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7分20秒小説『タカネットジャパタ』

「さて本日最初にご紹介いたしますのはこちらの商品、丸丸社製電子辞書、『Siriたい蔵』です」 
 深夜の通信販売番組。司会者は通販会社の社長。立て板にしゃーしゃー商品の特徴や支払いプラン、購入特典などを語っている。

「見てくださいこのボデー。ちーさいでしょう?この小さなボデーになんと和英辞典、英和辞典、国語辞典、漢和辞典、仏語辞典、独語辞典、などなどたくさんの辞典がぎゅーと詰め込まれているんです!」
 手のひらに乗せた電子辞書をカメラに向けやや前かがみの姿勢。目線はカメラと電子辞書をいったりきたり、口角泡を飛ばし。

「驚くのはまだまだ早い。この『Siriたい蔵』には、今までの電子辞書に無かったすんごい機能が付いているんです。それは音声認識機能!話しかけるだけで自動的に音声を認識して知りたい内容を画面に表示してくれんです。ちょっとやってみましょう」
 手招きされ、若い男性が横に付く。

「では山下君。何でもいいから『Siriたい蔵』に話しかけてみて」
「分かりました。では――」
 電磁辞書に「青天の霹靂」と話しかけると、画面に「A bolt from the blue」と表示された。
「どうです!すんごいでしょ!じゃあ山下君もう一度なんでもいいからしゃべってみて」
「はい、では……『娘さんを僕にください』」
 画面が反応しない。
「山下くーん。だめだよちゃんと『Siriたい蔵』に向かって話しかけないと。もう一度」
「娘さんを僕にください」
「山下君!僕のほう見ながらしゃべっちゃ駄目。もう一度『Siriたい蔵』向かって――」
「娘さんを僕にください!」
「山下君?」
「社長!お願いです!娘さんをください。貴子さんを――娘さんを僕にください」
「山下、お前――」
 社長の表情が強張る。『Siriたい蔵』が音声を認識し画面に――

 Give me your daughter.

「山下、生放送だぞっ」
「分かっています社長!どうしても貴子と結婚したいんです。どうか僕たちの結婚を認めてください」

 Please accept our marriage.

「ちょっとカメラ止めて、え?止めれない?山下、お前いくらなんでも生放送で結婚を認めろとか、そんなお前――」
「社長お願いします」
「ふ、ふざけるなー」
 社長の怒り爆発。さっきまで大事そうに手に乗せてい電子辞書『Siriたい蔵』を力いっぱい床に叩きつける
「山下ー!どういうつもりなんだ!一体!生放送中になんてこと言い出すんだ。視聴者の方々に失礼だと思わないのかー?」
 社長の剣幕にたじろぐ山下、ちらりと横目で『Siriたい蔵』を見る。
「心配するな山下、『Siriたい蔵』はメーカーによるハードな落下試験をクリアした対衝撃構造になっている。いつからだ?いつから娘とつき合っている?」 
 山下が時計を見る。
「バックライト機能付きで暗いところでもよく見える。エセコー社製腕時計BLT-24。限定1000台今なら分割手数料はすべて当社が負担します!実は今日でちょうど丸3年です社長」
「3年?BLT-24の保障期間と同じじゃないか――メーカー保障期間は1年だが、当社独自のサービスで2年間無償で延長した保障期間と」
「社長、お願いします。もう婚約指輪も買っているんです」
 山下がポケットから小箱を出し、開ける。
「そ、それは創業70年銀座に本店を構える老舗、宝石貴金属のマツ屋のプレミアムエンゲージリング――おしげもなく豪華にちりばめられたダイヤモンドが二人の愛を末永く見守ります――じゃないか、現金で買ったのか?」
「いえ分割で」
「じゃあ分割手数料は?」
「はい、もちろん弊社が負担します」
「『弊社が』じゃない!私の会社だぞ!」
「す、すいませんつい――」
「まさかお前、式の日取りも決まってるとか言い出すんじゃないだろうな?」
 山下、背広の内ポケットから手帳を取り出す。
「そ、それは?」
「はい、コンパクトサイズでもあなたのビジネスライフをしっかりサポートしてくる『多機能システム手帳リフィール』です。大安仏滅もばっちり分かる優れ物ですが、式の日取りまではさすがにまだ決めてません。お願いします。僕達の結婚を認めてください。必ず貴子を幸せにします。そしてふたりいつまでも偕老同穴のごとく添い遂げますから」
「ちょっと待て」
 社長は『Siriたい蔵』を拾い上げ――
「『偕老同穴』……一回の充電で12時間以上稼動するスタミナバッテリー搭載だから使う場面を選びません。『いつまでも添い遂げる』と言いたいんだな?貴子は――貴子はお前のことをどう思ってるんだ?」
「見てください。撮ってすぐ観たい!そんな貴方におすすめなのがこのビデオカメラ、『シャーラップ製VDO-5』です。社長、貴子さんからのメッセージが入っています」 
 山下からカメラを受け取ると画面を覗き込む。
「液晶が大きいから確認もスムーズ!そして動画を再生中に――このボタンを押すと、ほら!このように気に入った場面を静止画にすることもできます――貴子」
 液晶画面から聞こえるセリフ――今まで育ててくれてありがとう、二人で幸せになります。
「山下」
「はい社長、僕達の結婚、お許し願えますか?」
 社長はポケットから一枚の紙を出し山下につきつける。
「調べたよ。お前のこと、お前、犯罪歴があるじゃないか!」
「ど、どうやってその書類を?」
「細かい文字までばっちりスキャン!『富士痛スキャンナップ2020』ならどんな書類もあっという間に電子化できる。そしてメールもできちゃう『万能ファクシミリfaxU』を使えば電子化した文章をメールで送ることもFaxとして送信することも自由自在だ」
「社長、自分がこうして立ち直れたのも貴子さんの支えがあったからなんです。確かに私は、世間様に顔向けできないような罪を犯しました。でも貴子と二人で私は――」
「黙れ!お、お前なんかに娘はやれん!貴子を産んですぐに他界した妻もきっとそう言うはずだ!男手一つで貴子を育ててきた私の気持ちが、私の、うう、私の気持ちが、お前に分かってたまるか!」
 そう言って社長は包丁を手に取る。
「どんなお肉もスパッと切れる超高級ステンレス製穴あき包丁、最新の合金を伝統の鍛冶製法を基に造り上げた至高の一振り!、貴子をお前にやるくらいなら、こいつをお前で実演してやる」
「しゃ、社長、落ち着いてください。どんな高い枝もスパスパ切れる。防錆加工でいつまでも切れ味そのままに、高枝切りバサミのご紹介です。今なら更にもう一つ付いてきます」
「山下ー!」
 社長は穴あき包丁を小脇に構えると山下に突進していく。

 …………

「や、山下」
「社長」
 高枝切りバサミが社長の胸に深く刺さり辺りは血の海。
「うっかりこぼしても慌てないで!そんな時にはコレ!なーんでも吸い取っちゃうスポンジタオル――」
「いいんだ山下、ああ、貴子の、貴子の花嫁姿が見たかった」

 がく

「こーんなドラマ。どうせなら大画面で楽しみたいですよね。今日最後にご紹介するのはこちらのテレビ!迫力の80インチ4K液晶テレビ、『アクメス80hd』です。ほら観てください。細かい血しぶきの一滴一滴までくっきり映っているでしょう?」

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