見出し画像

【ことわざdeショートショート】待つ間が花(だったかもしれない)

#ショートショート
#短編
#待つ間が花

※ことわざの意味とはだいぶ乖離したお話になってしまいましたが、その辺りはサラッと流してくれたら、猫本はのどをゴロゴロ鳴らして喜びます(笑)


アイドル育成ゲームなるものを買ってみたのは、ほんの一ヶ月前のこと。
以前から興味はあったものの、恥ずかしがりやの性格に加えて、誰かに見られたらどうしようというどうでもいいプライドが邪魔をして、買ってからもすぐに開封することなく、半ば放置されていた。

「はじめまして。アイドル志望のナナシです。ナナシのところは、あなたがなまえをつけてね」
「なるほど…名前も自分で決められるのか…ふむふむ」
コントローラーを巧みに操作しながら、俺はいましがた思いついた名前を何となく打ち込んでみた。
「はな、と…。それで、次は?」
独り言を言いながら、出てくる指示に沿ってゲームを進めていった。

こうして、俺が初めてプロデュースすることとなったアイドル、通称「はな」は、一ヶ月後のガルコン(ゲーム内で行われるお披露目コンサート)選抜を目指し、一流アイドルになるための特訓を重ねることとなった。

はなは、パッチリ二重に面長フェイス、ツインテールがよく似合う正統派美少女の部類に入り、某国民的アイドル顔負けのファンサービスをしてくれる。

決められたプログラム(レッスン)を時間通りこなし、適度に自由時間も与え、プロデューサーとしてこの子をどうしていきたいのかを考えながら、育成計画を組み立てていく。

昔から、決まった目標に向かってコツコツ積み上げていくことが得意だった俺にとって、このゲームは正に神だ。

このまま順調にいけば、ガルコンの選抜投票10位以内に入ることは確実。

はなは、俺が思った以上のポテンシャルを発揮してくれ、ダンスも歌もメキメキと上達していった。
俺の言うこともちゃんと聞き入れてくれ、レッスンのない日、いわゆる休日モードは、今どきの女の子らしく、ゲーム内の町に繰り出したり、流行のSNSで自分のことを発信したりと、本当は現実に存在しているのではないかと思うほどのリアル生活を満喫していた。

だが一つ、気になることがある。

俺にはちっとも媚びないのだ。
いわゆる「塩対応」ってやつである。

俺がどんなに名前をよびかけても、ツンとすまし顔をかましたり、かと思えばいじわるそうな笑みを浮かべながら、「合宿寮」という名前のついている自分の部屋へと帰っていくのだ。

(なんともドギマギさせるヤツだ。でも、そこがいい…)
ややM気のある俺にとって、彼女は異性としてもドンピシャリなタイプだし、なんといっても可愛い顔に似合わずハスキーな声で俺を呼ぶとき、背中がゾクゾクしてくるのだ。

実際、ファンの中でも外見と声のギャップに萌えるとの声がつぶやきサイト
でも多く見られた。
そんな声に後押しされる形で、見事ガルコン選抜7位という快挙を達成し、お披露目コンサートでもたくさんのいいねをもらった。
「よしっ!このままの勢いで今度はゴッドを狙うぞ!」
「…わかった」
相変わらず素っ気ないが、これが彼女の持ち味であり、人気の一因でもあるのだ。
時折見せる、目の奥の悲しそうな表情は気になったものの、このまま俺はいちプロデューサーとして、はなをゴッドつまり、3位以内に入ることを目標に2人3脚で、共に頑張ることを誓った。

なのに…。
俺は一人の男としての欲望を優先させてしまった。

きっかけはある日突然きた。

ゲーム画面を起動させ、いつものようにはなを呼んだ。
するといつもは気だるそうな顔で応じるのに、この日だけはどこかそわそわしていて、俺の話など上の空といった感じだった。

「はな、今日はどうしたんだ?」
「…好き」
「えっ?何だって?」
「だから!好きになったの!」
「俺も、君のことは好きだよ」
「それはアイドルとしてでしょ。私はアンタのことが男として好きなの!」
初めてだった。
まさかゲームのキャラクターに、しかも育成しているアイドルから愛の告白をされようとは。
最初は冗談かと思ったが、次第に俺も彼女への想いが募っていくことに気づいてしまった。

もう誰に言われようと、この気持ちをこれ以上抑えることはできなかった。

たとえ、ガルコン選抜入りは勿論、MVI(most valuable idol)にも選ばれる将来が約束されていようとも、その偉大なるプロデューサーという称号をあっさり捨ててしまえるぐらいに、俺は彼女を愛してしまったのだ。

一生を、彼女と添い遂げていきたい…。

そうして周囲の反対を押し切り、今では超高層マンションの部屋の片隅にある大型デスクモニターで、俺の帰りをいつまでも待ってくれている。

「はな、ただいま」
「おかえりなさい、あなた」

あの頃のツンデレキャラはすっかりなくなり、エプロンがよく似合う所帯じみた女となったはなは、いつまでもいつまでも、作り物のような笑顔を俺だけに向けてくれている。


よろしければサポートを頂けると幸いです。 頂いたサポートは、自分や家族が幸せになれることやものに使わせていただきます。