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帝国トンボ最新作「毒蛇はキスできない」作品紹介③

突撃インタビュウ!エログロナンセンス愛好家に魅力を聞いてみた!

読者の皆様、ご機嫌よう。アカトンボ編集社の小栗ハタエです。昭和に入って早数年。巷では【エログロナンセンス】と呼ばれるような作品が増えてまいりました。しかし、ご年配の方を中心に「何がよいのか全くわからない」というご意見をいただくこともございます。

 そうは言っても、流行りは流行り。そこには何らかの良さがある。今回は、その良さを追求するべく、エログロナンセンス小説を収集されているという好事家、戸川種子氏(22)にお話を伺いました。


小栗:まず、種子さんにお伺いしたいのが、エログロナンセンスとは何かということです。今ひとつ、私も定義しきれていないのですが、いかがでせう?

戸川氏:そもそも、この言葉はエロ、グロテスク、ナンセンスを組み合わせた言葉でありまして、元来、エログロと呼ばれておりましたジャンルでございます。所謂、猟奇的な様相を指しておりまして、それを嘲っているのがエログロナンセンスです。

小栗:なるほど。代表的な作品としてはどのようなものがあたりますか?

戸川氏:【江戸川乱歩】先生の『陰獣』などは代表格でせう。非常に加虐的な描写に多くの読者が虜となりました。

小栗:種子さんも、その作品を読まれてから虜になられたのですか?

戸川氏:いえ、むしろお恥ずかしながら、入り口はそちらではなく、【夢野久作】先生の『瓶詰の地獄』からでございます。目を背けたくなるような描写が続くのですが、これがまた意外と癖になりまして、以来多くの同質な作品を拝読している次第です。

小栗:そうでしたか。実は私も以前、拝読したのですが、非常に刺激的な作品であったので、印象深い作品です。種子さんにとって、このジャンルの魅力とはなんでしょう。

戸川氏:やはり、見てはいけないものを見てしまった、というあの感覚を得られること。これに尽きるのではないでしょうか。そういえば、見てはいけないものといいますと、最近噂の「蛇喰いショウ」も同じ高揚感が得られますね。

小栗:蛇喰いショウでしたら、実は以前私も記事にしたことがございます。あれも、種子さんにとって、一種のエログロナンセンスでしょうか。

戸川氏:そうですね。小説や雑誌など、活字が苦手という方はあちらを見られてもよろしいかもしれません。手軽にエログロナンセンスとは何かわかっていただけるのではないかと。

 戸川氏はその後も蛇喰いショウやエログロナンセンスについて熱く語ってくださりました。なお、戸川氏はご主人に何度かショウに足を運ばないか誘っているそうですが、「職業柄、血をよく目にするので、あまり行きたくない」と断られてしまうそう。

 エログロナンセンス、向き不向きは別れますが、まだ同ジャンルに触れたことのない方は一度触れてみると、新しい扉が開くかもしれませんね。ではでは、ご機嫌よう。

ー小栗ハタエ『野音-⚫️月号』アカトンボ編集社,193⚫️年

はじめに


帝国トンボのnoteをご覧いただきありがとうございます。帝国トンボの広報を担当しております夢野(ユメノ)、阿南すだち(アナンスダチ)と申します。

 「毒蛇はキスできない。」に登場する記者、小栗ハタエによる戸川種子氏へのインタビュウ記事はいかがでしたか?
本記事は、第2回目のコラムになります。第1回をご覧になっていない方はこちらからどうぞ。

https://note.com/clever_ruff291/n/nc65c14b3d614

エログロナンセンスについて

 退廃的なものに魅力を感じる――。
‎ 生きることと死ぬことは表裏一体――。
‎ 特にエログロナンセンスの時代は、そういった感情を持っていた大衆による一大ムーブメントでした。
   エログロナンセンスという言葉が大衆に認知されるようになったのは1930年代のこと。
   今回は、そんなエログロナンセンスとはどんなものであるのかを捉え、その世界にどっぷりと浸っていきたいと思います。

エログロナンセンスの流行まで

 エログロナンセンス。その言葉を聞いて何を思い浮かべましたか。

 エログローー性的なものや猟奇的なもの
 ナンセンスーー意味のないものや馬鹿げたもの
 
 これらは元々、西洋文化が流入した一九三〇年代に知られた言葉です。起源を辿れば二十世紀はじめ、自然科学的概念の広がりから「変態心理学」が注目されたころに遡ることができます。この時代は、今では当たり前となった「精神」や「変態」という語が生まれた時期でもあります。そこから次第に「変態心理学」は非科学的だと追放され、関連雑誌の刊行から急速な大衆化を果たしました。そうして生まれたのが「エログロナンセンス」です。
 そこには生と死の激しいコントラストが繰り広げられた世界が広がります。時に肉欲にまみれ、時に四肢がもげ、時に意味不明な言動をとる。彼らは面白おかしく、しかし綿密に描写された文学や美術の世界で生き生きと表されます。
   さて、ここからはそんな世界の一片を皆様にご紹介させていただきます。

