[小説] 最悪の誕生日? 3 [終]
三. 三月一日 [終]
クラスメートの向日葵に誕生月を訊かれた塔矢は、普段は誕生日の話をするのが嫌だったが、今年は閏年なので状況が違う。ところが、誕生日の前日に予想外の展開になり、最悪の誕生日が訪れると決まってしまった。
078/さいあくのたんじょうび?
2024年2月25日完/四百字詰原稿用紙17枚
いよいよやってきた俺の十七歳の誕生日。苦手な奴もやってくるのだが、平日だからパーティーは夜である。ただ下校中の駅で、普段自転車通学の向日葵が「私に追いついたね、おめでとう」と笑顔で声をかけてくれた。俺は迫る闇にひりひりする心にあたたかい光が灯るのを感じ、今日一日ぐらい悪魔に花持たせて自分は未来を見ようとこぶしを握った。
未来って、彼女との未来である。
帰宅した俺を待ち受けていたのは、大学を休んで茜色の和服に包まれた姉ちゃん。一月に振袖姿で「『二十歳のつどい』って名前誰が決めたの?」と怒っていたのを思い出した。
「これ、ママの着物なんだけど、私のかわいさ五割増しだと思わない?」
床暖房が元気な居間で今日の姉ちゃんは機嫌がいい。和服一つでかわいく見えるならみんな毎日着てるはずという考えが浮かんだけれど、確かにいつもと違っていい意味で近寄りがたい雰囲気がある。これを弟以外の男は「かわいい」と感じるんだろうな。
もし向日葵だったらと想像して……、俺は悶絶してしまいかねない。三年後の成人式、じゃない「二十歳のつどい」、彼女の地元の会場に忍び込もうかな。
俺が良からぬ妄想をしていると、まだ陽も沈まぬうちに早くも招かれざる客が現れた。
こちらも〝いつもと違う〟スーツ姿の彼、背が高い姉ちゃんの本当の父親は、季節を忘れた向日葵の花束をプロポーズよろしく姉ちゃんに差し出した。ああ、プロポーズは指輪か。でも悪魔のほうから花持たせちゃったよ。
ところが、彼の頭に目を丸くした姉ちゃんの結婚があるのは同じだった。
「和矢君、薫をここまで立派に育ててくれてありがとう。今日は薫の将来のバージンロードの権利を譲りにきたぞ」
姉ちゃんの隣には仕事を午前だけで切り上げた俺たちのお父さん、和矢が唖然と立ち尽くしている。姉ちゃんの簪の角度を直していたお母さんが瞳をうるませて、お父さんと俺たち姉弟に事情を説明する。
「最初から父親として薫に会うのは二十歳で終わりにする予定だったのよ。私はやめなくていいと思ってたけど、一度決めたら融通利かない人だから」
見れば二十歳になって花束を受け取った姉ちゃんと同じくらい、融通利かない本当の父親が泣いている。花言葉を考えるとあきらめてない気もするけれど、こちらのお父さんも涙涙だし、泣いていないのは俺だけだとあきれかけていたら、
「塔矢君にも、嫌な思いをさせてたみたいで、うん、ちゃんと気づけなくてすまん」
元臨時監督にただただ頭を下げられた。
俺はどうすればいいかわからずお母さんに助けを求め、そのまなざしから答えは見つからなくて俺も深くおじぎするしかなくなる。いや、それも間違っていたかもしれない。
結局、過去のことは許しはしないし苦手なのは変わらないが、もう会うことはない人をいつまでも気にしてても疲れるだけだ。
と、そのとき──、
りーんろろろろーんとインターフォン。
今我が家で起きていることから一番距離がある俺が玄関の近くにいたので、お母さんがモニターで確認するのを待たずに扉を開ける。
うわっ、えええええっ?
「こ、こんにちは……」
何と、本来の主役である誕生日の俺にも、小柄で誰よりセーラー服が似合う向日葵の花束がやってきてくれた。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
融通が利かない自分を嫌われ役にしてみたらどうなる?と思ってこの小説を書きました。薫の本当の父親と私は全然違う設定の人間ですけどね(私の設定って何)。
向日葵の花言葉は、調べたところ細かい表現も含めいろいろあるけれど、ここでは「あなただけを見つめている」にしました。また、最初は中学2年生の予定だったので、塔矢と向日葵はちょっと幼いかもしれません。
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