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婚活マンガで婚活について学ぶ

本でも映画でも恋愛モノはどちらかというと苦手で、結婚願望をもった試しはないが、なぜか実録の婚活マンガは楽しく読む。
人間の本音の願望と必死な姿が描かれているからだろうか。
だいたい婚活マンガを描くような人は、ナチュラルにスムーズに結婚できなさそうなタイプであり(偏見だったらごめんなさい)、読み物として成立させるには、読者に気まずさを感じさせないレベルでの自虐ギャグのキレが問われる。
その綱渡り的な緊張感から醸される笑いがたまらないからだろうか。
目標がはっきりしていて、あの手この手でレベル上げして攻略を考えていくのが、ゲーム感覚で楽しめるからだろうか。
避けて通れない内省、さまざまな相手候補、助言をくれる友人たちの事例に触れて、人間観察の好奇心をくすぐられるからだろうか。

そんなわけでいろんな婚活マンガを読んでいると、たいていは作者が結婚して(つまり成功して)終わる。
この人はヤル気が薄そうだ…、この人は要求が特殊すぎる…、この人はそもそもネタ枠だな…などなど、無理っぽそうに思えていた作者たちに、思わぬ出会いが訪れるのだ。
これは、リアルタイムで読んでいると、なかなかに感動する。
求めよ、さらば与えられん。
人生の先に何が待っているかなんて誰にもわからないのだ、もしくは、出会うべくして出会う二人でも実際に出会いが起きるまではそれをまったく予見できないのだ…と、閉塞した未来を打破する可能性を感じさせてくれるからかもしれない。
そんなわけで、印象に残っている何冊かを挙げてみる。

『再婚一直線!』(2005)
『再婚一直線! 寿編』(2006)
安彦麻理絵/祥伝社

離婚直後、4歳の娘あり、深酒と化粧品のバカ買いがやめられないマリエ(35歳)が、再婚めざして花嫁修行に励む。
実の母親(山形在住)からも応援してはもらえない。

アンタみたいな「年増でバツイチで子持ちでマンガ家の女」なんて!!
再婚相手の両親さ どーゆう顔して会えばいいなや!?
再婚なんてとんでもねえ!!
そんな相手もし万が一現れたら その人の親御さんに申し訳ねえ!!

そんなマリエが、肉じゃが作り、編み物、ベリーダンス、日本舞踊、恵方巻き、アイススケート…などなど、役に立つのか立たないのか謎の修行に邁進するさまは抱腹絶倒!
読んだあと、つい日常のあらゆる場面で「バイ〜〜ン」という効果音をつけたくなってしまうこと必至だ。
回転寿司形式のお見合いパーティなんてのも昔懐かしい(コロナ禍ではまったく無理になっただろう)。
そして2冊目のタイトルが示すように驚きの再婚を遂げるのだが、ずっと伴走してきた編集者のぶえをはじめとし、個性的な友人たちと本当に仲良さそうで、きっと一緒にいるとすごく楽しい人なんだろうなぁ。

『結婚しないと思ってた オタクがDQNな恋をした!』(2012)
カラスヤサトシ/秋田書店

オタク趣味に没頭する非モテ独身生活が芸風だったはずのカラスヤサトシが結婚したときは、当時それなりに話題になったと思う。
連載が始まったころは35歳、編集部からもちかけられたお見合い企画で、ネガティブや挙動不審、夢みがちな女性への理想などを爆発させててかなり笑える。
やってることもだんだん迷走していき、編集K嬢に連れられて夜の井の頭公園でカップルを覗き見してイメトレしたり、催眠研究所を訪ねたり、セレブ不動産を内見してイメトレしたり…。
なかでも、ホラー漫画の巨匠である伊藤潤二と対談して、遠距離恋愛してた話などを聞いてるのが個人的にはハイライト!
そうこうするうちに、ひょんな出会いをした10歳下の女性と、あれよあれよと同棲してデキ婚に至るのである。
努力してた部分とは関係なさそうにも見えるが、やはり異性に対して奥手な状態のまま閉じこもらず、マインドセットを変えたことから引き寄せた出会いなのか。

でもまぁいいんじゃない? 男女問わず人間なんてきっと
30年連れそっても分かんないことばっかですから!

