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童話風創作小説 『だいたい赤ずきん』

ノベルアッププラスというサイトの新釈グリム童話という、お題の童話を自己解釈して新しい話を作るという企画に参加した作品です。
他サイトにアップしたものも応募可とあったのでnoteにも投稿します。
ギャグ風味の話は書いてて楽しかったです!
軽ーく読んでいただけると嬉しいです。

 これは世間ではあまり知られていない、とある頭巾を被った女の子のお話。

 *

 昔々あるところに、とても素直で可愛い女の子がいました。
 女の子のおばあさんは、その子を大層かわいがっていて、びろうどで頭巾を作ってあげるほどでした。

 色は……そう、赤だったか青だったか黄だったかのびろうどで作りましたが、年のせいかちょっと忘れてしまいました。
 とにかく素敵な仕上がりになったのは間違いありません。

 女の子のために一針一針丁寧に作った⚪︎⚪︎色の頭巾。お母さんと一緒に女の子が遊びにきたときに、おばあさんはいそいそと取り出して、早速わたしました。
「可愛いお前に贈り物ですよ」
 オレンジ色の頭巾を、ちょいっと小さな頭に乗せるとあら不思議。頭巾の色はすうっと黄色に変わります。
「ありがとう、おばあさん! 大切にしますね」
 そう言って頭巾の裾を握る女の子の笑顔は言葉にできないくらい可愛らしかったのですが、この時ばかりはおばあさんもお母さんも、女の子が被っている黄緑色の頭巾にしか目がいきませんでした。

 おばあさんが何色のびろうどで作ったか忘れたせいか、それとも女の子への想いが頭巾を妖精技の領域に至らせたのか。
 びろうどの頭巾は、なんと、女の子の気持ちに従って色が変わるようになってしまいました。

 嬉しいときは黄。不安や恐怖は緑。悲しいときは青。怒っているときは赤。心の機微で濃淡すら繊細に変化する頭巾は、彼女の心を忠実に表します。
 それからというもの、女の子は、夜に歯を磨く前には頭巾を紫色にしてお母さんに怒られ、ふかふかのパンは色満面で頬張るのでした。

 しかし、生来の気質とでもいうのでしょうか。
 いたずらで石を投げてきた男の子に赤をもって岩を投げ返し、別の日には逃げた犬を真っ赤な頭巾で追いかけていた女の子は、親しみとちょっとの畏怖を込めて村のみんなからこう呼ばれるようになりました。

 だいたい赤ずきんちゃん、と。

 ある日、お母さんは女の子を呼んで言いました。
「こっちにいらっしゃいな。だいたい赤ずきん、このお荷物をおばあちゃんに届けて欲しいの」
「もーねえっ!そう呼ばないでって言ったでしょ?!」
 すぐさま女の子は言い返します。おこりんぼと暗に呼ばれているようで、おばあさんからもらった頭巾はとっても大切でしたが、それが赤くなること自体は複雑なのです。歓喜黄色敬愛黄緑色だったらどんなに良かったことか。
 いつものように赤い頭巾のまま、だいたい赤ずきんちゃんはテーブルに置かれていたカゴを引っ掴んで、ぷんぷんおうちを出て行きました。
 ドアが閉まる前、小さな背中にお母さんは慌てて言い足しました。
「あっ途中で寄り道しないで、まっすぐ行くんですよ。森はオオカミが出ますからね。おばあさんに会ったら礼儀正しく……」
「言われなくてもわかってる!」
 バタン。
 言い終わる前に扉は閉まり、だいたい赤ずきんちゃんはそのままずんずん大股で森にあるおばあさんの家を目指して行ってしまいました。

 しばらく歩いていると、頭巾はしょんぼり水色になっています。
(つい、反射で言い返してしまったわ……。わたしの頭巾がだいたい赤いのは事実なのに)
 だいたい赤ずきんちゃんはすぐに怒ってしまいますが、反省もだいたい早いのです。
 ちらりと渡されたバスケットの中身に目をやりました。そこには柔らかいパンや、栄養満点のミルク、調味料の入った小瓶(おばあさんは料理が得意なんです)、お母さん特製のジャムと、とてもよく効く薬草が見えました。
「おばあさん体調悪いって聞いたけど、まだ良くなっていなかったのね……」
 被った頭巾は水色のまま、とぼとぼと曲がりくねった森の中を歩き続けました。
 
