マーケティングとコミュニティ運営ってどうつながるの?/佐渡島さんに学ぶ。

最近、コミュニティについて考える機会が増えるようになり、最近読んだ佐渡島庸平さんの『WE ARE LONELY,BUT NOT ALONE.』は、非常に学びが多かった。

この本が発するメッセージを自分なりに咀嚼すれば、

「多くの人の孤独を救うのはコミュニティだ」

と言えるのではないかと思う。
孤独を感じていないと思っている人の多くが実は、孤独になりつつある世の中になり、その人たちの居場所(コミュニティ)をつくっていくことが幸せな世の中になるということがこの本の大目的としてあると思った。

この本は、基本的には、コミュニティをこれから運営したい人やコミュニティ運営で悩んでいる人へ向けた本である。けれども僕の仕事はマーケティングに関わることであり、企業がそのようにコミュニティを活用できるかを探っているため、ここでは、企業のマーケティングや顧客とのコミュニケ—ションに関わる担当者が、どのようにコミュニティを活用できるかという視点で、本書から得られたことを書いていきたい。

企業のマーケティング活動におけるコミュニティ活用は2つの視点があると思う。(※ここで言うコミュニティは、下記でも出てくるがファンクラブではない。ファンコミュニティとして捉えます。)
①自社でファンコミュニティを運営する。
②自社外で運営されているファンコミュニティにお邪魔する。

長くなってしまうので、今回は①の視点から触れたい。
コミュニティ活用を考える前提としてまず、人の価値観の変化について抑えたい。まず、本の中でアイデンティティについて下記のように語っている。

ネット普及以前の時代はアイデンティティのよりどころは、「何を手に入れるか」(いい学歴、マイホーム購入、ブランドの服や時計を身につける。結婚式はどこどこで行う。など)であったが、そんな身に纏うものがアイデンティティとなる時代は終わり、「何をやっている人か?」「なぜやっているか」という理由が重要になっている。人々は物質の所有やヒエラルキー組織への所属ではなく、自分は何を欲しいのか、何をいいと思うのか、それをわかりやすく表明している個人への注目が集まっていく。

あらゆる人が何かしらのコミュニティに属していると思うけれども、コミュニティ内で上記の価値観の変化に対応できていない人たちは、孤独を感じ始めている。その孤独な人たちの居場所がコミュニティになり、企業としてはこのような人をどう巻き込んでいくかという視点が必要になるかと思う。

そして本の中には、「安全と安心」の確保がコミュニティの運営で真っ先にしなければいけないことであり、重要なことだと何回も出てくる。
安全・安心の確保がないコミュニティは、たとえ熱狂していても長続きができない。この点は、企業のマーケターにとってコミュニティづくりをするときに、押さえておく視点だと思う。自社のコミュニティにおいて、安全・安心を確保するためのルール作りは必要不可欠ということだ。
ここでは書ききれないが、本の中にいろいろと安全・安心を確保する方法のヒント(自己紹介の仕方や新しいメンバーが加わるときの迎え方など)が書いてあるので、興味がある人は読んでみてほしい。

そして僕は、この本を読む以前から佐藤尚之さんの書籍「ファンベース」を読んでおり、この佐渡島さんの本とも視点が重なる点があったので触れたい。

「作者の幸せ」について下記のように述べている。

自分のことを深く理解しようとしてくれている人が一定数以上いること。それが作家の幸せに直結するのではないか。1冊が100万部売れて、その後はどれも1万部になって、なかなか出版社が企画を受け付けてくれないよりも、毎年出す作品が10万部売れるほうが、作家にとってずっと幸せだ。

ここでは「作家の幸せ」についてだが、これを「企業の幸せ」と置き換えると、「ファンベース」でも語られていることと重なり、企業にとっては、打ち上げ花火の成功よりも、継続的に売り上げを支えてくれる一定のファンがいることが幸せだということだと思う。
また次の箇所も参考になった。

ファンコミュニティを運営できている事務所のタレントがテレビに出れば、視聴率をはじめとした話題作りが、ファンコミュニティで自然と起きる。そうなるとタレントの価値は高くなる。必然、よりいい番組への出演交渉ができて、もっと価値を高められる。つまり、ファンコミュニティを持っていればいいものを作ることを最優先できるけれど、それがないと目の前で話題になることを追いかけて、自転車操業から抜け出せない。

これについて企業のマーケティング活動に置き換えると、ファンベースのコミュニケーション(コミュニティ運営と活用)を行うことは、結果としてより自社の商品開発やコンテンツの質(コンテンツへの投資)を高めることができる。それができていないと目の前の売り上げを上げることに精一杯になってしまい多額の費用を投じる(広告宣伝費)キャンペーン型(山なり)のコミュニケーションから抜け出せないということをわからせてくれる。

また、下記の「日本酒ではなくホームパーティを売る」という事例も参考になる。

楽天にある、お客さんと普段からメルマガでコミュニケーションを取っている日本酒ショップの話。ある日メルマガの書き手が保存料が入っていない美味しい日本酒と出会い、お客さんもそれがほしいというので、日時指定で送ることにしたというのだ。すると、届く日にちが決まっているから多くの人が、その日にホームパーティを開き、日本酒にあった料理をつくる。そして、友人に日本酒のうんちくを語る。さらにそれ以降毎年、日本酒ショップの恒例のイベントになっていくという成功事例の話だ。

ここから学べるのは、コミュニティ内から思いがけないアイデアをもらえるということだ。たとえば、日本酒メーカーがファンコミュニティを運営しているとする。コミュニティとのコミュニケーションを通して、日本酒を売るためには、ホームパーティというイベントを企画することが新しい商品の売り方だということを、コミュニティ内からアイデア得られることだ。コミュニティ活用は、キャンペーン施策のアイデアがほしいときにも生かせそうである。

さらにファンコミュニティの活性化のヒントもこの本は与えてくれる。

今、多くの人が抱えているのは、情報がほしいという欲望ではない。関係性を築きたいという欲望だ。1対Nをインタラクティブにするだけでは足りない。N対Nで複数の関係性を築くことができると、そこを自分の居場所と感じることができる。安全・安心を感じながらつながっている人の数が多ければ、孤独は薄れる。

コミュニティを継続的に活性化させていくために、マーケターが注意しなければいけないのは、情報を出すタイミングを運営者がコントロールするような一方的なコミュニケーションではなく、コミュニティ参加者が自発的に学べるようにファシリテーションをすることが必要であるということがわかる。

以上、まとめると、企業のマーケティングにおいてコミュニティ運営がどのような価値をもたらすのか、またコミュニティ運営で必要な視点として、下記のようなことが言えると思います。

・「安全と安心」の確保がコミュニティ運営では最優先
・企業の幸せにはファンコミュニティの存在が必要。
・ファンコミュニティを持つことで、広告宣伝費を減らし、
自社商品やコンテンツへの質を高めることに投資できる。
・コミュニティ内から自社商品開発やキャンペーンのアイデアを得られる。
・コミュニティ運営に携わる人には、一方通行の情報提供ではなく、自発的に学びたくなるようなファシリテーション力が必要。

たくさんのヒントをくれた佐渡島さんと箕輪さんに非常に感謝。

そして私がこの本を読んで一番感じたこと。
それは、これからのマーケティング活動には、自社を愛してくれるファンコミュニティの運営と活用は必須であり、その運営者には編集者としての能力が求められるということだ。

「マーケターに求めらる編集力」

またそのうちこのテーマについては深堀していきたい。

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