見つけた。
もう10年以上
目に入っていなかった気がする。

物心つく頃から見てはいるけれど
気にも留めていなかった花。

皆が一年間待ち侘びていた桜の花は
幾千もの薄ピンクの花
（でも一枚の花びらは白っぽい）
で春を彩る。
散った後も新緑の葉桜となり
皆に愛される。
そんな圧倒的な美しさの桜と
入れ替わりのように
道路の隅に咲き出す花。

そのころの私は
この花があまり好きじゃなかった。
端的に書くとちょっと地味で
印象の少ない花だったから。

たんぽぽは
明るい黄色とまんまるの綿毛が
ぽこぽこ咲く様子が愛らしい。
おしろい花は
ピンク、白、黄色の
色とりどりの元気な花たち。
咲き終わった後は
種を探す楽しみもある。
下校途中に集めて回ったのが懐かしい。

そんな華やかな花たちに対して
この花はあまりに目立たず
しかも少し当たりの良くない
場所に限って咲いていた。

例えば校舎裏。
通学路の道端。
公園の隅のベンチ裏。
見かけてもそれはまわりと同化し
風景としてしか
認識していなかったように思う。

寂れた駐輪場の横の
寂れた車が放置されている
雑草だらけの空き地にあった。

4月というのに28度超えの日差しが
真上からじりじり照りつける中
凛と咲く姿は記憶の花と
全く印象が違っていた。

頭の中のその花は２〜3本が
申し訳なさそうに咲いている
イメージだったけれど
この日出会った時は
優に30本以上は咲き乱れていた。

なぜか目に入った途端
記憶の中の花と合致して
目が離せなくなった。

幼い頃はただ目に入らなかったのか。
数十年経ち花の勢力が増してきたのか
わからないけれど
こんな日当たりの中に出てきて。
これでさよならしたくないなあ。
慌てて携帯で写真を撮った。
空き地に向かってシャッターを切る。
あやしまれないように
ささっと駐輪場を後にした。

GreenSnapというアプリがある。
花の写真を登録するとAIが分析して
名前を調べてくれるのだ。
どうやらハナニラというらしい。
写真を照らし合わせただけなので
もしかしたら違うかもしれないけれど…
いちいち名前が気になってしまう性格なので
最近とても重宝している。

春に星形の花が沢山咲くので
英名はspring starflower。春の星の花。なんて素敵。
花言葉は「悲しい別れ」「耐える愛」。

驚いた。
それなりに年齢を重ね
それなりの経験をしてきた。
自分の分身のような花だったんだと思った。
知らなかった。
幾つになっても
世の中は知らないことだらけだ。
気がつかず通り過ぎているだけで。

ギラギラと鮮やかに
目立つ花だけでなく。
ほとんど愛でられず
地味だけれど凛として咲く
かそけき色の花が好きになれるくらい、
少しは大人になれたのかな。