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推しの3冊について語る

「四十九夜のキセキ」(光文社文庫)の参考文献にあげたホーンブロワー関連図書について補足解説させてください(ただの推し語りです)

 まずは左端の原書から。
 作者はイギリスの作家セシル・スコット・フォレスター(1899−1966)。
 ホーンブロワー・シリーズの1作目"The Happy Return"(邦題は『パナマの死闘』)が刊行されたのは1937年で、その後1966年に他界するまでこのシリーズを書き続けています。
 装画を見ての通り、ホーンブロワー・シリーズは18世紀末〜19世紀前半(特にナポレオン戦争時代)を舞台とする海洋冒険小説で、主人公のホレイショ・ホーンブロワーが英国海軍の士官候補生時代から艦隊司令官となるまでの長い人生を描いています。
 艦隊戦の面白さもさることながら、ホーンブロワーの愛すべきキャラクターが最大の魅力で、中学生の時、私はかなりはまって何度も読み返したものでした。
 10年ほど前にBSで海外ドラマが放映されたので、そちらで知られた方も多いのではないでしょうか。
 今回、「四十九夜のキセキ」で海賊ものを描いている少年漫画家が愛読している小説としてホーンブロワーを設定したため、久しぶりに自分の本棚をひっくり返して探してみました。

"Hornblower and theHotspur"  C.S.FORESTER  (Penguin Books)


 「ホーンブロワーは全部実家かなぁ。ボライソーはこのへんにあったような・・」と本棚を探していたところ、たまたま奥の方から発掘されたのがこの"Hornblower and the Hotspur"(『砲艦ホットスパー』)です。
「・・なんじゃこりゃー!」
 自分でもびっくり。
 もう記憶もさだかではないのですが、大学の卒業旅行でイギリスに立ち寄った時、ロンドン(またはポーツマス?)の書店で見つけて購入したようです。
 後にも先にもイギリスにはその1回しか行ってないので。
 奥付によると最初に出版されたのは1962年らしいので、まだ私が生まれる前に書かれた本ですね!

 もちろん私が中学生の時に読んでいたのは、ハヤカワ文庫NVから刊行されている日本語版の「海の男/ホーンブロワー・シリーズ」です。
 私がはまっていた当時は1巻の『海軍士官候補生』から10巻の『海軍提督ホーンブロワー』および別巻の『ホーンブロワーの誕生』(創作秘話をまとめたエッセイ)が刊行されていました。
 今回『四十九夜のキセキ』でホーンブロワーをだすにあたり、「今どうなってるんだろう。電子書籍とか出てるのかな?」と検索してみたところ、2007年にこの別巻『ナポレオンの密書』が追加刊行されていたことを知りました。

海の男/ホーンブロワー・シリーズ<別巻>『ナポレオンの密書』ハヤカワ文庫NV


 幸いまだ文庫が注文可能だったので早速ポチっと。
 昔のハヤカワ文庫より文字がひとまわり大きくなって読みやすいです。
 内容は以前『ホーンブロワーの誕生』に収録されていた創作エッセイと、短編『マックール未亡人の秘密』『最後の遭遇戦』、そして絶筆となった『ナポレオンの密書』、用語解説など。
 自分も物書きのはしくれとなった今、フォレスターの創作エッセイをあらためて読み直してみると、イギリス用とアメリカ用でそれぞれ別のゲラが届いていた、など、興味深いポイントがいくつもありました。
 しかし一番驚いたのは、ホーンブロワー・シリーズの大半を翻訳した高橋泰邦先生によるあとがきでした。
 ホーンブロワー・シリーズは英語圏を中心に世界的に大人気だったのですが、いろんな出版社に翻訳を提案しても「イギリスの海軍ものなんか日本で売れるわけがない」と断られ続けて、刊行にこぎつけるまでかなり大変だったというのです。
 幸い最初の1冊である『海軍士官候補生』の売れ行きが好調だったので、続刊も翻訳出版できることになったとのこと。
 私が愛読していた頃にはすでに海の男/ホーンブロワー・シリーズは人気タイトルで、他にも「海の勇士 リチャード・ボライソー」など多くの海洋冒険小説が刊行され、人気ジャンルとしての地位を確立していたのですが、それもこれも高橋先生のご尽力あってのことだったのだなぁと今さら知ったのでした。
 

『永遠の帆船ロマン ーホーンブロワーと共にー』(高橋泰邦/著 雄文社)


 3冊目はこの高橋泰邦先生による『永遠の帆船ロマン ーホーンブロワーと共にー』(雄文社)です。
 これまた数ヶ月前に検索するまで存在を知らなかったのですが、1990年に刊行されていました。
(さすがにこれは絶版だったので古書店から通販しました)
 ジャンルとしてはエッセイということになるのでしょうが、ナポレオン戦争時代の木造軍艦の構造から食生活にいたるまでが図版つきでこまく解説されており、さらに、文学を翻訳することへのこだわりなども随所に語られ、大変重厚で読み応えのある解説書となっています。
 しかし英国海軍の食糧事情が壮絶で、現代の日本人だったらお腹ピーピーになってしまって戦闘どころではなさそうなのですが・・慣れは人を、いや、お腹を強くしたんでしょうねぇ(苦笑)。
 いろいろ興味深く、かつ、勉強にもなる1冊でした。

 最後に余談を。
 先ほどあらためて『ナポレオンの密書』を検索したところ、数ヶ月前は楽天ブックスで在庫有だった文庫が注文できない商品になっていました。
 他のネット書店にも定価での在庫は見あたりません(テンバイヤーの高値出品はありますが・・)
 もしかしたら私が買ったのが最後の1冊だったのかもしれません。
 小説の神様、ありがとう。

 


 

 
 
 

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