見出し画像

「自主的転勤族」が流動する前提で、都市を再設計する →サステイナブルな地方都市活性に欠かせない観点かも

地方都市活性について、またまた私の思うところを綴ります。
私は最近「越境」「越境学習」の研究および執筆をしており(2022年春に発売予定の新刊のメインテーマでもあります)、その観点も織り交ぜながら。

1.山間部の地方都市に移住者が増えるリアル

山間部のお世辞にも交通の便が良いとは言えないエリアなのに、なぜか移住者が増えつつある。そんな地方都市を見かけます。

最近私が訪れた自治体では、佐久穂町(長野県)、東栄町(愛知県)、郡上八幡市(岐阜県)など。

クルマで町を走っていると、古民家などをリノベーションしたカフェやコミュニティスペースが突如姿を現す。私は、時間の許す限りなるべくそういうところに立ち寄り、オーナーと話をするのですがほぼ例外なく他都市からの移住者だったりします。

画像1

上記のいずれも人口が多い都市ではありません。
大企業の事業所がある訳でも、観光や第一次産業以外の産業基盤がある訳でもない(なさそう)。

なぜ彼ら/彼女たちはそこに引っ越してきたのか? 収入面の不安はないのか? 背景や事情はどうであれ、たまたたまその土地と接点があり、その土地のファンになってくれて、その土地に居を構える選択をしてくれた。大変ありがたいことであり、何より移住者が増えてきているのはファクト(事実)です。

このファクトと向き合い、地域のこれからのあり方を前向きに考えていけるかどうかが、地域活性を左右するでしょう。

2.山間部への移住者は、いわば「自主的転勤族」である

山間部に移住する人たちの話をしてきて、私はある時ふと思いました。

「最近の移住者って、いわば『自主的転勤族』だな」

そのココロを解説します。

一般的に転勤は、企業の意志により従業員に命じて行われます。なおかつ、転勤先はその企業が事業所を有している土地にほぼ限定される。赴任する期間は基本的には2年~5年程度でしょう。

一方、山間部の産業基盤がない土地にわざわざ移住してくる人はどうか? ITエンジニア、デザイナー、コンサルタント、あるいはフリーランスのクリエイターやライターやパティシエだったり。複業人材だったり、職種や雇用形態はさまざまですが、なかには場所(居住地)にとらわれずに他都市と繋がって仕事をし、生計を立てている人もいます。

画像2

企業勤めをしていても、社員が好きな土地を選択して居住できる時代になりました。最近では、富士通が社員の居住地を制限せず、フルリモートワークでの勤務を解禁したニュースが注目を集めましたね。

誰に命じられるわけでもなく、本人の意志(または家庭の事情)で、企業の事業所や産業基盤がない土地に移住する新たなスタイルなのです。移住する期間は無期の人もいれば、有期の人もいるでしょう。

「まず3年やってみて」
「生計を立てられなければ、大都市に戻る」
「いろいろな土地で生活を体験してみたい」

このように期限や条件を決めたチャレンジで移住する人もいます。すべてが本人の意志なのです。

後者のスタイルを、私は「自主的転勤族」と(思いつきで)ネーミングしてみました。

3.企業意志転勤族と自主的転勤族の比較

まとめます。

これまでの時代の転勤(転勤1.0):「企業意志転勤族」
・企業側の意思で
・企業が事業所を有する土地への従業員の移住が発生する
・有期(2年~5年程度)
新たな転勤スタイル(転勤2.0):「自主的転勤族」
・本人の意思で(または本人の家庭の事情で)
・企業の事業所も産業基盤もない土地に移住する
・無期または有期(あらかじめ期間や終了条件を決めている人も)

これからは自主的転勤族が増える。そして、その潮流に合わせる形で、地域のあり方をリデザイン(Redesign)していきたいです。

4.「自主的転勤族」が流動する前提で都市を再設計する

自主的転勤族の増加。間違いなく地方都市にとってチャンスです。

それを活かすために、地域(行政、地域住民(含:既に移住した方))は何をすべきでしょうか? 私の考えを4つ述べます。

(1)発信を増やす
(2)地域を解放する
(3)コミュニティマネージャを置く/育てる
(4)オープンマインドシフト、スキルシフトに投資する

(1)発信を増やす
その土地をインターネットで積極的に発信する。これからの時代、インターネット上にない事物は世界に存在しないのと同義です。
飲み食いお祭りのような観光コンテンツだけではなく、移住者やコミュニティマネージャー(後述)により、そこでの生活の様子、学びが生まれる取り組み、行政の支援策など「その土地で成長する」ためのストーリーも発信していきたいです。

