Duvyzat (givinostat)がデュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療薬として承認された


Duvyzat (givinostat)がデュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療薬としてFDAに承認されました。

【デュシェンヌ型筋ジストロフィーとは】
 デュシェンヌ型筋ジストロフィー(Duchhene muscular dystrophy: DMD)はジストロフィン遺伝子の異常により引き起こされる遺伝性疾患です。ジストロフィン遺伝子はX染色体上に存在するため、X連鎖性遺伝形式で遺伝し、通常はX染色体が一本しかない男性で発症する疾患です。女性の場合はもう一本正常なX染色体を持っているので、発症しても軽症に止まることが大部分です。
 ジストロフィンタンパクは主に横紋筋を構成する細胞(骨格筋細胞、心筋細胞)の細胞膜を裏打ちするように存在します。筋肉の収縮・弛緩に伴う細胞膜への負荷を吸収して細胞障害を防ぐ役割があると考えられており、正常にジストロフィンタンパクが働かないDMD患者では、骨格筋細胞や心筋細胞の細胞膜が障害され、やがて細胞死が誘導されます。
 また、持続的な細胞死により組織の炎症が引き起こされ、骨格筋や心筋への細胞障害が増幅されます。骨格筋および心筋組織は持続する細胞死や炎症によりやがて線維芽細胞や脂肪細胞で置換され、本来の収縮能を失ってしまいます。
 呼吸に必要な横隔膜も骨格筋であるため、DMD患者はやがて呼吸能を喪失します。古くは呼吸不全がDMD患者の主たる死因でしたが、人工呼吸器の発達により心不全が死因として増加しています。

【作用機序】
 Duvyzat (givinostat)はヒストン脱アセチル化酵素(Histone deacetylase: HDAC)の阻害薬です。ヒストン脱アセチル化酵素はその名の通り、ヒストンタンパクのアセチル化修飾を「外す」役割があります。ヒストンタンパクのアセチル化は、細胞における遺伝子発現のON/OFFを決定する重要なイベントであるため、duvyzat (givinostat)は複数の細胞種の遺伝子発現パターンを変化させます。
 Duvyzat (givinostat)がなぜDMD患者に有効なのかの機序は完全には解明されていません。最も重要と考えられているのは抗炎症作用です。ステロイドによる抗炎症・免疫抑制がDMDの進行を抑制することはわかっていましたが、ステロイドの長期投与による副作用を避けることができませんでした。
 Duvyzat (givinostat)は他にも、DMD患者骨格筋の線維化を抑制する作用や、骨格筋の幹細胞であるsatelite cellの増殖と分化を促進する作用が報告されています。おそらくはこれらが複合的に作用して、骨格筋の損傷を遅延させ、症状を進行させているものと思われます。

【臨床試験】
 Duvyzat (givinostat)の有効性は179名のDMD患者を対象にプラセボを対照薬とした二重盲検試験で行われました(NCT02851797)。患者は6ヶ月以上ステロイドによる治療を受けており、臨床試験中もステロイドの投与は継続されています。評価は4段の階段を昇るのにかかる時間で行われました。
 Duvyzat (givinostat)を18ヶ月間投与された患者は昇るのにかかる時間が1.27倍になったのに対し、プラセボを投与された患者では1.48倍になっており、いずれの群でも症状は増悪したもののduvyzat (givinostat)を投与された患者ではその程度が有意に小さいことが明らかになっています。
 副作用としては下痢や腹痛、悪心などが認められましたが、重篤なものではありませんでした。その他、血小板減少を含む骨髄抑制、中性脂肪の増加、QT延長などが認められており、注意が必要です。https://www.thelancet.com/journals/laneur/article/PIIS1474-4422(24)00036-X/abstract

【その他】
 個人的にHDAC阻害薬がいくつかの全く違う薬物スクリーニング(どの薬物が効果がありそうか試す実験)で偽陽性としてヒットしてしまうことを経験しており、あまりHDAC阻害薬を信じていません。ステロイドも「何で効くのかわからんけどいろんな病態に有効」な薬物の代表なので、似たもん同士のreplacementやな、と思いました。
 有効性もはっきり言って微妙。ステロイドの上乗せデザインなので患者に本当にデメリットを上回るメリットがあるのか、個人的には否定的。DMDに関しては遺伝子治療に期待するところが大きいです。

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