006 禿げ上がったGT-R
「おれわさぁ、ニッサンがなんであーなっちゃったのか、わけわかんねーんだよなぁ」
席の最前列の方から、話し声が聞こえる。だいぶ酒が入っている様子だ。
「ずっとGT-R乗ってきてやったんだけどさあ、今のなんかぜーんぜん買う気しねえよ」
僕は声の主を確かめたくなった。姿勢を変えるふりをして少しだけ座席から身を乗り出す。
禿げ上がった頭と、いかにもなメガネ以外これと言って特徴のない中年の男。それが声の主だった。
「俺を満足させるFRのスポーツカーはもうないんだろうなあー。ガハハハ」
その男ばかり話していて、同じグループの他の人たちは、ただただ不自然な笑みをうかべ、話を聞いている。顔文字に
(^_^;)
↑こういうのがあるけど、まさにこんな感じ。
でも、お酒がはいっているせいか、当の本人はやめない。
「車なんてさ〜、大人の娯楽じゃん。ずっと乗ってやってる俺みたいな客を満足させられないで、ハイブリッドだとかエコカーだとか笑っちゃうね」
「あなた。そのくらいにしなさいよ。」
「俺は間違ったこと言ってないぞ」
そのうち、彼の妻と思われる人物からストップがかかった。しかし、彼はやめない。
「せっかく気持ちよく話してんだから、余計なこというなよー」
彼はまだ話し足りない様子だ。だんだん周りも不穏な空気を察し始め、もう片方の中年の男性が口を開いた。
「まあまあ。仲良く仲良く。せっかくの旅行なんだからさ」
この一言を境に、おしゃべり男は喋らなくなった。酒が回って眠ったのか定かではないが、とにかく喋らなくなった。
何かで女性はおしゃべりが好き、というのを見たことがある。でも、そこそこ年齢のいったおじさんもおしゃべりがかなり好きなんだな、僕はそう思った。
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