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詩考錯語『異質なものを組み合わせる1』

 落語が好きです。
 小学生の頃、図書室で読書をして感想文を書くという授業があったのですが、どうせなら面白いものをということで、落語を文字に起こした本を毎週読んでいました。(あと何故か谷川俊太郎さんの詩集。平仮名が多くて読みやすいという理由だけで)。
 長じて、枝雀師匠を知り、そしして志ん朝、志の輔師匠と渡り歩いて今に至ります。

 いきなり余談ですが、最近、JBLのワイヤレススピーカーを車載して、爆音で落語を響かせながら店舗廻りをしていまして、そん時に志ん朝師匠がまくらで、「落語は小咄に枝葉を付けたものだ」って言ってるのを聞きました。
 つまり”小ネタを膨らませる”っていう手法で落語が作られている――無論すべてがっていうわけではないんでしょうけど、まぁそういう作り方が落語の基本にあるんだと知って、「なるほどなぁ」と思った次第です。
 
 で、戻りますが、落語には三題噺っていうものがありまして、これは、お客様から3つお題を頂戴して、それを使って即席で落語を作るっていう――冷静に考えれば、天才じゃないとできないような芸なんですけど。この三題噺ってぇやつは面白い話を作る手法として、非常に理に適っているんじゃないかと思うんです。

 またいきなり脱線しますが、コボちゃんの作者の植田まさしさんのパソコンには、ボタンを押すとランダムで3つの単語の組み合わせができるソフトが入っていて、それを使って作品を作ることがあるそうです。TVのインタビューで見ました。あんまし使ってないって言ってましたが。まぁきっとこれは落語の三題噺を参考にされたんじゃないかと思います。

ソーメン

更年期障害

 パッと今浮かべてみました。仮にこれでお話を作るとなると……うーん、難しい。「更年期障害の犬がソーメン食ってた」ってやれば即完成ですが、流石にそれではトホホです。
 落語家さんの頭の中がどうなっているのかは分かりませんが、まぁ2つを組み合わせれば、おおよその話の筋ができます。でもこのお題が3つあるっていうのが肝心と言うかいやらしくって、3つとなるとどうしても話を大きく動かす必要がある。つまり「辻褄合わせ」をする必要が発生するわけです。
 この「辻褄合わせ」ってぇやつが、話のオチになったり、面白い部分だったりするのではないかと思います。(いかん、何故か”てぇ”て落語口調になっちまう)
 いや、こうやって書き伸ばしながら、逃げいているわけじゃないんですよ。やりますよ。


「ねぇ、犬にも更年期障害ってあるのかしら」
「なによ急に」
「いやね。うちの子もう12歳で、最近調子悪そうなのよねぇ」
「夏バテじゃないの?」
「かもしれないけどねぇ。でもクーラーかけてるから、お部屋はいつも涼しいのよ」
「ふーん、じゃあ逆にクーラー病?」
「うーん、そうなのかしら……とにかく食欲まで落ちてきちゃって、あんなに何でも食べる子が」
「へー、何でも食べるんだ」
「そ、ちなみに大好物はソーメン」
「あら、変なものが好きなのね」
「そうなの。で、そうよ昨日、さっきの夏バテじゃないけどさ、食欲が落ちてるけどソーメンなら食べるかなぁって、いえね、旦那用につくったんだけど、ちょっと口喧嘩しちゃって、『要らねぇ』って出てっちゃったから、丁度いいわぁって、うちの子にあげたの」
「食べた?」
「それが全然食べないの。あんなに大好物だったのに、どうしてかしら」
「そりゃそうでしょうとも。だってよく言うでしょ」
「え?」
「”夫婦喧嘩は犬も食わない”って」


 んぐ、結局犬がソーメン食った話になっちまったです。お後が宜しいか宜しくないかは別として――そもそも自分でお題出して答えてる時点でってことなんですけど、今作ってみた流れとしては――

 まずはお題の中から2つを選んで話の筋をつくろう。どれがいいかなぁ。組み合わせてみる。
 オチにしにくそうな更年期障害を序盤で使う方が楽っぽい。えいっもう更年期障害の犬ってことにしよう。(ちなみに、ここで繋げる2つのお題が直接的でない方が玄人っぽい。更年期障害の犬はかなり素人っぽ(;'∀'))
 残りのお題、ソーメンを意識しながら、探り探り話を展開させる。
 「犬」と「ソーメン」または「更年期障害」と「ソーメン」の共通点を見つけるために、とりあえず、犬でなんかないか考える。
 ”犬も歩けば棒にあたる”が浮かぶ、ソーメン、棒、うーん、近いっちゃ近いけど、”あたる”を食あたりの”あたる”にすれば繋がるか?いや、難しいな。
 次に犬で思い浮かぶのは、”夫婦喧嘩は犬も食わない”んー、何故かことわざっぽいのばかり浮かぶな。もっと”動物”とか”しっぽ”とか単純なワードを起点にしてもいいんだけど……まぁ”食わない”ていうワードが入ってるから、ソーメンとは結びつけやすいなぁ。
 じゃあどうして”食わない”のか、「辻褄合わせ」をしなきゃいけない。そうだ。夫婦喧嘩して夫が食べなかったから犬にやったけど”食わない”、これで一応つながる。言葉遊びになってるのが、三題噺の主流なんだけど、こういうパターンもありっちゃありだし。
 まぁ厳密にいえば犬が食わないのは”夫婦喧嘩で残ったソーメン”であって”夫婦喧嘩”じゃあないわけで、ちょっと無理があるけど、ま、いいか。ええい!

 てな感じで作りました。「3つの異質なお題をつなげる」という負荷が掛かっていると、否応なしに、話にダイナミズムが生まれるわけです。
 詩を作る時もそうで、「星」「涙」「空」とかだとそりゃあそれっぽいのが簡単に作れますが、「星」「涙」「自転車」とか、少し毛色の違う単語を混ぜたほうが、展開が面白くなります。
 僕の場合、それを更に極端にして、「星」「涙」「おでん」とか、成立しそうにないものでなんとかしようとすることが多いです。離れていればいるほど、つまり異質であればあるほど、成立させたときに話が面白くなるような気がします。また作後の達成感も大きいです。
 例えば、おでん座を見て涙を流す男、とか……なんやねん!おでん座って!あ、元カノと二人、コンビニのおでんを公園で食いながら、「彼女が、ねぇねぇあれ、おでんに見えない」って夜空の星を指さす。別れて一人、コンビニのおでんを食いながら夜空を見上げあの頃を想い、みたいな……上手くやれば泣ける展開になりそう?

  以上、あくまで自分用の覚書です。何となく考えていることを言語化して、スランプの時に反芻しようと――これが正解かどうかは分かりませんし、あまり参考にはならないとは思いますが。

 ちょっと長くなったので、ここまでに。
 本当はアシモフとロードレアモンの話もしたかったんですが、次回に回します。

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