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「ひとつひとつ、違っていい」福祉のチョコレート工房を取材して

単独で取材した記事が、ウェブメディア「ぶんしょう社」にて公開されました。

多くの方にご感想をいただき、ありがたい気持ちでいっぱいです。すべて紹介したい気持ちをこらえ、厳選した6ツイートを貼らせていただきます。






コメント・シェアしてくださった皆さん、ありがとうございました。今日は、なぜわたしが福祉のチョコレート工房「ショコラボ」を取材することになったのか。そして、どのように取材を行っていたのかを書きたいと思います。

きっかけは、地域情報サイト

個人の関心をSNSで満たす時代ですから、素敵だなぁと思うヒト・場所・モノの情報は、ネットを使えば簡単に手に入ります。ただ、取材となると「こういった方法だけでは、なんだか心もとない……」と思っていました。

それは、「人となりが見えない」からです。取材相手とは一対一でお話をうかがうので、自分と合わない方でも書けるだろうかと不安になってしまうのです。

「もし、その方の考えを理解できなかったら?」

「自分と相容れない考えをお持ちだとしたら?」

そう考えて、はたして最後まで書くことができるのだろうか、と逡巡してしまう。この葛藤は仕方ないかもしれません。人間ですから、気持ちがあれば言葉を紡げますが、気持ちがなければ紡げません。

ただ幸運なことに、わたしはファーストタッチの機会をいただけていました。川崎・横浜の地域情報サイトの取材ライターとしても活動をしていたので、わたしが調べずともメディアの担当者さんがアポイントを取ってくださるのです。

こちらのメディアでは、お店が別のお店を紹介する「レコメントページ」というものがあり、そこで名前が上がったお店にアポイントを取っていらっしゃいます。

そのおかげで、わたしはさまざまな業種の方々のお話を伺うことができました。会社の雰囲気や考え、働く方々の人となりを知ることができたのです。

今回のショコラボも、そのひとつでした。

障がいに関係なく働ける場所を。カカオ豆からお菓子を作るチョコレート工房(地域サイトメディア『都筑区.jp』)

今年の7月中旬、ショコラボ・グループの民間企業である「ショコラ房」の店舗責任者、川村茜さんを取材しました。その取材の中でうかがった、会長の伊藤紀幸さんの「会社を起こす経緯」に、わたしは胸を打たれたのです。

社交ダンス講師が、ショコラボの代表を紹介!?

その日、自宅に帰ってから、伊藤紀幸さんを調べました。ネットでは、日経新聞やテレビ、ウェブメディアなど、さまざまな媒体ですでに伊藤さんは登場していました。

ただ、わたしが胸を打たれた点について書かれた記事はありませんでした。「もっと知りたい、ぜひお会いしてみたい!」。そんな気持ちが膨らみます。ただ、面識もないのにいきなりご連絡するのは憚られる……。わたしは数日間悩みました。

そんな矢先、奇跡が起こりました。

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Facebookにショコラボ・グループの商品を紹介したら、社交ダンスインストラクターとして交流のあった友人(わたしは社交ダンス講師でもあります)からDMが届いたのです。

「ショコラ房の取材を見て、嬉しく思いました。社長の伊藤さんは知り合いなので、深く取材したいという事でしたら、紹介しますので、またお返事下さい!」

願っていたことが、まさか畑の違う社交ダンスから飛び込んでくるなんて!! まったく思いも寄りませんでした。すぐにお返事をして、取材させていただきたいとお伝えしました。その後、トントン拍子に日程が決まり、伊藤さんとお会いすることになったのです。

下調べと記事の構成

独自取材を行うとき、わたしは記事の構成を考えて取材に臨みます。持ち込み企画は自由度が高いので、事前にイメージしておかないと取材で迷走してしまうからです。ライターの語り形式にするのか、Q&A方式にするのか、独白形式にするのか。形式を決めたら、下調べから想像できる構成をノートに書き出します。(取材のあと、ガラリと変える場合もあります。)

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ここで大変ありがたかったのは、伊藤さんが著書を出されていたことです。伊藤さんが何を大切にしていて、どんなことを取り組んでいるのかを事前に知ることができました。ざっくりではありますが、こんな構成をイメージしていました。

(構成)
前半の段落:伊藤さんご夫妻がショコラボをつくる経緯。
後半の段落:福祉のいまの現状と、おふたりが大切になさっている思い。

当日、本をギュッと握り締めながら、「伊藤さん、この本に書かれた人生を、より深く書かせていただきたいのです」と丁寧にお伝えする……つもりだったのですが、実際は「本を読みました! とっても感動しましてっ。取材できて嬉しいです!」と、やや興奮気味に話してしまいました(笑)

伊藤さんは、「おお、本読んでくれたんですね。うれしいです!」と笑顔で応えてくださり、本で紡がれた言葉をより細かく、当時の気持ちを丁寧に話してくださいました。

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この日、福祉事業所としてのショコラボ、民間企業としてのショコラ房、そして作業場を案内してくださり、妻の祥子さんにも直接お話を伺うことができました。

記事に入れるか、入れないかの選択

正直なところ、記事には書ききれなかったところもあります。伊藤さんは、銀行員から格付け機関へ転職し、そのあとアナリストとしてさらに腕を磨くため外資系格付け会社「Moody's」のムーディーズ・ジャパン株式会社に転職されました。

仕事にやりがいを感じていたけれど、伊藤さんはご子息のために「障がい者が働ける”仕組み”をつくること」に人生をかけることを選んだのです。

わたしは、この葛藤や思いを直接聞きたいと思いました。

「決断に迷うことはなかったですか?」

「満足していた仕事を捨ててまで、取り組もうとされた意志は、いったいどこからきているのでしょう?」

「それを受けて、妻の祥子さんはどう感じましたか?」

取材したことを全部書いてみたら、1万5000文字くらいになりました。これは長い。長すぎる。電子書籍がつくれてしまう。当初の構成を見つめ直し、記事に入れる部分と入れない部分を推敲しました。

今回は、伊藤さん夫婦の心の動きを記事にしたい。それが記事の柱でした。ショコラボのコンセプトでもある「ひとつひとつ、違っていい」という意味をちゃんと書きたかったのです。そのため、おふたりからいただいた金言の数々を省かなければならないこともあり、心苦しい思いでした。

個人的に、祥子さんのこちらの言葉が好きです。

祥子さんのお話を伺って、「祥子さんは、ずっと伊藤さんを支えてきたのですね」と話すと、祥子さんはフフッと笑った。
「夫を支えようなんて、全然思ってないんです。あなたはあなた。私は私って思ってます。自分と同じ気持ちになってほしいなんて、無理なんですよ。人に『こうやって働いてほしい』と強いたとしても、その人が本当にしたいことでなければ続きません。変えるのは相手じゃない。自分を変える方が楽でしょう?」

これこそ、ショコラボの理念である「ひとつひとつ、違っていい」につながる考え方なのではないかと。わたし自身、人と違うことでつらい思いをしたことがあったので、この言葉は「自分らしくあっていいんだよ」と、許しを得たような気持ちになりました。

この取材を経て、わたし自身の生き方も振り返ることができました。利益や売上ばかりに意識を向けるのではなく、自分らしく働く、働ける“仕組み”をつくる。そんな挑戦をしている人たちに、これからも取材していきたいと思います。

伊藤さん、祥子さん、そしてショコラボ・グループの皆さん、ありがとうございました!

(記:池田アユリ)

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