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上り坂になりましょう殺人事件

「よく来たなぁ」
「はじまりました、上り坂になりましょう、今日も元気な上り坂メンバーで~す」

噛んでないとギリ言えるとこで着地を決めたナカバヤシさん
そんなことをよそに、カメラは、メンバーへと切りかわっていく
今日のメンバーはジャージ姿、運動系の企画だろうか

「せ~の、がんばるぞっ」

最後のメンバーひと言、今日は、ヒラノとウチシマだ
カメラが再び、ヨーソリーさんお二人をとらえる

「カスヤさん、タイトルコールお願いします」
「へいっ」

さあ、どういった企画なのだろうか、と、そのときだった

「えふ、えっ、え、お、おほっ……」

カスヤさんの様子がおかしい
となりのナカバヤシさんは
は? ちゃんとやれよ
といった様子をはじめ、見せていたのだけれど、不審に気がつき
え?
といった表情へと変わっていった
メンバーにも、スタッフさんたちにも、その異変は伝わった
席を立ち、尚も、激しく咳き込むカスヤさん
手で口もとを押さえているのだけれど、やむ気配がない
それどころか激しくなるばかりだ

「おいカスヤ、いいかげんに……」

そういう感じのことだったのかな、ナカバヤシさんが言いかけたときだった

「がはっ」

カスヤさんの口から赤いものが大量に吐き出されたのだ
悲鳴をあげるメンバー、固まってしまうナカバヤシさん
収録現場は、一瞬で混乱状態となった
カスヤさんは、倒れ込み、何度かケイレンしたのち、動かなくなってしまった
混乱し、あわてているスタッフさんたちとは対照的に
どうしていいのか分からなくて、動けなくなってしまうわたしたち出演者
何人かのメンバーは、泣き出してしまった
そのメンバーを慰めたり、肩を抱いたり、といった姿も見える
そんな異様な光景の中

「ちょ、毒とか、飲まされた…… とか、そういうこと?」

低い声、オキョーさんだとすぐ分かった

「いま、そういうのやめよう」

キャップからたしなめられ、オキョーさんは黙った

「みんな、いったん落ち着こう、ね、座って、座って、ね」

キャップの言葉に、メンバーは、いったん席に着いた
けれど、一人だけ座らなかったメンバーがいた、オキョーさんだ
オキョーさんは、ナカバヤシさんの方へと歩いていき

「ナカバヤシさん、今日、控え室で何されてました?」

メンバーみんな、グッ、とヘンなところに力が入った
オキョーさんの言葉を聞いたナカバヤシさんの表情が一瞬で変わった

「オレがカスヤに毒でも盛ったとか言いてえのかテメェ、言葉選んで言えよコラッ」
「いえ、そうは言ってないんですけど、可能性が一番、その、なんというか……」

「オキョー、やめよう、ね」

キャップが止めた

「てかさ、たかひぃー、いつまで泣いてんの」

オキョーさんは、たかひぃーさんへと言葉のほこ先をかえた

「カスヤさんこんなことなってんのに悲しくないの、犯人探しなんていいんだよ」

たかひぃーさんは、涙声だった
このような事態になってしまったことによる不安や恐怖からなのだろうか
オキョーさんがイライラしているのが分かる
そして、そのイライラが、犯人探しやたかひぃーさんへと向けられているのだろう
キャップから、再度、たしなめられ、オキョーさんは、再び、黙った
一瞬、沈黙したスタジオ、しかし

「あれぇ? これなんだろぉ」

場の雰囲気にそぐわないフニャフニャした声
そんなことを言いながら、チホさんがカスヤさんの方へと進んでいき
吐き出された赤いものの中にある小さな黒い物体を拾い上げた
そして、首をかしげながら

「これぇ、種だねぇ、スイカの種だぁ」

それを聞いたナカバヤシさん

「あーーーーー」

と、何かを思い出しだように、数分前へと思いを馳せていった――

どうやら、カスヤさんは、本番前
差し入れのスイカを、うめぇね、うめぇね、と大量に食べていたようなのだ
あまりに大量に食べたので、苦しくなり
収録冒頭、吐き出してしまった、とそういうことらしい

「いやー、すまんね、すまんね」

言って、上半身を起こしたカスヤさんの頭の上に
大きなタライが落とされ、カスヤさんは、またしても倒れ込んだ

「はい、オッケーで~す」

スタッフさんの声のあと

「ありがとうございました~」

と、頭を下げるメンバー
ふと見ると、ナカバヤシさんは、もうすでにスタジオを出ようかというところ

けれど、暗くなるスタジオで
カスヤさんは、いつまでも、その場に倒れ続けていたのでした――

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