見出し画像

第三夜 『変身』

グレゴールがある朝ベッドから目覚めると、自分が虫になっていたという作品はフランツ・カフカの代表作『変身』の冒頭である。

同作家の短編小説『掟の前で』を読んでみるとわかる。カフカという作家の作品の多くが変わりたいけど行動ができない自分への苛立ちなのだということが。

そう。
今宵の物語は、現代でカフカが作品を執筆するであろうとしたらフォーカスが当たるサラリーマン、つまりは会社員の物語である。

とある一人の会社員…

ある会社員の男がいた。
彼は常に会社に不満を抱いていた。

その日は連帯責任という名目で残業させられた日だったかもしれない。
もしくは、ノルマが達成できていないものが上司から怒鳴られる様を横目に見ていた時かもしれない。

とかく会社は窮屈であった。
彼は社会人経験10年の中で2回ほど転職をしているが、どの会社も楽しめるものの嫌悪感を抱かざるを得ない慣習があった。

  • 終業時間中に退勤させ残業をつけさせない会社。

  • 有給休暇を取ることを許さない会社。

  • 過剰なノルマを与えながら、個人裁量で働かせる会社。

不満はあっても彼は基本的にうまく適応するタイプであった。
それが原因で退職するというタイプでもなかった。

彼の転機はある夜1人の男に会社を立ち上げようと誘われた時であった。
ちょうど2回の転職を経て、どの会社も良いところもあれば、納得のいかないようなこともあるんだなとどこか達観したおもしろくない社会人が形成されようとしていたまさにその時であった。

「営業職が次の世代にもカッコいいと思われる時代を作りたい」
こんな誘い文句あるだろうか。しかも、その無謀な提案は彼を代表として会社を立ち上げるという。

誘いは面白いと思った。しかし、一度立ち止まって彼は考えた。
自身が代表になってまで、それを叶えたいと思えるかということである。
少なからず不満の中の一つに、営業という仕事に対して無責任な行動が多いという点もある。しかし、そこだけを是正した会社を作りたいと思えるほどのモチベーションは彼の中でそこまでの比重は大きくなかったようだ。

しかし、彼はこの誘いを結果快諾した。
彼は今まで働いてきた中で、自身が嫌だった慣習を排除した会社が作れるのではないかという仮説を立てたのである。
そんな会社で自分は働きたいと。ないなら作ってしまえばいいと。

彼はその時初めて気がついてのである。
今までの様々な会社や世の中への不満は、自身がそれに対して解消する行動を起こさなかったことに対する苛立ちなのだと。

『変身』の中でグレグールは結局、己を変身させることができずに終わった。
彼は行動を起こし変身できたのだろうか。
それは今後の物語でわかるのかもしれません。

物語の続きはまた明日の夜に…
良い夢を。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?