親をメロメロにする赤ちゃんの魔法が解けるとき

先日も書いたが、わたしは親バカと言われている。
子どもは基本的にとてもかわいい。もちろん3歳の長男の言動によっては怒ってしまうことはあるが。

そんなわたしにも長男がかわいく思えなくて悩んだ時期があった。その頃は、長男のわがままに心底イラついたし、子どものわがままに対して「わたしを苦しめるためにわざと意地悪をしているのでは」とさえ思った。
駄々をこねる姿をみると必要以上に厳しくあたったり、わざと意地悪をして甘えを受け入れないこともあった。

お互いにとって、それはそれは苦しい日々だった。
長男の穏やかな寝顔を見ると、昼のあいだの大人気のない意地悪を後悔した。
長男とうまくやれない自分に悩んで不安定になった。少し感情が刺激されただけで泣いたり怒ったりしていた。

これらは、妊娠後期から産後3か月ころまでに、特にひどい状況だった。
妊娠・出産は、母体から体力だけでなく精神力も忍耐力も奪ってしまうようだ。
そして赤ちゃんを大事に思うがゆえ、邪魔する者には心を閉ざす。

妊娠中、わたしは長男にお腹に赤ちゃんがいるからたくさん抱っこができないということを何度も何度も説明した。
しかし、長男が抱っこをせがんで道端でひっくり返ってしまうと、帰宅するためには抱っこで運ばざるを得ない。だから最終的には抱っこしてしまっていたので「赤ちゃんがいるから~」というのは全く説得力がなかったんだと思う。結局は、出産直前まで13キロの長男を抱っこして歩いたし、産後も退院してすぐに長男を抱っこして保育園まで送っていった。

体はきついし、ホルモンバランスの影響か些細な事にイライラしてしまい、長男のわがままを強い口調で叱ってしまったことが何度かある。すると長男は泣くのだが、泣きたいのはこっちだった。夜遅く帰宅した夫に、息子を怒鳴ってしまったことを泣きながら訴えた。だから1秒でも早く帰ってきてと。

長男は、わたしが赤ちゃんを寝かそうとしてる時に大きな声を出す。
赤ちゃんに授乳をしているのに、わたしの背中に乗ってくる。
赤ちゃんが泣くと、自分も負けずにと大声で泣く。
ママの関心が赤ちゃんに向くのが、長男にはただただ耐えられなかったんだろう。
でも、わたしは赤ちゃんの健やかな成長を邪魔することに我慢ならなかった。

妊娠中、周りの人生の先輩方から、上の子を優先してあげてというアドバイスを受けた。十分に甘えさせてあげると優しい気持ちになって赤ちゃんにも優しくできるようになるからと言われた。

長男を疎ましく思ってしまう自分と、上の子を優先しなければならないと思う自分の狭間で、不快感に耐えながら引きつった表情で長男に優しい言葉をかけていた。でも、そんな心の伴わない表面だけの優しさでは、長男の心は満たされない。満たされない限りわがままは終わらないのだ。

わたし自身の心に余裕がうまれない限り、子ども2人を同時に愛せないと気づいたものの、どうすれば良いかわからないまま月日は過ぎていった。


ところが、である。
次男が生後6ヶ月を過ぎたころから、以前のように長男がかわいくてたまらなくなってきたのだ。それは内側から湧き出てくる子どもが大事だと思う気持ちだ。二人育児が大変な状況は変わらないのに、わたしの心は冬の時代を脱したのだ。たぶんホルモンの影響なんだろう。ホルモン恐るべし。

次男を抱っこしているとき、長男も甘えてくるならば、わたしは二人まとめて抱っこする。抱っこすると、わたしも愛情を与えて受け入れてもらったことによる満ち満ちた気持ちになるのだ。長男から体全体で愛情を受けると、わたしも嬉しいような恥ずかしいような気持になる。

母親というものは、脳が故障しているんじゃないかと思う。まったく幸せな赤ちゃんの魔法である。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?