エログロナンセンスを書いた文学者たち

 大衆化を果たしたエログロナンセンスは、多くの作家の作品からその様子を覗くことができます。
 インタビュー記事の中でも戸川氏が「江戸川乱歩」の『陰獣』を挙げていましたね。
江戸川乱歩といえば『少年探偵団』で馴染み深い人も多いのでは無いでしょうか。そんな江戸川乱歩も、エログロナンセンスの色を強く表す作品を出しています。
 『人間椅子』なら、ひっそりと美しい女性の身体や体温を堪能することに対する犯罪的とも呼べる興奮と悦びを書き
 『陰獣』なら精神的にも肉体的にも苦痛を与え求める加虐的、被虐的欲求を書き
 『芋虫』は、五体不満足になり身動きの取れなった夫を横目に動物的の欲求を日に日に抑えることが出来なくなってしまった妻を書きました。

 他にもインタビューの中で出てきた「夢野久作」もエログロナンセンス作品を多く描いています。例えば『月蝕』や『人間腸詰(そうせえじ)』。
 『月蝕』は、月を女に見立てた擬人化作品でもあります。
 女こと「月」が、陰鬱でどこか生臭く屈辱的な場面に直面しているかのような表現描写で、皆既月食という天文現象を血の気が引くような表現で書かれています。
 『人間腸詰(そうせえじ)』は、江戸っ子主人公の快活な語りとは別に、中盤から終盤にかけタイトルから想像できてしまうようなグロテスクな場面が登場します。
 日本探偵小説三大奇書に数えられている『ドグラ・マグラ』という作品の影響もあり、夢野久作といえば読みにくくて分かりにくいというイメージもあるかもしれませんが、彼の作品は、ストレートな表現で、冒頭に結論があるような作品も数多く存在します。このストレートな表現が猟奇的場面描写と繋がると、想像通りのおぞましさになりますね。

エログロナンセンスの先駆者

 読者の皆様は、梅原北明という人物をご存知でしょうか。
 彼は「エログロの帝王」とも呼ばれている人物で、性風俗研究家であると同時に作家としても知られ、エログロナンセンスを語る上では欠かせない存在です。
 彼の『殺人会社―悪魔主義全盛時代(前編)』という作品は、委託殺人を行う会社に勤める三太郎が、自身の会社での変わった小話を話し込む形式で物語が進んでいきます。その御相手は、なんと小説家。この物語は小説家である「僕」視点のお話なのです。三太郎が裏社会の情報を流すことは、秘密漏洩の観点からリスク以上の何ものでもありませんでした。しかし、彼は雄弁に会社で起きてしまった、倫理を逸脱した話を語るのでした。
   例えば、女性の足・靴・下着に執着し窃盗を繰り返すフェティシストや、自殺倶楽部に出入りする人物、女性化している男等、様々な人物が登場します。
   その過激な描写で検閲を免れなかった本作。未完ではありますが、過激な文学を求める方には必見の作品です。

昭和初期から今日まで

 誰もが、一度は教科書で見た事のある「エログロナンセンス」という単語。センセーショナルな単語の羅列に、何となく覚えていたという人も多いのでは無いでしょうか。そんな昭和初期の流行語であったエログロナンセンスのルーツは、自然科学的概念の広がりが始まりだなんて驚きですね。
 現代でも、所謂「鬱展開」と呼ばれる見た後は気持ちが物凄く落ち込む救いようの無い展開を含んだ物語が、時には社会現象になるくらい流行る時期もあったりします。たとえそれにエロティックな要素や猟奇的な場面が多くあったりしても。
 時代と共に人の価値観や暮らし方は大きく変わりましたが、人の「見えない闇が気になる」という変態的嗜好は、変わらずに受け継がれているのかもしれませんね。

最後に

今回は、帝国トンボ最新作「毒蛇はキスできない」よりエログロナンセンスについてご紹介させていただきました。
 今作も、今までの作品同様に見どころが沢山詰まっておりますので、是非楽しみにお待ちくださいね。
特報も公開されておりますので是非ご覧ください。
https://youtu.be/h8Wowb6Pwb0?si=at0eJbb8EqrggOxV
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では、またお会いしましょう。左様なら。
(記事執筆:帝国トンボ 総務科  夢野・阿南すだち 冒頭モキュメンタリー執筆:初瀬川タイキ)
※冒頭のインタビュー記事は、弊団の作品広報企画の一環である、モキュメンタリー記事であり、フィクションです。実在の地名や団体、人物とは関係ございません

[出典]竹内瑞穂『「変態」という文学 近代日本の<小さな革命>』ひつじ書房、2014年

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