014 嫌な胸騒ぎの意味
深夜。バスターミナル。急ぐように次々に入ってくる車両たち。そしてそれを待つ大勢の人たち。
僕はそこにいた。次の面接地に行くにはやや遠距離を移動しなければならない。
でも、たぶんそこまでの交通費はでない。
それを考えると、安価な移動手段を探す必要があった。そして見つけたのが夜間バスだった。
「198番〜行きのバスが〜乗り場に到着してます。チケットお持ちの方は急いでください〜」
面倒臭そうなアナウンスが流れる中、バスを待つ大勢の人たちは、地べたに座り、ただただ自分の目的のバスが呼ばれるのを待っている。
スマートフォンをいじる人、カバンを枕に寝る人、お菓子などを広げて仲間とパーティを始める人さまざまだ。
周りを眺めていると、僕はあることに気がついた。バスを待っているほとんどの人間は、たぶん若い。大学生とか、もっと若い人たちがその大多数を占めていた。
よくわからなかったが、たぶんこの時感じたのは嫌な胸騒ぎだった。何か、変な感じがした。
嫌な胸騒ぎを抱きしめながら、一時間くらいたっただろうか。流石に旅の疲れもあってウトウトし始めたころ、お目当てのバスの到着を知らせるアナウンスが流れた。
僕はバスに向かった。係員がチケットを確認するとバスを指差して座席番号を言い、乗るようにいった。
「小さい…」
ホテルへの送迎で乗ったバスよりも明らかに小さい。そこら辺を走っている路線バスと同じだ。
ただ先ほどの嫌な胸騒ぎはこれでおわりではなかった。
狭い車内を這うかのように進み、座席に座る。狭い。本当に狭い。
僕の席は通路側。窓側の席の人物はまだいない。
席についてしばらくすると、向こうから巨体を揺らしながら迫ってくる人物が現れた。汗をぬぐいながら、こちらへ向かってくる。
そして僕の前で止まると、頭を下げてこう言った。
「すみません、奥の席いいですか」
大きな体の持ち主は隣の席に収まった。いや、無理やり収まらせたと言った方が正確だった。
バスの二人乗りの席というのは、ほとんど同じ幅のシートが二人分用意されていて、それがくっついている。
そう二人分、それぞれのために。
だから、本来なら座ったとしても、それは50%50%でそれぞれの割り当てられた領域におさまるのが道理だ。
だが、今回は明らかに状況が違っていた。
どう見積もっても巨体の人物の占有領域は70%に迫りそうな勢いであった。しかも、物理的にそうならざるを得ないだろうという空気がそこには立ち込めていた。僕は諦めるしかなかった。
この物理的な文字通りの圧力と生暖かい空気、そして、湿っぽい隣の人間の感触。
最初に感じた嫌な胸騒ぎはこれを察してのことだったのか!?
この時、何となく不愉快感はあった。ただ、こんな状況を表す不愉快や理不尽といった言葉をまだ持ち合わせていなかった。
いまなら、声を大にして言いたい。せめて運賃を4割引にして欲しいと。そして彼にその分負担させて欲しいと。
このあと、僕はこんな状況で六時間耐える必要があった。今なら恐らく耐えられなかった。でも、この時は記憶だとか感情が普通の人間レベルには達していなかった。そのおかげで僕は最後までなんとか耐え忍んだのだった。
思えばこの時が最強だったのかもしれない。
そして、夜が明け、バスは目的地へと到着する。
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