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【読書記録】私の男

※まだ読んだことない方は、是非、先入観なしに一読してみて欲しいです。 

 伏線らしい思わせぶりな布石や設定をぶん投げて許されるのは、ホラーとコメディの特権だと思っている。淳悟はどこに行ったのか。田岡の死体はどこへ行ったのか。また、見つからないのか。花と淳悟が去ったあとの紋別では何があったのか。花はこれから幸せになれるのか。美郎は父親と和解できるのか。その観点からすると、『私の男』はホラー小説だった。

 花が結婚する25歳から、淳悟に引き取られる9歳の頃に遡っていく構成。如何にして血の繋がった親子でありながら離れて暮らし、9歳になって一緒に暮らすようになり、肉体関係を持ち、花が結婚し、ふたたび2人が離れ離れになったのか。遡及的に明らかになっていき、どんどん救いのなさがあらわになった。

 近親相姦的な小説と取ることもできるが、精神分析的な小説と取ることも出来る。私は後者と取っている。

 父親を異性として愛している花は他の異性とも恋愛し結婚することが出来たのに対し、娘を母や"人形"として愛した淳悟は黙って花の前から居なくなるしかなかった。読み進めれば読み進めるほど、花が一方的な被害者ではないどころかむしろ、加害をしているようにすら読める。

 いくら奪っても奪い切れず、また自分も満たされることがない。父親のような異性から愛されることは、異性から母として愛されることでは満たされない。どうしようもない不可能性から脱却する唯一の手段が結婚、即ち父親との別れであることを、花は無意識的によく理解している。

 決まりきった答えに向かう道中が、ドラマチックに描かれていた。いちいち不道徳だとか非倫理的だとか、そういった社会通念に照らした批判をすることが野暮だと思わされるほどに緊張感のある生々しさで、花の成長がその内面とともに現出していた。

 ストーリー展開の面白さではなくて文章を味わう読書がなかなか板についてきて、最近では楽しめる作品の幅が増えて来て嬉しい。これまで苦手だった不道徳系も読んでみたい!『私の男』、読んだ方はぜひ感想を教えてください!


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