第5話 2023.7.8

「幸せって何だろうな」
「急にどうしたの?」
「いや、ふと思って。お前は何だと思う?」
「何そのフワッとした質問。先にアンタが答えてよ」
「俺?そーだなぁ、何だろう。お前と話せる今この瞬間が俺の幸せ、みたいな?」
「はいキモい」
「反応が早いんだよ。え、何だよ?お前は幸せじゃないのかよ?幸せだよな?幸せって言ってよ」
「幸せの強要とか1番ダサいよ」
「うぐっ!じゃ、じゃあ、お前はどんなとき幸せなんだよ?」
「アタシ?顔の良い男と、高いお店で高級フレンチ食べてる時」
「最低じゃねぇか!」
「どこが?」
「いやどこがって.....煩悩に塗れてるじゃんかよ」
「アンタも同じでしょ」
「いやいや俺のは違うから。ただ君と同じ時間を過ごせるだけっていう、とても素敵でロマンティックなヤツだから」
「それ本気で思ってるわけ?」
「思ってるよ」
「はいウソ」
「ウソかどうかは俺に決めさせろよ」
「だって、ウソなんだもん。ただの女好きじゃん、アンタって」
「そ、そんなことないわ!なんて人聞きの悪いことを」
「じゃあ嫌いなわけ?嫌いな奴と、こんなしょうもない話してるの?人生損してるね」
「いや、あの、いちいち言葉の刃が尖りすぎてんだけども。そのうち首切れるよホントに」
「で、どーなの?嫌いなの?」
「それは....そら、嫌いな奴とこんなに楽しく話したりしねーよ......エヘヘヘヘへ」
「でさー」
「いや笑ってよ。笑うとこじゃん今の」
「そんなルール知らない」
「いや、あるじゃん、オードリー的なノリっていうか.....」
「ないから。アンタのルールをアタシに押し付けるな。アタシはアタシの生きる道を生きる」
「いやカッコいいな!」
「てかさ、アタシもアンタも本質的には同じなんだよ。ただ、自分の欲求を満たした時に幸せを感じてる。それが人間の生物本来の幸福っていう感覚なんだよ」
「なんか身も蓋もないこと言ってないかお前?」
「事実を言ってるだけ。マズローの欲求五段階説って、あるでしょ?あ、バカだから知らないか」
「知ってるわ、勝手に自己完結すんな」
「あっそ。あれって、人間の欲求を『生理的欲求』『安全の欲求』『社会的欲求』『承認欲求』『自己実現の欲求』の5つの階層に分けたものだけど、あれらを満たせた時って、人は幸せを感じやすいと思うんだよね。だけど、人間の欲求って底なしだから階層の下の欲求が満たせたら、次の欲求を求めるようになる。そうやって、幸せの階段を登っていく。一つ幸せを満たせたら、また次の幸せを探すように。人は一生幸せに呪われてるんだよ」
「いや怖いまとめ方しないでくれる?」
「でも、そうじゃない?アンタは今、本当ならアタシと話せて幸せな筈なのに、幸せのあり方について考えてたわけでしょ?本当に幸せで満たされているのなら、そんなこと考えない。幸せは移り変わっていくものなのよ。それが幸せのすべて」
「んー、なるほど。そーいうものなのか」
「そーいうものよ」
「なんとなく分かったよ。てかお前、優しいよな。こんな面倒な話に付き合ってくれるとか」
「自分よりダメな奴見てると優越感に浸れて幸せだからね」
「やっぱ前言撤回するわ。お前は最低だよ」


幸せとは欲を満たすこと。
そして、その欲は人によって違う。

今やりたいことをやる。
それが答えなのかもしれない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?