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最高の演習書「事例でわかる伝聞法則」の使い方

 刑事訴訟法の中でも特に伝聞法則について苦手意識を持っている方は多いのではないでしょうか。私もその一人です。何かいい本はないかと探していたところ「事例でわかる伝聞法則」という演習書の人気が高いことを知りました。前半は多数の短文事例が掲載され、後半は司法試験の過去問が紹介されています。170ページ程度とそれほど厚くないにもかかわらずこの一冊を読んだおかげでかなり頭の中が整理されました。

 この本のいいところは司法試験の過去問(9年分)すべてに解答例がついていることです。市販の演習書って解答例がついてないものが多いですよね。私は解答例がないと次のステップに進めない人間なので困ることも多かったのですがこの本は本当にありがたいです。

 過去問といっても難易度にはかなり差があります。伝聞法則を学び始めたばかりの人、ひととおり勉強したけれどいまいち自信がない人にとっては、簡単な問題から難しい問題へと徐々に進んでいくのが理解を深めるのに役立つはずです。そこでこの本に掲載されている過去問を難易度順に並べてみました。この順に問題を見ていけば理解度に応じてだんだん解けるようになっていくことが実感できると思います。

EASY

①平成28年
 発言それ自体から要証事実を推認できるか、という伝聞/非伝聞を振り分ける最も基本的な問題です。伝聞法則の出発点といってもいい話です。

②平成27年(前半)
 犯行計画メモの伝聞/非伝聞を問う問題ですが、筆跡や指紋という他の問題ではあまり見ない要素で少しひねってあります。メモが伝聞か非伝聞かという話はよく出題されますがここでマスターしてしまいましょう。

NORMAL

③平成27年(後半)
④平成20年
 
伝聞例外のうち最もオーソドックスな類型である321条1項3号の問題です。供述不能、不可欠性、絶対的特信情況の3要件をあてはめていけばいいのですが、その中でも絶対的特信情況をあてはめる際にどのような事情を拾えばいいのかがポイントになります。

HARD

⑤平成21年
⑥平成25年

 伝聞証拠の最大の山場である実況見分調書(321条3項)と現場指示、現場供述、再現写真についての問題です。おそらくここでつまずく人が一番多いいのではないでしょうか。私も現場指示と現場供述が最初はよく分からず、「再現写真が立証趣旨によって伝聞にも非伝聞にもなる」というのも何を言っているのかさっぱり分かりませんでした。このあたりのことが「事例でわかる伝聞法則」p52~60に非常に詳しく書かれており、私はここを読んでなんとか理解することができました。

⑦平成29年
 他の伝聞証拠とはちょっと毛色が違う弾劾証拠(328条)の問題です。司法試験で出題されたのは旧司平成20年第2問・新司平成29年の2回だけで、予備試験では一度も出たことがありませんが、いつ出てもおかしくなく手薄になりやすい分野です。

⑧平成30年
 メモの伝聞/非伝聞、領収書の伝聞/非伝聞321条1項3号(絶対的特信情況のあてはめ)、322条1項といった多くの要素が勢揃いするオールスター問題です。この問題が落ち着いて解けるようになればもう伝聞法則マスターです。

VERY HARD

⑨平成22年
 
実況見分調書(321条3項)、ICレコーダーと非伝聞、会話の存在と非伝聞、説明部分と321条1項3号
⑩平成23年
 
実況見分調書(321条3項)、メール部分と321条1項3号、発言の存在と非伝聞、再伝聞(322条1項、2項)、共同被告人の供述

 この2問は難しいです。本当に難しいです。要証事実との関係をその都度確認しながら進まないと簡単に泥沼にはまります。最初は解答・解説を読んでおぼろげにでも理解できれば十分ですが、この2問を解いてなんとか形にできるようになれば、これ以上難しい問題はないので伝聞法則に関しては自信を持っていいのではないでしょうか。


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