旅行者やワーケーション客など、第三者にSNSやブログで発信してもらうための、動線の工夫やタッチポイント(接点)作りも欠かせません(詳しくは、書籍『業務デザインの発想法』を参照ください)。

その土地の価値は、他者が決めてくれるもの。

自主的転勤族にしても、その土地のネイティブ(そこで生まれ育った人)が気づかない魅力を発見し、ファンになってくれた可能性は高いです。そして、その土地のファンを増やすためには、ネイティブと第三者双方の発信が欠かせないのです。
(いわゆるブランドマネジメントの本質でもあります)

あ、ちなみに『組織変革Lab』の11月の講義テーマ(11月16日オンライン)は「ブランドマネジメント」です。企業や行政の皆様、是非私と一緒にディスカッションしましょう。

(2)地域を解放する
閉鎖的な地域にファンは増えません。
ひとことで閉鎖的と言ってもさまざまなニュアンスがありますが、私は「物理的な閉鎖性」と「マインドの閉鎖性」があると考えます。ここでは物理的な閉鎖性を論じます。

物理的な閉鎖性とは、空間や施設を従来の目的で、従来の人たちにしか使わせない行動だと思ってください。具体的な事例を挙げます:

・古民家遺産。観光目的以外には使わせない
(平日はガラガラ。もったいない……)
・学校は授業目的以外には使わせない
(少子化で空き教室だらけ。もったいない……)
・ダム際の管理施設。ダム施設の保全と管理以外の目的で利用するなどもってのほか
(緊急時はさておき、平常時は誰も使っていなくてもったいない……)

立派なハコモノや、お金をかけて維持している文化遺産があるにもかかわらず、ほんとうにもったいない!

画像3

(ダム際の管理施設。せっかく立派なハコモノがあるのに、誰も使っていない会議室や交流スペースが空気をため込んでいる。もったいない)

・地域内外のビジネスパーソンが、学習やグループワークを行う場として活用する
・稼働していない夜間帯は、カフェ&コミュニティスペースとして運営する
・緊急時は地域の防災施設として機能させる前提で、平常時はワーキングスペースとして利用者に有料で貸し出す

このようなシェア(共有)の発想がもっとあっても良いのではないでしょうか? ITのクラウドサービスを活用して、目的外利用の管理をラクにする方法はいくらでもあります(具体的な話は、講演依頼いただければお話しします)。

移住者が、他の地域からの来訪者(ワーケーション客や出張者など)と接することのできる「場」がある。それ自体が、その土地に移住する魅力を高めます。
自主的転勤族は、好奇心も旺盛。いつも同じ土地で、同じメンバーだけでしか交流できなければ飽きてしまいます。
知識交流の「場」があれば、移住者はその土地にいながらにして他都市の人と交流し、新たな知識やヒントを得ることが出来ます。
もちろん、来訪者にとってもその土地でワーケーションをする大きなメリットになるでしょう。こうして、その土地との関係人口が生まれます。

移住者との交流を通じ、「私もこの土地に移住したい!」「この土地と他拠点生活をしたい!」「定期的に訪れたい」と思う人が増えるかもしれません。

その地域の空間や施設を、コラボレーションが生まれる「場」として有効活用する。

シェアリングエコノミーの時代です。目的外利用を許容する、用途をシェアする。オープンに有効活用しないともったいないですよ。

画像4

(3)コミュニティマネージャを置く/育てる
近年注目されている新たな職種の一つ。コミュニティーマネージャとは、文字通り、地域などのコミュニティを活性化させる専門職のことです。
地域の発信をする。地域の有識者と有識者を結びつけたり、他地域の人との交流のハブとなる。移住に興味がある人や、移住をしてきた人、あるいはワーケーションでその土地を訪れた人などのコンシェルジェ&メンターになる。いわば、地域活性のファシリテータ役です。

コミュニティマネージャを置くあるいは育成するのも、サステイナブル(持続可能)な地域活性に欠かせません。

最近は、コミュニティマネージャをUターンやIターン人材に業務委託で一定期間雇用する地方自治体もあります。それ自体、自主的転勤族やワーケーション客の誘引にもなりますね。

画像5

(4)オープンマインドシフト、スキルシフトに投資する
ここが地方都市の最もハードルの高いチャレンジかもしれません。閉鎖性の2つ目、マインドの閉鎖性をどうブレークスルーしていくか?

