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澤村伊智と横溝正史の類似性『さえづちの眼/澤村伊智』

積んでいた澤村伊智の「さえづちの瞳」を読んだ。
「ぼぎわんが来る」の比嘉姉妹シリーズの最新刊。中編が3編で構成されている。

琴子が挑む”さえづち”の祟りとは――比嘉姉妹シリーズ初の中篇集!
長編『ばくうどの悪夢』も絶好調! 書き下ろし中篇「さえづちの眼」を含む3篇が収録された、比嘉姉妹シリーズ初の中篇集。

◆あの日の光は今も
1981年に大阪府東区巴杵町で2人の少年がUFOを目撃した、巴杵池(はぎねいけ)事件。
母とともに小さな旅館を営む昌輝は、かつてUFOを目撃した少年のうちの一人だった。
事件も遠い記憶になり始めたころ、湯水と名乗るライターが事件の記事を書きたいと旅館を訪ねてくる。
昌輝は湯水と宿泊客であるゆかりに向けて、あの日何が起こったかを語り始めるが――。

◆母と
真琴のもとに助けを求めにやってきた杏という少女。
彼女が暮らす民間の更生施設・鎌田ハウスに「ナニカ」が入り込み、乗っ取られ、結果的に住人たちがおかしくなってしまったらしい。
杏を救うために真琴と野崎は、埼玉県にある鎌田ハウスへと向かう。

◆さえづちの眼
郊外にある名家・架守家で起こった一人娘の失踪事件。
「神隠し」から数十年後、架守の家では不幸な出来事が続いていた。
何かの呪いではないかと疑った当主は、霊能者の比嘉琴子に助けを求めるが――。

角川ホラー文庫HP「さえづちの眼」より

澤村伊智、私はホラー作家のなかでも安心して読める作家さんはこの人ぐらいだ。あとは小野不由美とか。
ジャパニーズ・ホラーは性差別が下地になっていることが多くて辟易していた。
なんか澤村伊智は作風というか物語の構造が横溝正史に近いと思う。
今回収録されていた表題の「さえづちの眼」はまさにそう。
これはそのまま家父長制への批判だ。女性が人格ある人間として認められず、家のためにその家長の子どもを産むことしか許されない。もしくはそうあることしか望まれない。
そう扱われたことが事件の発端となっている。
そして、これは横溝正史の作品にも言えることだ。「犬神家の一族」「八ツ墓村」「悪魔が来りて笛を吹く」などなど。
その家の家長や家長になる予定の男たちの横暴さや弱者を踏みつける振る舞い、家父長制からはみ出したものへの苛烈な風当たり。
それらの被害を受ける立場の人間が事件を引き起こす。
すべての元凶は家父長制や天皇制、血統主義への批判から成り立っている。これは横溝正史の家庭環境が作ったものかもしれないという言及がNHKの「深読み読書会」というシリーズでされていた。
澤村伊智も横溝正史も強固な家父長制のもとに成り立った家庭というものがどれだけ息苦しく、地獄を引き起こすか。
家庭、家族というものは安心や安らぎとは程遠い場所になることを作品内で明確に書いている。
↓のは横溝正史の「深読み読書会」を見たときと「悪魔が来りて笛を吹く」を読んだときの感想です。

以下、ネタバレありです。

「さえづちの眼」、冴子の失踪自体は母である佳枝が二人で行った狂言であり、それは無理やり結婚させられた冴子を解放するための行動だった。
でも佳枝も甥の嫁である真央のことを認めようとしない。
真央自身は子どもが好きで、自分の意思で夫と家族を作ることを考えていた。そんな彼女を見下し、結果として流産を繰り返すぐらい呪っていた。
自分が批判をしたい事や物に対して、意思を持って迎合(しているように見える)行動をしている人間を愚かだと思う佳枝のような人間はかなり、いる。
それはそれで別の呪いをかけている。
澤村伊智の作品はこういうレイヤーの細かいところがある。
ジャパニーズ・ホラーの作品でフェミニズムや家父長制批判を行うような作家は私は今のところ澤村伊智しか知らない。
もし他にもいたら教えてほしい。
今作も大変おもしろかった。やっぱり安心して作家買いできる人がいるのは嬉しい。


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