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オードリー若林さんが解き放った「没入」への渇望とは?

「『イノセント』な部分が出て、相手もそういう『ゾーン』に入った時って、時間の感覚とかなくなったりとか。まぁライブが多いんですけど。そういうことを心待ちにしてるって言うか、基本はそこ軸なんですよ、俺は」

「なんかもうそればっかり。その『イノセント』の時間というか空間、『ゾーン』ばっかりですね、目指してるのは」

「藤沢周さんっていう小説家の方が大好きで、スケボーの小説を20年前に書いたことがあるんですけど、『オレンジ・アンド・タール』っていう。スケボーでジャンプしている少年が主人公なんですけど、ジャンプしてる瞬間だけ"シャー"ってタイヤの音が消えるんですよね。そういう時『世界から一時停止されてる』っていう表現で書いてたんですよ。そういう瞬間を心待ちにしてるから、春日とのラジオもそうだし、今日もそうだし、それだけを考えてるから、天下を取るとかそういう退屈な話はやめてって」

若林さんの2021年のハイライトであった星野源さんとのオールナイトニッポンの終盤、星野さんが披露した『イノセント若林さん』という若林さんの階層解釈を機とし、若林さんが差し出した『イノセント』『ゾーン』『世界からの一時停止』

現実世界の感覚から切り離された超越的な時間への「没入」、それこそが人生における喜びであり、生きる意味であると捉える価値観に対し、星野さんからの強い共感を得られた若林さんは喜びに震えていた。

思考の軌跡と辿り着いた解釈への覚悟を言語化することにより、数多の心に救いをもたらしてきた若林さん。

若林さんが新たに言語化した根底から湧きあがる「没入」への渇望こそが、人を悩みや葛藤から解放し、人生を謳歌する力強い指針となるはずだ、とまた違う断面を見た感覚に襲われた。

誘なわれるユートピアとは?

人は「状態」を追い求める。
・お金を持っている状態
・社会的に認められる地位にいる状態
・家族や友人に囲まれている状態

誰からも羨まれる「状態」により、人は経済的・社会的・心理的な安全を享受し、承認欲求を満たされる。

一方で、より多くのお金、より高い社会的な地位への欲求は尽きることはなく、無慈悲な「状態」欠乏症は一時も心を休ませてはくれない。

そんな「状態」至上主義へのアンチテーゼが「好きなことやろうぜ」であり、人としての幸福は「状態」ではなく「行動」によって形作られると説く。

他己から完全に切り離した自己評価にのみに依拠した「行動」により、誰しもが幸福感を手に入れられると希望を掲げる「好きなことやろうぜ(ユートピア)」

その理想郷に誘なわれた人の多くは、「自分だけの」と刻印した「好きなこと」評価軸のスクラップ&ビルドに明け暮れる。

その手作りの建造物は、環境変化と短期的な結果により脆くも決壊し、崩れ去った瓦礫の下でふと想いに耽る。

「そんなもの(好きなことの評価軸)存在しないのでは、、?」

なぜ「没入」への渇望が救いなのか?

「好きなこと」を評価軸から炙り出そうとするアプローチ自体がロジックの存在を前提としているが、そもそも「好きなこと」にロジックなど存在しているのだろうか?

漫才、ラジオ、日本語ラップ、3ポイントシュート、ミニ四駆、etc.

若林さんの解けない「好き」のn次元方程式だけでも、「好きなこと」へのロジカルな登山を止めろ、と喚起する立て看板となる。

また、ロジカルに「好きなこと」を導き出さんとするプロセスでは、必ず「状態」を求めるエッセンスが練り込まれてしまう。

その「行動」が好きなのか、「行動」の先に待つ「状態」が好きなのか、を理性的に判断するのは至難だ。

「好きなこと」はDNAレベルの衝動であり、「好きなこと(青い鳥)」の所在を記す地図はなく作ることも叶わない。

各々が無意識的に通り過ぎてきた超越的な時間への「没入」、それこそが青い鳥の嘶きであり、刻まれたその記憶への回想こそが、青い鳥を辿る唯一最善のプロセスとなる。

若林さんが満を持して解き放った「没入」への渇望は、人を無為な青い鳥探索の旅から解放する道標となると共に、人生に無二の高揚を再インストールする作用を齎す。

天下という「状態」ではなく、刹那的な「没入」を渇望し続けてきた若林さんは、現代価値観の代表的変容である「状態」から「行動」へのシフトを追わんとする前向きで盲目的な集団に対し、これ以上なく抽象的で絶対的な指針を差し出した。

決して他己評価に侵食されず、己の本能と向き合い続けてきた結果、意図せずとも時代を先んじ、社会の行く先を歩む若林さん。

若林さんが人の心を救うのは、同じ道(苦悩)を歩んできたことへの共感と言語化された人の生に対する解釈と覚悟、そして人が迷い戸惑いながら佇む分岐路の遥か先から語りかける背中(未来)だ。

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