連載中盤での編集K嬢のセリフだが、真実を突いてる気がする。
実際の結婚相手は、趣味嗜好も交友関係もまったく重ならないタイプだったのに、会ったその日から一緒に暮らすことになった。
理想の相手や結婚について考えすぎると身動きとれなくなってしまうが、ふっとした偶然や衝動に身をまかせて心を開くことで、自分の世界や未来も大きく開くかもしれないのだ。

『31歳BLマンガ家が婚活するとこうなる』(2012)
御手洗直子/新書館

ひきこもりのBL大好きマンガ家が、6年つきあった彼と別れたのをきっかけに、婚活に取り組む。
さっそく婚活サイトに登録し、条件「年収1千万円以上」で次々と現れるヤバいデート相手列伝が面白すぎる!
その条件を外したとたん、「チャンネルを切り替えたかのように」まっとうな素敵男子たちと会えるようになった…という事実も深い。
描き方が面白おかしいからまったく嫌味はないのだが、最終的に振り返ると、使ったのは1つのサイトだけで、ずっと「誰を選ぶか」という立場にいて、みごと目指すゴールに到達したのだから、実は魅力とバランス感覚を備えた“できる”人なんだろうな。

『31歳ゲームプログラマーが婚活するとこうなる』(2015)
御手洗直子/新書館

次は、上記のBLマンガ家と結婚した相手側の話。
女性は婚活サイトに登録すると、1晩で100通、3晩で300通のメールが届き、ひたすらその処理に追われることとなったが、男性のほうは1カ月のあいだスパムやサクラ以外、ほぼメールも返信もこなかった…という恐るべき非対称。
一般的に熱心に婚活しているのは女性というイメージが強いが、こういうことが起こるということは、言わないだけで人数自体は男性のほうが多いんだろうか?
なんとかデートの約束までこぎつけても、待ち合わせをすっぽかされること多数。
つらい…つらすぎる!
それでもメゲずに努力を重ねていくのだが、その過程を笑えるマンガに昇華してくれる女性と結婚できたわけだから、本当に良かったね~~~と祝福の涙を禁じ得ない。

『合理的な婚活』(2017)
『合理的な婚活 成婚編』(2019)
横嶋じゃのめ/集英社

「三度の飯よりBLが好き」という29歳女性だが、平日昼間はがっつり広告営業の仕事をしている人なので、行動力や社交性の高さがすごい。
会社勤めしてオタク活動して婚活スケジュールこなして、さらに婚活マンガの連載を同時進行させてたというから、そのパワーだけで恐れ入る。
そしてアプリを使って会う人会う人よさげな感じで、すごく楽しそうだ…。
どんな人と出会っても、相手の個性や面白さを見つけ出していく、という人柄の良さが感じられる。
しかし、「子供いらない、お互い経済的に自立、なんなら別居」という条件をはっきり掲げていたことで、周りの人や読者からいろんなこと言われたらしくてブチギレてもいる。
人の価値観はそれぞれで、その責任も本人が負うわけだし、公序良俗に反してもいないのに、とやかく口出してくる他人がそんなにいるのか…。

婚活中の方に
声を大にして言いたいのですが
自分の「幸せのビジョン」に
確信があるなら
誰になんと言われようと
絶対にそれを追求するべきです

自分が何を求めているか内省し、妥協ということをせず、はっきりと言葉にして考えて問題点を把握する。
「一点でも曇りがあるなら結婚なんてしなくていい」とまで言い切ってたのに、ぴったりとしか思えない相手とちゃんと出会うのだから、世の中ってやつは案外、懐が深いんだな。

まとめ

こうやって並べてみると、時代による婚活手法の変遷も興味深い。
だいぶ詳しくなったな。
自分で実践はしないけど(とてつもなく面倒くさそうというのもよくわかったし)。
コロナ禍のなかでは人と出会うという概念も激変してしまったが、今やアプリで知り合うのも当たり前なので、現在も新たな婚活ドラマがあちこちで進行中なのだろう。
男性視点や、40~50代、さらに60代以上と幅広い年代パターンのも、もっと読んでみたいものだ。
同性婚も早く認められるようになればいいと思う。

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