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フェルディナンド×ローゼマイン関係解釈 3つの試みによる展開(『本好きの下剋上』考察)

(2023年12月16日から19日にかけてTwitter(現X)に書いたものを再構築しました。ネタバレを含みますのでご承知おきください。)

<3つの試みについての最初の呟き>
(1)フェルディナンドとローゼマインの関係を艶っぽく解釈するなら「秘密の共有」をベースにシリアス展開します。『このライトノベルが凄い!2024』の香月先生インタビューにもこの語彙が出てきたのでちょっとにんまりしました。
(2)次に世話物的解釈するなら「破れ鍋に綴じ蓋」(結局お似合い夫婦だよ!)すちゃらか展開ですね。公式は最後まで笑いを取るから。
(3)最後に恋物語的解釈するなら「ベターハーフ」。エルヴィーラお母様が執筆する感じで糖度高めに展開します。

(1)シリアス調フェマ評の試み「秘密の共有」

隠していた出自を語る場面が白眉だった。フェルディナンドにとって名捧げ側近達にも知られたくない触れられたくない絶対の秘密。自分が生まれた場所は公的娼館アダルジーザ、先代アウブは自分を引き取った理由を「時の女神のお導き」と言った。
それでも父との約束だけが生きるよすがだった。エーレンフェストを、次期アウブであるジルヴェスターを支えてやってくれと。そしてそれを果たすべくこれまで必死にやってきた。
が、そんな彼に秘密を知ったローゼマインが与えたのは父の葬儀にも実子として参列も出来なかった彼に代わっての涙と深い情。「何かあったら絶対に助けに行く、家族同然なのだから」という思いがけない言葉だった。
彼がずっと、ずっと心の底から渇望していた宝物だった。
二人きりの隠し部屋でジェルヴァージオとの血縁関係をローゼマインに改めて問われ、「自分は所詮逃れた魔石に過ぎない」ことを語るフェルディナンドからは表情がすっぽりと抜け落ちる。
だが、彼のそうした秘密ごと強い抱擁で受け止めるローゼマインは、彼の心の闇に引き摺られることは決してない。
かつて父がくれた約束よりも彼女の存在こそがフェルディナンドにとってのレゾンデートルになる。秘密を共有し、闇を強く照らす光に。

フェルディナンドは瀕死の自分を他領の礎を奪ってまで救出に来たローゼマインのお陰で思い出す。亡き母の遺した最後の言葉を。
「貴方は望みのままに生きられるのですね」。
望みがなかった間、ずっと彼には分からなかった。
望みとは何か?望みのままに生きるとは何か?
そして望みが出来たフェルディナンドは、望みのままに生きたいと思えたフェルディナンドは、そこで初めて理解する。亡き母もまた自分の生を寿いでくれていたことを。
だから、この光を抱いて生きていける、大切な家族として二人で。これからは、きっと…!!

(補足)「秘密の共有」の関係は非常に甘美な展開ができます。ちょっと文学調で書いてみました。

(2)すちゃらか調フェマ評の試み「破れ鍋に綴じ蓋」

女神の化身と讃えられる美少女と非の打ち所がない美青年。並び立つ二人のイメージに読者もうっとり出来そうなものを。
惜しいことに麗しのヒロイン、ローゼマインは「うひぃ!」だの「のおぉ〜!」だの奇声を上げるわ、フェルディナンドはクドクドと小言が長い。せっかくの美形も7割減(当社比)である。気に入らない時にはフン!と鼻も鳴らす。…美青年たるもの寡黙な方が良いのではないか?

そしてこの2人、生死の危機にあっても漫才をする。フェルディナンドにとっては深刻なトラウマのアダルジーザ離宮を前にしてさえ、破壊騎獣レッサー君を回想して笑いを誘う。
(え?こんな大変な場面なのに二人でいちゃいちゃしてる…!?)
継承の儀の後などでも、もうすっごく切羽詰まってるはずなのに
「此の期に及んで君はバカではないか?」
「分かりきったことを聞かないでください!」
緊迫の場面でこれである。

ゲオルギーネのエーレンフェスト侵攻戦の勝利の宴に招かれたハンネローレは、こうした二人の漫才めいたやりとりを見て問うた。
「…あの…このお二人はいつもこんなやりとりを…?」
ジルヴェスターは結局言葉少なに答える。
「概ねいつも通りです」
喋ると台無しカップル。
せっかくの美形二人、深刻なトラウマもある。
いくらでもシリアスでいける。
なのに耽美は笑いと相性が悪いのだ。
だが作者は最後の最後まで笑いの粉を振りかけ続けた。どんなに重いところも明るくと。
ヒロインは呑気で迂闊、フェルディナンドの闇にも負けず。
結局のところ「破れ鍋に綴蓋」似た者夫婦、ぴったりお似合い。読者はどうか幸せであれ!と願うばかりなのだ。

(補足)フェルマイをすちゃらか面で書いてみました。本好きは重たいところを重たくしすぎない工夫があってそこも凄いと思ってます。よく考えるとフェルもマと喋んなきゃかっこいいのかもと思ったり。それはそれとして、私も闇堕ちシリアス好きですv

(3)糖度高めフェマ評の試み「ベターハーフ」

神々さえも敵に回しても絶対に助けると堂々と言ってのけながら懸想ではないと宣うヒロイン。更に物語の創造神も宣われた。
「まだ2人とも懸想に至らず」。
然しながらヒロインの姉トゥーリ曰く
「家族同然は夫婦同然」
ヒロインにとってのキーパーソン、ルッツ曰く
「マインにこんな恋する女の子の顔ができるのか」
ありがとう、2人の天使たち!

そもそもユルゲンシュミットでは自由恋愛で結ばれることは少ない。
熱愛を謳われるジルヴェスター&フロレンツィア、アナスタージウス&エグランティーヌ、オットー&コリンナ、ギュンター&エーファも実は男性が情熱を示し続けた上の「絆され婚」だった。
賢いエルヴィーラ母が戸惑う娘に言う。
お互い一緒に居たいと想える相手と結ばれるだけで充分幸福なのだと。
エルヴィーラは既に知っている。
フェルディナンドの為に、救出その一点のために命を懸けて周囲も巻き込んで闘いに赴いた愛娘の内には未だ硬いが滅法甘い、まるで金平糖のような砂糖菓子のデカい塊りが溶け出すのを待っている。
無意識の言動ですら周囲が引く甘さなのに、本人が自覚してそれが溶け出したらフェルディナンドの身は保つのか?
いや、自覚されたらフェルディナンドの方が大変だとは物語の創造神もおっしゃっていた。

欠けていた半身にぴたりと嵌まる半身を得られる人は少ない。
欠損が大きい程求める熱も強かった。
まさにベターハーフ。
それぞれの身の内にいまだ凝った愛の塊が、今はまだ自覚もなく熱を持ちつつも凝っている大きな塊が、互いからいずれ溶け出してきっと溢たれていく。それは短く激しく燃える恋ではない。
大きな家族愛の中永く2人を包み、いつまでも温め続ける最上の愛情となる。

(補足)
最後は恋物語調でやってみました。
一応3つ提案した分の展開。
最後はエルヴィーラお母様に憑依してもらい…って貴族言葉分かんないけど。エルヴィーラは本当に良いよねえ。カルステッドとこれから改めて関係が深まるかも(大意)と言ってるのも良いですね。
ちなみに3つの試みで一番人気あったみたいなのはやはり最後の「糖度高め」展開でした。

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