いわゆる「ムラ社会」のような同調圧力が強い社会に、新しい人は集まりませんし定着しません。人口流出の原因の一つは、間違いなく地方都市ゆえのマインドの閉鎖性でしょう。

その土地の人たちのマインドの閉鎖性をなくしていかないと、せっかくその土地のファンになってくれて移住してくれる人が増えても、アンチになって戻っていってしまいます。そして、ネイティブな若い人材も、その様子を見て「ここにいてはヤバい」と思ってしまいます。負のスパイラル。

(1)~(3)の地道な積み重ねでも、その土地のネイティブの心がオープンに変わっていく事例ももちろんあります。

・他の都市の人たちと交流し、ディスカッションする機会創出
・ITを活用し、オープンにつながって行動するためのスキル育成

こうした越境機会や、越境して成長するためのスキルアップへの投資も積極的に行っていく必要があります。

このようなディスカッションを、行政、移住者、他地域のイノベーティブな人材と一緒に、それこそ越境してやっていきませんか?

画像6

5.おわりに~人口流出が問題なのではない。戻ってこないのが問題なのだ

自主的転勤族の増加は、人口流出が悩ましい地方都市、とりわけ産業基盤を持たない山間地域などにとって救世主となり得るでしょう。

だからといって「何もしない」「変わらない」では、せっかくのチャンスを逃してしまいます。同様「待ちぼうけ」(北原白秋さん作詞、山田耕筰さん作曲)の木こりのごとき。

すなわち、サステイナブル(持続可能)ではない

私は地方都市の若手の人口流出は、致し方ない宿命だと思っています。

子どもは自分の意志で生まれ育つ土地を選ぶことが出来ません
その土地に、産業基盤がなかったり、カルチャーが合わなかったり、やりたいことが見つからなければ出ていって当然。むしろ、一度は外を見るほうが健全でしょう。

一方で、大人は自分が生活する土地を選ぶことが出来ます
IT化、働き方の多様化で、ますます土地の縛りがなくなりました。自らの意志で、その土地を選んで移住してくれる自主的転勤族。彼ら/彼女たちの流動を前提に、地域のあり方、都市のあり方を再設計する。

いわば「出ていきやすく、戻ってきやすい」地域を創る

無理にその土地から出ていかないようにするより、よっぽど健全なバリューサイクルではないでしょうか?

このテーマ、解像度を上げて現在執筆中の「越境」「越境学習」の書籍でも綴っていきたいと思います(←自分へのプレッシャー)。

その書籍が出るまでに時間がありますので、それまでは是非「バリューサイクル・マネジメント」を参考にしていただけたら嬉しいです。

組織や地域を統制型からオープン型にシフトするための考え方、ファンを増やすためのブランドマネジメントの考え方など立体的に語っています。
(先週は金沢市で講演もしてきました)

地域の新たな「勝ちパターン」を、越境で実現していきましょう!

※2022.02.13追記:この話を含む、地方都市の問題地図と活性化の事例と提言は、2022年3月25日発売予定の『新時代を生き抜く越境思考』で解像度を上げて解説します。是非お買い求めいただき、ディスカッションしてください。

▼書籍『新時代を生き抜く越境思考

▼書籍『バリューサイクル・マネジメント』
⇒これからの時代の組織づくり、地域づくりのヒント満載の書

▼『沢渡あまねマネジメントクラブ』
⇒沢渡とこれからの時代のマネジメントと変革をともに考えるオンランコミュニティ。たまに山の中のダム際から動画配信したりもしています

▼『組織変革Lab』(企業・行政向け)
⇒DX推進者/変革推進者のための・オンライン越境学び舎(ディスカッション中心)(部課長の参加が多め)