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セナのCA見聞録 Vol.11 いきなりチーフパーサー 後編


#はたらいて笑顔になれた瞬間

この晩は、気負いこんだフライトのために、肩はパンパンにはり、足は棒のようで体はへとへと😫

明日は朝8時にはホテルを出発し北京ー成田、成田ーソウルと二本のフライトをこなさなければなりません。

それにも関わらず、私たち乗務員の半数近くが夜明け前の万里の長城を見に、真夜中観光に出かけました。

このフライトに乗務したクルーのほとんどが卒業して間もない新人であったので、ビザなしには入国できない中国本土には初めて来たという人も多く、機内で万里の長城へ行かないかという話がシンガポール人クルーからあがった時、ほとんどの人が「行きたい!」と飛びついて賛成したのです。

どこにそんな元気があるのか自分でも分かりませんが、夕方ホテルへチェックインした後、すぐに着替えをして近場のレストランへグループで食事に出かけワイワイおしゃべりし、食後にはホテル前に円椅子を並べて按摩をしている按摩師達に「是非是非」と首や肩の凝りをほぐしてもらい、「上手だなあ」と満足して、ようやくホテルの部屋へ戻ったのは夜11時過ぎ。少し休んで夜中の2時半に下のロビーに集合。

女性パイロット一人を含む10数名のクルーが集まり、シンガポール人クルーの手配してくれた小さなミニバンに乗り込み、一路万里の長城へと向かいました。

真夜中なので窓からの景色は暗闇ですが、ただ広い直線道路をどこまでも走っていくのが印象的でした。小一時間で到着し、まだ暗くて足元もよく見えない四時前から、私達は人一人いない万里の長城を上り始めました。

長く傾斜の急な階段を「今、万里の長城を歩いているなんて信じられないね。あの有名な万里の長城に、ひとっこ一人いないんだよ。」と静まり返った暗闇の中を、一緒に連れだって歩くクルー友達と話をしながら、坂道に息がハーハーいってきました。しばらくして見晴らしのいい場所まで来ると、そこからの景色に溜息をつきました。

「わあ〜 」

そこからは神々しいまでの壮大な夜明け空が見渡せました。
薄紫色に淡く染まった朝焼けが徐々に、オレンジ、黄色、朱色と幾重ものグラデーションの美しい色彩へと天空を染め、そして朝日が昇ってきました。

わざわざ夜中に起きて来た甲斐があったというものです。

万里の長城でみる朝日 🌅

無言でしばらくの間見惚れていました。

大きく深呼吸をした後、これは一生の思い出に残ることをしたと思いました。

時間が許す限り行けるところまで進んで戻る時間になると、すがすがしい気持ちを胸いっぱいに蓄えて、元気いっぱいに下の駐車場まで下りました。出口を出ると、そこには太極拳と見受けられるの朝の体操をしているグループがあちこちにみられました。いつのまにか麺類や卵などを出している屋台がずいぶん並んでいて、私達はそこの一つを選んで長椅子に座って熱い麺を急いですすり、6時には万里の長城を後にしました。

ホテルへ戻ると、シャワーを浴びて着替えをするだけの時間が精いっぱいでしたが、誰一人遅れることなく皆集合時間には集まり、バスへ乗り込みました。

このフライトは成田へ戻ったその足で、また夕方ソウルへ飛ぶという、二泊三日のわりと強行スケジュールなので、万里の長城へ行かなかった人達からは「今日も夕方また飛ぶのに、よく夜中に観光なんて行く元気があったよね。」とあきれ顔で言われたりもしました。しかし、行って来た私たちは至って元気でした。

私はバスに乗り込むと、昨日お叱りを受けた機長のところへ真っ先に行き、「昨日は本当にすみませんでした。今日はご迷惑をおかけしないよう気をつけますので、またよろしくお願いします。」とあいさつをしました。このような謝罪を予期していなかったのか、「そんなに気にしなくていいよ。」という返事を頂き、私はホッとしました。そして、がんばろうという気持ちでいっぱいになりました。

北京―成田間は前日の繰り返しなので少し気持ちに余裕がありました。機長に渡すGendecも到着時間から逆算して遅くとも45分前には渡すことが好ましいのが分かりました。同日の夕方発のソウル便は、飛行時間が2時間弱と、とても短いので、その限られた時間のなかで飲み物、食事、書類配布等のフルサービスを行うのはチームワークなしにはできない仕事です。

私は一時間半ほどファーストクラスからエコノミークラスまで行ったり来たりを繰り返し、それはさながらサッカー場を端から端まで何十回と往復したかのような感じでした。幸い、一緒に飛んだクルーが皆よくてきぱきと働いてくれたので、あっというまのソウル便はこれといったトラブルもなく無事こなすことができました。

ソウルに到着後、昨日とはうって変わって私は安堵の溜息をつきました。「みんな、素晴らしい仕事ぶりだった。どうもありがとね。どうにかチーフパーサー役を務められたのもほんとにみんなのおかげだよ。」と私はホテルへ向かうバスへ乗り込むと同時に乗務員にお礼を言いました。

同僚への信頼と責任者に求められる期待や要求に応えるという、この双方向のベクトルをうまく作動させながらそれぞれが役割分担をスムーズに進めていく。こんなチームワークの楽しみをチーフパーサーというポジションを通して実感したフライトでもありました。とても充実していました。

さすがにこの晩はどこへも出かけず、ホテルの部屋で翌朝までぐっすり休みました。😴

突然任されたチーフパーサー、なかなかガッツのいる仕事です。


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