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世界の先端医療と普遍的医療の均霑化(UHC)

Arab Health 2024

 2024年1月29日から2月1日までに4日間、アラブ首長国連邦のドバイで世界最大級の医療見本市が開催されました。

 私も現地入りして初日から4日間参加しました。

Arab Health 2024


先進国

 先進国の企業は大きなブースを構えて出展していました。


日本

 日本からも数十社の出展がありました。

 日本医療研究開発機構(AMED)のブースがありました。やや先進的です。

 JETROのブースは日本企業を売り込んでいる感じですが、日本っぽい装飾は少ないです。


地元ドバイ

 開催地であるドバイからの出展もいくつか見られました。
 Dubai Healthcare Cityは、簡単に言ってしまえば医療モールですが、ドバイ国民に先進的な高度な医療、先進的な医療を提供することを目的に、厳しい試験に合格した医療機関がテナントとして入れるそうです。

Dubai Healthcare City


新興国

 新興国の出展が非常に多くあり、10年ほど前のMEDICAでは見られなかったような製品、先進国よりも先を行くような製品が多くあるように思います。


UHCを考える

 UHCとはUniversal Health Coverageの略称で、どこでも、だれでも、支払い可能な程度の費用負担で普遍的な医療を受けることができることです。

 日本では1922年に健康保険法、1938年に国民健康保険法が制定されました。今の形の国民皆保険制度が実施されたのは1961年なので、63年前から国内のUniversal Health Coverageは確立されていたと考えられます。

 世界銀行の国際貧困ラインは1日1.9ドルとされており、1日1.9ドル未満で生活する人は貧困であるということです。1ドル150円として1日285円未満ということになります。

 物価の低い地域であれば食糧なども安く手に入る可能性がありますが、電力や水などは海外依存しているとすれば、厳しい生活環境が想像されます。
 そのような国や地域では医薬品や医療機器を製造しておらず、輸入に頼らざるを得ない可能性があります。

 新興国や途上国では信号機などの交通規制が未整備である地域が多く残っており、救急車や救急医療も普遍化していないため交通事故による死亡リスクは先進国に比べ高くなっています。
 肉体労働が中心の貧困者にとって事故による負傷の影響は大きく、そのまま餓死する恐れもあります。

 骨折治療用のインプラントは高嶺の花、そのプレートを買うお金も、その手術費用を払うお金も無いので、製品と手技料の両方が負担できるまでは貧困層にインプラントが使われることはないと考えられます。

 日本では人工透析は保険適用されており、障害者手帳の取得も可能です。年間400万円程と言われる治療費も保険で3割負担、高額療養費制度も使えば1カ月8万円台になります。更に生活保護を受けていれば月1万円程度の負担になる可能性があります。すなわち、日本では個人の生活水準によって透析を受けられないということは無いように制度化されています。
 一方で透析患者数は30万人以上になっており、総額で1兆円規模になっており、受益者である患者負担は少ないものの、押し並べて国民の負担は大きなものになっています。

 新興国や途上国では人工透析は普及途上にあり、それは医療技術の問題ではなく、治療に係る費用負担の大きさが障壁となっています。
 人工透析に使う消耗品は人工腎臓(ダイアライザ)1本、血液回路1本、穿刺針2本です。他に穿刺部の消毒綿球やガーゼを使います。
 治療には透析液を流しますが、日本では1分間に500mL、それを4時間施行するので1人120リットルの水を使います。週3回、年150回の透析で1人18トン/年の水が必要になります。世界には1日20リットル未満の水で生活している国や地域があり、大量の水を使うことは不可能なレベルであるかもしれません。

 診察してもらうために医師と接触するというだけでも、片道数時間も歩いて行かなければならない場合、物理的アクセスという面で最低レベルの医療すら受けられない可能性もあります。

 医療で治せるという事を知らないリテラシーの問題もあります。
 識字率が低い国々では、例えば『AED』と書かれていても、それが何の略であるかわからず、説明を受けても理解できない場合もあります。
 腹痛は我慢すれば治ると信じ切っている人は、例え我が子が腹痛であっても医師にみせようとは思わないかもしれません。


災害とUHC

 令和6年能登半島地震では孤立地域が多く発生し、いつもの医療が受けられないという物理的アクセスの問題が発生しました。
 珠洲市総合病院には患者が殺到したらしいですが、元旦の診療体制であった上に、新たに職員が参集できるような交通状況でも無かったため、過酷な状況であったと思われます。
 日本人にとって『当たり前の医療』の水準が高いだけに、その医療を受けられずに亡くなった人が身近に居ると心的ショックは大きいかもしれません。それは患者側だけではなく、医療側にも大きなショックを与えていると思います。
 被災地の医療従事者は、災害時でなければ救い得た生命、preventable disaster death (PDD) に直面したことで自信を失ったり、責任を感じてしまっている人も少なくないと思います。
 人口減少時代に入り、医療過疎のエリアが拡大する中で災害時はさらに過酷な状況となり、PDDが増える可能性があります。
 先進国であってもUHCの問題は発生する可能性があります。


おわりに

 今回は先端的な医療機器に触れる機会を得ました。ドバイというハブ空港のあるアクセス性の良い場所での開催ゆえに、世界中から多様な医療機器が集まっていました。
 一方で、現実的に費用負担できるレベルの医療とは何か、世の中では何が求められているのかを考える機会にもなりました。
 帰国したあと、ゆっくりと考えて見たいと思います。

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