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『窓』no,8

紡車紫織( つむ しおり )が 一枚の写真を手に持ち 妹尾錠治( せのうじょうじ )に見せた。
『妹尾さん、この方を御存知ですよねぇ…』
倉崎聖士の顔写真だった。
『えぇ、私の会社の社長です 』
『それが何か…』
私(妹尾錠治)が紡車刑事に聞き返すと…
『今は、未だ…』
『詳しい事は話せませんが…』
『妹尾さんと倉崎聖士が出会われた経緯(けいい/いきさつ)が知りたのですが…』
『話して貰(もら)えますか…』
鋭く厳(きび)しい刑事の表情に変わった紡車紫織(つむしおり)が、私を心配した面持(おもも)ちで言って来た。

『経緯も何も、彼とは十年来(じゅうねんらい)の友人ですよ…』

『そもそも、私が(広島県)福山市に住んでいた頃からの友人で…共通の知人を通して…当時、私が開発中の特殊な装置を完成させるために協力して貰(もら)った事が きっかけで 仲良くなり、それ以来 彼が福山に来たり、私が大坂に行ったりしながらの交流が続いていて、 今日までの付き合いが継続しているんです 』

『でも、何で ですか…本当に知りたいですょ!』
『彼が何かしたんですか…』

そう 紡車刑事に私が詰め寄ると…

『申し訳ありませんが…本当に今は何も言えないんです』
と頑(かたく)なに…

「まるで寂(さび)れた 商店街の店が シャッターを下ろして 更に鍵を掛ける様に 彼女は 何も応えてくれませんでした。」

『妹尾さん、向こうの(ビル)マンションでの調査作業が終わったとの連絡が先程(さきほど)あって もう戻らないと…』と…と、
落ち着かない表情を 私に見せ始めたので…

『紡車(つむ)さん、仕事が終わってからでも良いので…ちょっと相談に乗ってくれませんか…』

私は彼(倉崎聖士)との…あの飛び下り自殺した(『自殺』は、倉崎聖士から聞いた、電話での内容)との 彼からの一方的な電話連絡があった直後から、今までの一連の出来事が どうしても気になって仕方なかったのである…

『どうしても、刑事の紡車さん…と、して では なくて……
個人的に 彼(倉崎聖士)の事で どうしても相談したい事があるんですよ…』

紡車紫織(刑事)は沈黙した。

私は更(さら)に…
『お願いします!』

そうやって、私が「お願い」を繰り返すと…

暫(しばら)くの沈黙後に…

『分かりました!』

彼女(紡車紫織)は意を決した様に、力強く応えてくれたのです。

そして、必ず後で 連絡すると言い残して 私の空間エリアから…
ちょうど、(遅い) 彼女を迎えに来た 天野と 一緒に (私に きちんと背を向けて…)少し 小走りするように戻っていったのだった。

翌日の夕方、彼女(紡車紫織)が 私服(しふく)の姿(白ぽい ベージュカラーのスカート姿)で 私の前に現れた。

私は 彼女から事前に 連絡を受けていたので、迷うことなく彼女から指定された(南海線の)堺東駅前に広がっている銀座商店街のプリン🍮が旨いと評判の喫茶店で待っていたのだ…

『妹尾さん!』
明るい彼女の声は、彼女が刑事であることを忘れさせるぐらいに…
「一人の男性として、ドキドキ させられた。」

『すみません、お疲れのところ…』
妹尾錠治は 一応(いちおう)彼女の立場を気遣(きづか)うように挨拶をしたので…

紡車紫織( つむ しおり )は…
『いぇいぇ、私も少し (刑事の)仕事環境から離れて…新鮮な(刑事のいない場所の)空気が欲しかったので…』と言ってくれた。

その時の、さばさば した 口調で 応えてくれる 彼女(紡車紫織)からは 益々(ますます)、大阪府警の刑事だとは 全く思えなかった。

唯々(ただただ)美しい女性が 私だけの為に 時間を作って会いに来てくれた事に感動して…
その様な気分(気持)に させてくれたのです。

『食事は…何か好きな料理とか ありますか…』
と できる限りの平常心で尋(たず)ねた。

『焼き肉が食べたいです』
彼女が応えた…
『良いですねぇ!』
『ちょうど、私も焼き肉が食べたいと思ってました…』
『少々、ここから離れますが…旨い焼き肉を食べさしてくれる お店があるので そこに行きましょう』

なんだか嬉しくなってきた、妹尾錠治は…
その焼き肉の店が自分の住むマンション(ビル)の近くである事を忘れていた 。
と、言うよりも 全く気にしていなかったのである。

(待ち合わせた)喫茶店を出て、二人で タクシー に乗り込み、焼き肉屋の前で (タクシー)下(お)りると…

『妹尾さん、ここ 貴方(あなた)のマンションに 近い場所でしょう!』
と 、紡車紫織は 私(妹尾錠治)に 尋ねると言うよりも 断定的に言って来た…
『はい。』
『本当に旨い焼き肉屋ですよ』
中の明かりだけが分かる磨りガラスの重い引き戸を妹尾錠治は開け、紡車紫織を店の中へと導く…

店内は焼き肉屋では有りがちな煙(けむ)たさも無く、良く掃除の行き届いた庶民的で地元の歴史を感じる様な(在日韓国人がオーナーの)お店で有る。

ここは、倉崎聖士が(私を)何度か連れて来てくれた、彼のお気に入りのお店の一つだった。

私は、この店の美味しい部位(ぶい)には精通していたが…
あえて何も主張せずに、彼女(紡車紫織)の食べたいと思う部位を中心にオーダーすると…
『私、「胡麻(ごま)の葉」と一緒に食べるの大好きなんです』
おい、おい…分かってるじゃん!
そして、幾つか種類のあるキムチの盛り合わせ等々を含めて…殆ど、倉崎聖士の時と同じ様な部位を頼んでいるではないか…
『紡車さんは、この店は初めてですか……』
『初めてじゃぁ、ないでしょう…』と私が尋ねると…
『はい』
『二日前に天野さんと山川さんと三人で来てます…』
口に手をあてた彼女(紡車紫織)が(私の驚く表情を見て)微笑んだ…

『まさか、慶正園に誘われるとは思って無かったから…』

『でも、ここの料理(キムチ等々)も お肉も 本当に美味しいですょねぇ…』

その話しを聞きながら、妹尾錠治は 笑(え)みを浮かべながら…

『お腹 減りましたねぇ…』

『とにかく、じゃんじゃん 食べましょう!』

先ずは、お互いのお腹を満たし、会話は 二の次だと…「暗黙の了解」が 二人の間で 成立しているようだった。

…………………つづく……………………

前回までの内容は⤵️


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