もちろんこれは1校だけの事例なので他の教習所がどうかは分かりません、しかしこうした求人募集でよく見かける謳い文句とは裏腹に、全くの未経験が入りやすい業界ではないのは事実です。

また、コンサルティング会社が運営する教習所専門の求人紹介サービスがあります。自分が検索した令和5年2月12時点で228件出てきたので、全国の教習所の1~2割が利用しているものと推測されます。このサイトには、多くの求人に「お祝い金」が設定されていますが、厚生労働省は令和3年4月1日から、指針を改正してこの行為を禁止しています。本来教習所の相談相手であるはずの会社が、これを行っているのは不思議で仕方ありません。

お祝い金求人の例。
厚労省人材サービス総合サイトに登録されている、上の求人紹介サービスの情報。職安法で義務付けられた報告が一切されていない。

「指定」はある、けど・・・

指定教習所になろうとする指定以外の教習所が、指定教習所になるためには、道路交通法の規定により、人的基準、物的基準、運営基準を満たさなければいけません。このうち運営基準についてもう少し具体的に言うと、

  1. 教習の科目並びに教習の科目ごとの教習時間及び教習方法が内閣府令で定める基準に適合していること。

  2. 教習が、内閣府令で定める基準に適合しており、かつ、同項の申請の日前六月の間引き続き行われていること。

  3. 教習を終了し、かつ、当該免許につき「自動車等の運転について必要な技能」について行う試験を受けた者のうちに「技能試験の合格基準」に達する成績を得た者の占める割合が、九十五パーセント以上であること。

の3つがあります。しかし指導員不足か何かしらの事情で、一部車種において、教習自体が止まっていることも珍しくなく、「教習が~引き続き行われている」とは言えません。また一般に「試験場一発より教習所の方が簡単」といわれるように、ほとんどすべての教習所で、この3番目の規定が維持されているとは言い難いでしょう。

もちろんこれらは申請するときの状態がこうであるべき、というだけで、道路交通法第99条の7で公安委員会が「基準に適合させるため必要な措置をとることを命ずることができる」と規定されていることを除けば、常時維持する直接の規定はないのですから、これで良いのかもしれません。ただそれは公安委員会ができることをしない=何でもしていい、というわけではないことは誰の目にも明白だと思いますし、この条文から暗黙的な法の意図を読み取ることは可能でしょう。実際、指導員審査の中でも、法に定める3つの基準に関して、それが常時維持されるべきであることは出題されるそうです。教習所はやはり、一発試験受験者以上の、安全、健全な運転者を育成するという社会的要請があるものですし、当然の帰結だと思いますが、やはり新人指導員にそう教えては居ても、実際の運営が、何十年もそうなっていないのは悲しいことです。

終わりに

自分自身は、教習指導員という仕事に興味を持ったきっかけは、取得時講習の受けにくさにありました。2022年に試験場受験で苦労して大型二種の合格を頂いた後、県内では1校も受け付けてもらえず、バスを多く保有している他県の教習所はその県の受験者しかダメ、最終的に見つかったのはまた他の県の届出教習所でしたが、当日になって受付で「うちは取得時講習はやっていない」と追加でおよそ1万円を請求されたり、応急救護講習は実際にその内容をやったのは6時限ある内の半分程度で、残りは受験中の他の受講生への交通ルールの教習で終わってしまいました。またバスやトラックの運転手が不足している現状もありますし、そんなに人が足りないなら自分が指導員になってやる、と思ったものです。しかしそうした社会の需要とは裏腹に、ここまで自分らのビジネスの事しか考えていないとは思いもしませんでした。

多かれ少なかれ、法令違反があるのは、どの業界でもあることでしょう。法令は多岐に渡りますから、全てを守るのは事実上不可能ですし、守ろうとしても人は誰だってミスを犯します。ただ、自動車教習所という、他の私企業以上の倫理観が求められる業界で、こうした多くの法令違反がまかり通っているのは残念に思います。ルールは何も違反しなければいい、もしくはポリ公に咎められなければOK、というわけではありません。やはりそこには誠実さやコモンセンスが求められるのでしょうし、それは運転においても、ビジネスにおいても同じです。いつの日か、指定教習所職員が良識ある社会人となり、模範運転者としての行動に尽くし、教習所職員としての誇りと自覚を思い出すことを切に願います。

以上気まぐれで本当に数時間で書きましたが、最後まで読んでいただきありがとうございました。
令和5年2月12日

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