009 ワレ、カク タタカへリ
僕はどこの国の出身だとかで、その人を判断したりしない。それは多分、僕がいままで付き合ってきた人々皆が保証してくれるはずだ。
でも、現実には素行の悪さが目立つ人々の出身国が偏る、というのはどうしてもある。ヨーロッパなんかでは、とあるアジアの国の人々は店に入るななんて当たり前のように書いてあるくらいで、素行の悪い国は、人々がその所業を重ねれば重ねるほど、どんどん行動範囲を狭められていく。
良し悪しは別にして、世の中はこれが当たり前の流れだ。
シャトルバスが高速に入り、一時間半程度走ったころ。
席の最後部から、雄叫びななのかなんなのか、異常に大きな声が響いてきた。僕も、僕の周りの人も、何が起きたのか確かめようと席を立ち、後ろを見た。
見ると、最後部に座っている中国人2名が殴り合っている。正確に言えば、お土産で買ったと思われるおもちゃの刀で殴り合っている。ものすごい形相で大声とともに。
そのうち、僕たちが座る方まで大立ち回りを演じながら、近づいてきた。
僕の席の前後の人たちは、ただ呆然と見入っている。
運転手さんも異変に気づき、二人に席に戻るようにアナウンスするが、二人が言うことを聞くはずがない。
といっても運転手さんがハンドルを離してこちらに来るわけにも行かない。
暴れまわる中国人は目の前まで迫ろうとしている。
僕は彼らの方に向かった。そして近くの中国人の刀を掴んで取り上げた。何か言ってるけど気にしない。何せこの時期の僕にははっきりとした感情がない。
少し語気を強くして、元の席に戻るように言った。もう片方の刀も取り上げ、二人を押し戻す。何か言っているが、そんなの知らない。
座るようにジェスチャーするが、こちらに刃向かう様子を見せるので、前の方に行かないよう、通路をふさぎ、繰り返し座るようにジェスチャーをした。
途中殴りかかられたりさんざんだったが、腕を掴んで押し戻したりして、彼らのやりたいままにはさせなかった。
運転手さんがマイクごしに大丈夫かと聞いてきたので、大丈夫だと答えた。
「車内トラブルのため、次のサービスエリアによります。他のお客様にはご迷惑をおかけいたしますが、ご理解と……」
車内アナウンスが流れた。
「ビックリだよなあ」
後ろで声がした。たぶんハゲGT-Rだ。
サービスエリアに入り、バスが停車した。運転手さんが、席の後部まで来る。僕は相変わらず彼らの前に立ち塞がり、防波堤の役割を果たしていた。
「大丈夫でしたか?」
「はい」
運転手さんと身体を入れ替える。
運転手さんは、スマートフォンでなにか打ち込んで、二人に見せた。後で運転手さんが教えてくれたが、この時、
静かにできなければ警察を呼んでこの場で降りてもらう
みたいなことを、翻訳して見せたそうだ。
何とかこの場は落ち着き、バスが再び走り出す。
「大変ご迷惑をおかけしました」
運転手さんのアナウンスが聞こえた。別に運転手さんは悪くないだろう、たぶん皆そう思ったはずだ。
当時はその時すべき行動をとっただけといった認識で特にこれといった感情も感想もなかった。
でも、仕事が始まると、この経験が思いっきり役に立つわけだが、この時の僕はそんなこと想像だにしなかった。
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