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[小説] 消しゴムから出てこないアイツ 5 [無料]

episode 5  待て待て待て待て


かわいい女子3人で誕生日を祝ってあげたばかりの大和が、彼に恋する也実の消しゴムの中に入ってしまった。彼は自分の意思ではないと言うが原因はわからないし、またなぜか彼はやたら高い声になっていて──?

※ episode 1〜5 は全文無料で読めます(有料にした理由

077/けしゴムからでてこないアイツ
2023年10月26日完/四百字詰原稿用紙46枚


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 私は消しゴムを投げたその右手で胸を押さえるも、鼓動の舞い上がりが止まらない。消しゴムは奇蹟的に机の上ぎりぎりで止まり、私は整わない息で「ね、ねえ、どうしてそんなこと、してるの?」と訊ねた。
『はあ? これは俺の意思じゃねえよ! だいたい何が起きてるか俺にはわかんねーんだよ』
 大和の答えは当然のもので、そりゃあこの恐ろしい状況をみずから望んで起こす人はいないだろうし、どうなってるのか訊かれたばかり。もう黙っていられない私は歯を食いしばって机の端の消しゴムに顔を近づけ、適してるかわからない答えを口にする。
「あなたは──、私の、消しゴムの中にいるみたいなの」
 待て待て待て待て、自分のとはいえこんなとっぴな考えを信じるのか私は、人に話していいの? 頭を抱えて混乱しかかる私に、大和は『消しゴム……』とつぶやいた。
 そして軽く爆発を見せる。
『俺は昨日から暗闇の世界に閉じ込められて、一日がまんして考えてたんだ。禅の境地だぜ? でもわからねえ、全然わからん。消しゴムの中だと? ふざけてんだろ。逆に本当なら何してくれてんだ也実、ふざけんな!』
「禅の、境地……?」
 私は大和の声が高すぎて我に返り、よけいなことまで気になった。声変わり前さえ下に見そうな高音域では、いくら口調が乱暴でも男らしくも怖くもないから。おかげで私は、
「ちょっとえっ、じゃあ本当だから私のせいだっていうの?」
 と彼に言い返せるほどだった、声が大きかったかもしれない。
『──お、おう。あたりまえだろうが』
 大和はなおも私のせいにしてくる。
 それにしても、逆に怖いのは私のプライバシー。彼は昨日の火曜日から私が持つこの消しゴムの中に入り、学校を休んだのではなく一日がまんして黙っていたという。何か恥ずかしい声やつぶやきを聞かれてはいないだろうか。
 私が消しゴムを恐る恐る捕まえて「何も知らないよ、私は」と声を抑えて口にしたとき、二年三組にチャイムが鳴り響いた。
 うう、でもまだ予鈴か……。
 私はまたメモのことを思い出したのだけど、
『おい、今のチャイムは何だ? 八時半か?』
 大和の問いかけに「二十五分」と一言で答え、消しゴム──彼から手を離す。五分後の「八時半」にホームルームが始まるのだとじりじり目を瞑って念じていたら、不機嫌な本鈴があっという間にやってきた。


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ここまで読んでいただき大変ありがとうございます♪
消しゴムはぎりぎり落ちずにすみましたが、也実は消しゴムに、いや大和に「消しゴムの中にいる」と告げてしまいました。大和はこれからどうなる?
それでは、続きもぜひ読んでくださいね!

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