 しばらく行くと、木の影からオオカミがひょっこり出てきました。でもだいたい赤ずきんちゃんは大変に落ち込んでいたので、怖いとか、逃げなきゃとか、そういうふうには考えられませんでした。
「だいたい赤ずきんちゃん、こんにちは」
 森のオオカミは気さくに話しかけてきます。このオオカミは狡猾で、どうやってこの柔らかいお肉を頂こうかとすでに策を巡らせ始めていました。
「わたしの頭巾が赤に見えているのなら、その大きなお目々をお医者様に見ていただくことね」
「これはおやおや、真っ青だ」
 大袈裟に肩をすくめてため息を吐きます。盗み見たバスケットからは、薬草の先が飛び出ていました。横に裂けた大きな口がにんまりと歪みます。

「あっちに綺麗な花畑があるんだよ。落ち込んでいる時にはピッタリだ。病気の人も元気になるだろうね」
「そうかしら」
「そうだとも!」
 だいたい赤ずきんちゃんの頭巾が、濃いオレンジ色から黄色へと変わるのを見て、オオカミはしめしめと思いました。ようやく運がこちらに回ってきたぞ、と。もう何日も獲物を仕留められずお腹がぺこぺこだったのです。やわい肉と、ついでに病人らしい肉も手に入れば、ここ数日の空腹を差し引いても十分にお腹は満たされるでしょう。
「それじゃあ、ちょっとだけ摘んで行くわ」
「それがいい! 森には危ないところがあるから気をつけて」
 だいたい赤ずきんちゃんが花畑の方へ行ったのを確認してから、オオカミは近くの家へと急ぎました。憎き猟師がたまに出入りしているあの家は、確かおばあさんが一人で住んでいたと思い出したのです。狩を終えた猟師が、おばあさんが病気だと歩きながら猟犬に話しかけていたのも聞きました。きっとあの家が、だいたい赤ずきんちゃんのおばあさんの家に違いありません。先回りしておばあさんを食べてから、メインディッシュにあの子を食べれば最高のディナーになるはずです。想像するだけで涎が止まりません。ああ、新鮮な肉のあの喉越しときたら!
「急げ急げ! 今日はご馳走だ!」

 ぷつぷつと色とりどりのお花を摘むだいたい赤ずきんちゃんの頭巾は、今は薄黄色になっています。目の前を飛ぶ蝶々も、花の上でダンスをするミツバチも、女の子を歓迎しているようでした。作った花束が片手で持ちにくくなってきて、バスケットに入れようとしたところで、お母さんが持たせてくれた薬草がだいたい赤ずきんちゃんの目に入りました。
「わたしったら何してるのかしら! 病人には花より先に薬草だわ!」
 さっとバスケットに花を突っ込み、勢いよく立ち上がります。頭を覆う頭巾の色はもちろん赤。おばあさんのお家がある方向を睨みつけても、自分がお母さんとの約束を破って寄り道をしてしまったことは変わりません。自分がふらふらしている間に、おばあさんの病気が悪くなってしまったらどうしようと思うと、今度は頭巾だけでなく顔まで真っ青になりました。
「ううう……っごめんなさい〜!!」
 どんな花よりも鮮烈な青が、お花畑を全力で横切っていきました。

