2分30秒小説『主題歌』

「おいお前!ルフランを見なかったか?」
「ルフラン?何の?」
「魂のに決まってるだろ!こっちに来なかったか?」
「ああ、魂のルフランならその角を曲がって行ったよ」
 礼も言わずに男が駆け出す。角を曲がり消える。暫くして。
「もういいぞ」
 ビルの隙間に話しかける。女が出て来た。辺りを伺い。
「有難う。助けてくれて」
「礼には及ばないその代わり、な、分かるだろ?」
 男の口元が歪む。
「俺の魂を震わせてくれ」
「……それは出来ません」
「どうして?」
「……」
「よし、分かった。じゃあ大声で叫ぼう『ここにルフランがいるぞ』って、そうすればさっきの男が戻って来てお前を――」
「分かりました、でもどうなっても知りませんよ」


 野次馬を掻き分けコートを着た男。
「警部補!」
「ガイシャは?」
 人垣とロープの中心点に男の死体。
「10分で鑑識が来ます」
「ルフランの仕業だ」
「え?何故わかるんです?」
「魂が粉々になっている。署に戻れ、対策本部を設置するぞ」

 車に乗り込む。深いため息。コートに手を入れ煙草を探る。
「動かないで」
 ルームミラーを覗く、後部座席に女。
「誰だ?」
「ルフランよ」
「魂のか?」
「教えて魂以外のルフランなんて聞いたことある?」
「俺を殺す気か?」
「聞いて!私は無実。脅されてあの男の魂を震わせた。でも死ぬほど震わせてはいない。あの人が勝手に震えて死んだの」
「詭弁だな」
「信じて私は――」
「分かってる。すべて知ってるんだ。お前はルフランなんかじゃない。ルフランのふりをしているだけだ」
「……」
「お前の正体は、残酷な天使のテーゼだ!テーゼなんだろ?違うか?」
「……」
「どうしてテーゼがルフランのふりをしている」
「行くわ」
「逃げるのか?」
「そうよ」
「何から逃げている」
「私の中に巣食う残酷な天使から、私はただのテーゼでいたいの」
「俺が守ってやる助手席に移れ」
「嫌よ」
「良いから早く。今から原作者の所に行く。原作者ならきっとお前を助ける事が出来る」
「原作者……」

 女が車を降り、助手席に乗る。
「どうして私を助けてくれるの?」
 男は無言で女を見つめ、シフトレバーを握る。女の手が重なる。
「目を閉じて」
 女が顔を近づけ、口づけをした。

「ありがとう。でもさようなら。このままでは、私の中に居る残酷な天使がきっとあなたを殺してしまう」
「待て!君の中に居る天使は残酷な天使なんかじゃない」
 女の口元が歪む。
「残酷じゃない天使なんて……この世界には存在しない。それが私のテーゼ」
「行くな!きっと俺が君を――」
「気付いて、あなたの背中にも羽はある。いや、貴方だけじゃない。すべての人の背には羽が――」

「テーゼーーーー!」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?