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【 自作小説投稿 】「奇妙な音」

 今日は大学の友人と飲み会があったのだが
、いまいち雰囲気になじめずに早々と切り上
げて下宿に戻ってきてしまった。私は何か一
つでも気にかかるようなことがあるとすぐに
周りの雰囲気から外れてしまうため、他の人
の迷惑にならないようにと思う故にその場に
いられなくなってしまうのだ。自分でも損な
性格だと思っている。でも生まれ持っての気
質なんてどうしょうもなるものじゃない。そう
自分に言い聞かせながら洗面所で顔を洗った。

 「醜い生き物が目の前にいる‥‥」

 私はふと自分の眼差しが恐くなったのか、
そう呟くと鏡から眼を背け狭い部屋の真ん中
で横になった。気付くと開け放した窓からシ
トシトと私を責めるような音がしていた。

 「‥‥雨、降ってきたな。」

 確かに天気予報でそんなことを言っていた
ような気はするのだが、とにかく雨が降って
いたのだ。身を切り裂くようなものではない。
が、確実に私を侵食していくような穏やかな
雨の音。心の中に何かがよぎる気がした。

 私は布団もひいていない絨毯の上に横たわ
り、一人何もない白い天井を見上げていた。
眼前にある眩し過ぎる蛍光灯の明かりは私の
心に重圧を与えるには充分な力を持っていた。
目を開けていられない。私は蛍光灯を消して、
オーディオの音を付ける事もなく、ただ窓か
ら流れこむ夜の光にのみ照らされながら時間
が経つのを待つしかなかった。

 ふと目をつぶる。外から聞こえて来る音と、
肌で感じる微かな風の流れだけが私の感覚を
支配していた。聞こえて来る、私をなじる虫
の音。私を罵るささやかな雨音。日々の暮ら
しの中、周りの視線に怯える自分がここにい
る。人となど交わりたくない。このまま何も
見えないまま生きる事を止められたら、まだ
ずっと幸せなんじゃないだろうか。そう思い
ながらも、まだ暗闇が与える恐怖の方が勝っ
ているから、目を開けてるんじゃないだろう
か。耳の奥に棲む小虫が不愉快さ以上の恐怖
を私に与えたように。

 「雨、強くなってきたか‥‥」

 雨水が跳ねてきて部屋が濡れてしまう程
じゃないが、秋の心地よい涼しさの風が大分
湿ってきていたので、窓を閉める事にした。
私は再び絨毯の上で横になって、自分の中か
ら聞こえる音に怯えながら眠る事にした。

 さっきから聞こえてきた耳鳴りは、
まだ止まない。


(1999年執筆)
見つけられた誤字脱字のみ訂正。
漢字変換無しなどは当時の自分の
判断を尊重しそのまま残しています。

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