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夜といつまでも

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夜といつまでも 最終話

「まひる、僕はね強く生きたいと思う」
そう言ってヨルはネクタイを緩める。電車は終点へ。たどり着いたのは見知らぬ海辺の街だった。
「この写真と同じだ」
ヨルは胸元から一枚の古びたポストカードを出した。
「父さんも母さんも僕の過去を語らない。ただ昔一回だけ小さな頃この街に住んでいたんだよ、って教えてくれたんだ」
それでもそこはヨルと僕にとっては知らない景色で、これからどこに行こうかと半ば途方に暮れてい

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夜といつまでも 第五話

過ぎてしまえば短かった夏休みが終わった。残暑の風に秋の気配、今日もヨルと学校から一緒に帰る。
「まひる、背大きくなったね」
ヨルに言われるまで気がつかなかった。そう言えば制服のズボンの丈が短くなった気がする。
「僕はもう大きくはならないのかな」
もう高校生と言っても通用しないくらい、ヨルの背は大きかった。
「まひると同じ服、着てみたかったな」
着ることのなかった学生服。同じ速度で生きられない僕とヨ

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夜といつまでも 第四話

真夏の雨は空があまりにも暗くて少し怖い。あ、雷が何処かに落ちた。ヨルはその度に怯え、僕を見る。今日も僕はヨルの部屋に遊びに来ていた。ひまわり畑で写真を山ほど撮ったヨルは僕と写真を組み合わせて絵描いている途中。
ヨルの絵が好きだ。僕だけじゃなく他のものも描けばいいのに。鉛筆を進めるヨルをからかうように、また雷が何処かに落ちる。その瞬間、停電だ。ヨルの悲鳴、僕は大丈夫だよとヨルに言ったのに、彼は暗闇の

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夜といつまでも 第三話

夏休みだ。
今日もヨルとふたりきり。僕の部屋はクーラーがないからヨルの部屋で遊んだ。学校がないときのヨルはすこぶるご機嫌だ。
「ねぇヨル、せっかくの夏休みだよ。何処か遊びに行こうよ、プールとかさ」
読み飽きた漫画を放り投げながらヨルに問う。
「えー、プールはやだ。ひとがいっぱいだ」
あの事件以降、ヨルの人見知りはさらにすすんだようだ。僕や家族といる時はこうやってたくさん話だってするのに。
「じゃあ

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夜といつまでも 第二話

夏休み目前、僕とヨルの通う中学校は毎年初夏に文化祭がある。僕のクラスは美術館。みんながそれぞれ描いた絵を飾るんだ。絵といえばヨル。先日見せてくれた絵の他にも、ヨルはたくさんの絵を描いている。僕は絵に関しては素人だけど、彼の絵は決して下手ではないと思う。
「ねぇ、ヨルも文化祭用に絵を描いてよ」
文化祭、という言葉にヨルはビクリと怯えた。
「そんな、怖いよ、まひる」
「別にほかの子と共同作業をしろなん

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夜といつまでも 第一話

ヨルの話をしようか。
桂木ヨルは僕の10歳年上の幼なじみだ。
なんで10歳も歳が離れているのに幼なじみかって?それはね、ヨルは10歳で記憶を失い、当時生まれたばかりだった僕と同じ速度で一緒に生きなおしたからなんだよ。
その当時のことはもちろん僕は知らない。それでも隣の家で一緒に成長していく僕達は他の誰よりも仲良くなった。
まひる、とヨルが呼ぶ。僕の名前、橘まひる。
僕の幼い頃にヨルは声変わりをした

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