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4分10秒小説『ざくれろ』

「私、開発担当の――」
 名刺を奪い取り、爪で弾いた。ひらひら床に伏せる。
「自己紹介は要らない。納得がいく説明をくれ」
「はっ、では早速ですが――」
「待て。重ねて言っておく。納得がいく説明をくれ。弁明は要らない。続けろ」
「はっ、では機体の性能をかいつまんでご説明致します。型式番号MA-04X。高い推力を活かした一撃離脱戦を目的とする宇宙戦用試作型モビルアーマーです。各部の説明に移ります。こちらの図を見て頂ければお分かりだと思いますが、まず目につくのは本機の最大の特徴である大型の推進装置です。新開発のこの推進装置は最大出力――」
「細かい数字は要らない」
「はっ」
「続けろ」
「はっ、えー、あ、この推進装置により対モビルスーツ戦に於いては圧倒的な機動力の差で有利な立ち回りを可能とします。次に目に付くのは左右に2本配置されたマニュピュレーター及びヒートナタです。こちらは近接線での主力武器となります。機動力を活かしてすれ違いざまに一撃を与えて離脱するといった戦い方を想定しております。えー、次に目につきますのは、機体の前方に備え付けられた拡散ビーム砲です。これにより広範囲の打撃を可能とします。高い機動性で奇襲し、点ではなく面の打撃を加えることで、高い確率で対象へダメージを負わせることが可能です。えー、次に目に付きますのが、両脇あたりに4連装ミサイルランチャ――」
「目につかない」
「はっ?」
「さほど目につかないんだよ君の言ってる機体の特徴とやら。今戦局は重大な局面を迎えている。連邦の開発した新モビルスーツは地上戦だけでなく、宇宙船においても驚異的な性能を発揮し、わが軍の兵器を破壊し続けている。失敗は許されない。遊んでいる暇はない。ゆとりもない。公国の民の未来を――少なくともその一端をこの機体は担っている。いいか?君の大事な人達、君の家族、知人、友人、すべての人の命に関わるのだ。この機体の開発がね。それを踏まえたうえで問おう。この機体は、君がデザインしたのかね?」
「はっ」
「さっきから『はっ』が多い。”はい”か”いいえ”で答え給え」
「……はい」
「なんで?」
「はっ?あ、すいません。質問の意味が――」
「どうして遊んだ?」
「遊んだ?」
「聞き方が悪かったかな?では、言い直そう。どうしてふざけた?」
「え?『ふざけた?』とおっしゃいましたか?ちょ、少し、え、お待ちください。そんなつもりは毛頭ございません。私は――」
「試作機だからか?」
「いえ、違います。聞いてください。この機体のデザインには多くの若者の意思と希望が込められております」
「くだらん言い訳はよしたまえ、君はヨッフム家の資金を無駄に使った。自分の趣味を満たすために、君は――」
「違います。この機体のデザインは、公国に住まう10歳以下の子供達を対象に公募し、1,800,940,397の票により選ばれたデザインなのです!この機体のデザインが意に適わないというのであれば、自分は謹んで処罰を受けます。でもこれだけは言わせてください。この機体は、未来の兵士となる子供たちの望む形なのです」

 長い沈黙。

「だとしても――と言いたいところだが、そうか、そういった経緯でこの機体のデザインが決まったという事実に対しては、一定の理解はした。だが一つ訂正し給え」
「はい」
「”未来の兵士となる子供たち”、そんな言い様は許さん。”子供たちが兵士にならなくてよい未来”と言い直し給え」
「はっ」
「……」
「あ、すいません」
「ふふっ、構わんよ。開発を続けろ」

 **********

 こうして型式番号MA-04X、通称ザクレロの開発は続けられたが、機動性が悪かったため開発途中で廃棄が決定。テストパイロットのデミトリーが仇討ちのために独断でこれに乗って出撃。ガンダムを相手に、その優れたスピードで翻弄して何度かダメージを与えるが、ビームサーベルを突き立てられ爆散した。

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