 息を切らせておばあさんの家にたどり着きます。幸いそこまで離れていなかったのですぐに戻ることができました。しかし近づくと少し様子がおかしいのです。扉がわずかに開いています。几帳面なおばあさんが扉を閉めないなんてことがあるでしょうか。
 不審に思いながらも家に近づくと、だいたい赤ずきんちゃんが扉の真ん前に来たところで家の中から大きな悲鳴が聞こえました。尋常ではありません。恐れている場合ではないと思い、急いでドアを開けました。
「おばあさんっ! どうしたの?!」
 小さなお家です。テーブルの向こうにはいつもおばあさんが寝ているベッドがあります。状況はすぐにわかりました。頭を抱えるおばあさんを今まさに食わんとするオオカミがいるではありませんか。
 さっき話しかけてきた、あのオオカミです。
 騙したこと、騙されたこと。大事なおばあさんが食われようとしていること。
 それら全てがだいたい赤ずきんちゃんに火をつけました。
「わああっ」
 おこりんぼなだけの小さな女の子に、いったい何ができるのでしょう? それでも見捨てて逃げるなんていう選択肢はありません。とっさに持っていたバスケットを探れば小瓶が手に当たりました。それが何かなんて考える余裕もなく、だいたい赤ずきんちゃんはその瓶をオオカミに向かって投げつけました。
 がつん。
 小瓶はオオカミの右側頭部にヒット。そしてその衝撃で、瓶の中身がボフンとあたりに舞い上がりました。オオカミにはらはらと降りかかるのは、だいたい赤ずきんちゃんのお母さんが丁寧に丁寧に挽いたコショウです。
「なんだこれは! エックション! くしゃみが止まらない!」
 小さな女の子なんて敵にならないと思っていたオオカミは、止まらないくしゃみに慌てて鼻を押さえます。しかしもう後の祭り。大きく吸い込んでしまったコショウが、鼻の奥で大暴れしています。
「これはダメだ! 目も見えない!」
 小さなコショウの粒が目に入り、滂沱の涙も流れてきました。こうなってしまったらどうすることもできません。引き攣る肋のあたりをおさえて、ぶんぶん腕を振り回しながら、オオカミは這う這うの体でおばあさんの家から逃げていきました。

 
「はくしょんっ」
 あまりの恐怖で呆然としていただいたい赤ずきんちゃんは、おばあさんのくしゃみでようやく我に帰りました。
「おばあさん!」
 おばあさんもコショウ爆弾をオオカミの近くで受けてしまったらしく、若干被害が出ています。しかし、ぐずぐずと鼻を鳴らして、愛する孫を手招きして呼び寄せました。孫は目に涙をいっぱいに溜めて近付いて来ます。
「ごめんなさい、おばあさん。わたしが寄り道したせいで、コショウを投げつけたせいで……」
 正直鼻はむずむずしますが、おばあさんは首をゆっくりと横に振って、優しく赤ずきんちゃんを撫でました。
「何を言っているんだい。わたしを助けてくれたでしょう。お前が無事で本当によかった」
 優しい声と、おばあさんが無事だったことに安堵して、赤ずきんちゃんはおばあさんに抱きつきました。コショウまみれの寝巻きでしたが、そんなのおばあさんは怒りませんでした。
 
「おばあさん、大丈夫かい?」
 突然、男の人の大きな声が聞こえました。そして元気な犬の鳴き声も。振り返ると扉のところには、いつもおばあさんのことを気にかけてくれる猟師がいます。
 手にはなんと、先ほどのオオカミを持っているではありませんか!
「こいつがおばあさんの家の方から走って来たから、撃った後に慌てて様子を見に来たんだよ。無事でよかった」
 それを聞いて、おばあさんはにっこりと笑いました。真紅の頭巾を被った自慢の愛しい子の背中を撫でます。
「それがねえ、この子が退治してくれたから大丈夫だったんですよ」
「なんだって、だいたい赤ずきんが!」

 床にはコショウ。
 ヘロヘロだったオオカミ。
 獣を撃った猟師はここで何があったかをだいたい察し、大きく頷いて赤ずきんに言いました。

「よくおばあさんを守ってくれたね。その赤色は勇敢な色だ」
 
 猟師にそう言われて、おばあさんにはもう一度優しく頭を撫でられた赤ずきんは、ほっぺが真っ赤になってしまいました。もちろん、これは短気のせいじゃありませんからね。


 
 そんなことがあってからも、だいたい赤ずきんちゃんはだいたい赤ずきんのままです。今日も元気に真っ赤な頭巾で草をむしっています。しかしその赤の由来を思い出すたびに、だいたい赤いのが前よりは恥ずかしくなくなりましたとさ。
 ……お終い!

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