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包容力


10年あったら財をなせるぜ 10年あったら財をなせるぜ ベイベー


リビングでうーさんがギターを弾きながらPOPに歌っている。


「なに、その歌」


オレは賢くなれない オレは賢くなりたくない

でも財は成せるぜ 財は成せるぜ ウォウ ウォウォー


(めちゃ満足げに歌ってるやん)

「はい、コーヒー淹れたで」

「ありがとう」

「今の、何の歌なん」

「ええやろ、なんか急に降りてきてん」

「あほちゃう」

「なんでよ、ええやん」

「財を成すってどういうこと」

「財を成すというのはやな、写真を撮る時なんぼでも好きなだけシャッターを押せるということや」

「はあ?」


うーさんはフイルムで写真を撮るのが好きだ。

デジカメと違って、現像に出して戻ってくるまでどんな写真が撮れているかわからない。その偶然性と自分の意図とが重なる1枚に出会えるかもしれない。そういうバクチのような感覚に惹かれるらしい。


「オレな、ほんまはもっとシャッター押したいねん。でもいっぱい押したらその分現像代かかるしフイルム代もかかるやん。だから厳選してシャッター押してるねん」

(へえ、知らんかったわ)

「金に余裕あったら、そんなこと考えんと好きなだけ撮れるやん」

「そやなあ」

「オレまだ36才やし、10年経っても46やろ」

(そらそうや)

「46才で財を成せたら、充分やと思わん?」

「そうやなあ」


「あんな、私絶対いっつも右のパッチだけ上がってくるねん」

(⁉・・・突然やな)

「ほら、このスウェットの下に履いてるやつ」

「ああ、ももひきな」

「左は上がらんのに右だけいっつもずり上がってくるねん、膝の下のところまで。寝ててもやで」

「へー」

「なんでなんやろ」

(知らんわ。ていうかオレの話どこ行ってん)

「ゴム緩んでんちゃうん」

「右だけ?だってどのパッチ履いても右だけ上がってくるんやで」

「ああそう」(知らん)

「なんでなんやろうなあ」

(知らん)「そやなあ」


「ねえ、散歩行く?」

「・・・ええよ、どこ行くん」

「うーん、そやなあ、どこ行こ。どこがいい?」

(ええっ⁉決めてないんかい)


「昆陽池公園でも行く?」

「うん、行く」

「ほな行こか」





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