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1分小説『ぎんがにかける』

海面が遥か下に見える。
「どうして……」
 いつものように水中から飛び出しただけなのにどうして?いつものように海に戻れない。延々と空を飛び昇っていく。飛び魚は考えた――きっと、僕は死んだのだ。
 海神が僕の魂を呼び戻しているんだきっと――いや、待てよ。ならば何故空を飛んでいる?海底神殿は海の底にあるのに……考えても仕方なかった。成す術はない。ただひたむきに真っすぐに空を貫き飛び魚が飛んでいく。撃ち放たれた弾丸のように。
「寒い」
 いくつか雲を切り裂いて、鱗が凍る気配を感じた。凍える。寒い。こういった感覚があるということは、解脱して魂になったわけではなく、やはり僕はまだ生きている。
 日常の何気ないジャンプが、まさかこんなことになるなんて……
「死ぬのか?」
 このまま、理不尽に死んでしまうのだろうか?誰のせいにも出来ない死。憎むべき相手はいない。後悔することもできない。ただ一直線に飛びながら、海での生活を三万年前の出来事のように懐かしむだけ。

 大気圏を突破した。

 星がまぶしい。宇宙を……僕は宇宙を飛んでいる。鱗の感覚は既に無い。ようようと僕は死んだのだろうか?分からない。どこに向かっている?いつか星にぶつかるまでこのまま飛び続けるのか?ここで初めて涙。望郷の念、帰りたい――帰ってあの子に想いを告げたい。そうしてあの子が産んだ卵に、思いっきり僕は――

 あ

 銀河だ

 美しい
 あそこでなら僕
 生きていけるかも
 砂のような星を尾で描き分け掻き分け
 泳ぐ泳ぐ泳ぐ
 
 銀河に入っていく。
 全身に星がぶつかる感覚、なんだこの感覚は――あ、駄目だ……僕の身体……溶けてしまう。銀河に……溶けてしまう。

ririririririririririr


「夢か……」
 飛び魚になって、宇宙を飛ぶ夢……なんて夢だ。
「ん?」
 パンツの中がネバネバする……

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