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足立区のこびと

僕の自宅からは、羽田を離陸したばかりの飛行機が見える。北方に向かう航路になっているようで、時間によっては一定間隔で何機も通過していく。旅も飛行機も好きな僕は、憧れをもってそれらを見上げていた。

この眺めるだけだった飛行機に自分で乗るようになったのは、札幌出張に行くようになった昨年からだ。

左の窓際の席に座ると、自宅付近が見える。さすがに目視では自宅を判別できないが、位置ははっきり分かる。普段生活している街を斜め上から俯瞰すると、地上と上空、どちらも同じところを見ているはずなのに、まったくの別世界だ。

「北千住の中州感が半端ない」とか、「環七は、沿道の建物も道路の左右へのブレ具合も含めて、微妙に凸凹感がある道だ」とか、「扇大橋と江北橋ってねじれの位置っぽい」とか。

今朝も飛行機を見上げる。「あの飛行機に乗っている人は、どんな風にこの景色を見ているのだろう?」。上空から見たあの景色の一部に自分がなっていると思うと、こびとになったような、米粒になったような、そして今日の仕事に向かう重たさまでひっくるめて小さくなったような、そんな感覚になった。

青空のファスナー開き飛行機は朝の希望を俎上に乗せる  あまねそう

【短歌初出】
・かばん2018年6月号より

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