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災害時こそ活きる地域間交流。武蔵野市役所 交流事業課担当者インタビュー(後編)

こんにちは、「◯◯と鎌倉」の狩野です。
前回は、東京都武蔵野市役所で交流事業に携わる3名の方にインタビューをしました。

「武蔵野市交流市町村協議会」の取り組みとして面白いと感じたのが、10都市で共同出資する友好都市アンテナショップ「麦わら帽子」です。武蔵野市役所のみなさんへのインタビュー後編は、以前にもnoteで紹介させて頂いたこの「麦わら帽子」の話からスタートしたいと思います。

―「麦わら帽子」はどのような体制で運営しているのですか?

平塚:友好都市10自治体の出資によって設立された有限会社が経営しています。代表取締役には武蔵野市の現副市長が就任し、武蔵野市の生活経済課が事務局の役割を担っています。

― 生活経済課が商品の仕入れなども行っているのですか?

平塚:いえ、設立された会社は独立した民間企業という扱いになるので、仕入れを含めた日々の運営は、2名の社員とパートスタッフに任せています。生活経済課はこれまで家賃補助などの面でサポートしてきています。

麦わら帽子

(麦わら帽子店内の様子 Photo by 武蔵野市役所)

― 個人的には、友好都市10都市の商品を扱うアンテナショップというコンセプトと豊富な品揃えに感動しました。成果が測りづらい姉妹都市交流において、経済価値を生み出すモデル事業になる得るのではないかと思っているのですが、実際の経営状況はいかがですか?

平塚:各友好都市の生鮮食品から米、酒、調味料まで幅広い品揃えになっているためか、常連客がついて売上は健闘している方かと思います。ただ、収益面ではまだまだ改善の余地がありますね。 

ー 各地から日々仕入れをすると、送料だけでもけっこうかかりそうですね。一般的な東京にあるアンテナショップとは違って、麦わら帽子は日常使いができる八百屋さんや商店のような印象です。

平塚:たしかにそうですね。ただ、毎日買い物に来るような常連客は高齢化し、減少しているのが現状です。この10年で買い物のスタイルが大きく変わりましたよね。共働き世代が増えていることもあり、毎日八百屋さん、お肉屋さん、魚屋さんに行って夕飯をつくるような人はだいぶ減っていると感じます。

― 東日本大震災後、食への安全意識が高まっていますし、一次生産者を応援するような機運もあるように感じます。私自身、少し手間で割高でも、地元の専門店で買い物をするようになりましたし、周囲にもそういったライフスタイルを選択するような友人が増えています。

平塚:たしかに鎌倉は、食への意識が高い人が多そうですよね。手前味噌ですが、麦わら帽子は良い食材が比較的手頃な価格で手に入るので、食にこだわりがある方にとっては非常に良いお店だと思います。ただ、食への意識が高く、なおかつ日常的に通える人たちというのは、そう多くはないというのが現状なのかもしれません。

麦わら帽子2

― 武蔵野市にも食への意識が高い子育て世代が多く住んでいると思いますが、そういった方々に向けたアプローチは行っているのですか?

平塚:市内で子どもが産まれた方に、食育と地産地消を推奨していくために、JA店舗と麦わら帽子で使える商品券を配布する「こうのとりベジタブル事業」を行っています。とはいえ、まだまだPR不足の部分もあるかもしれません。ライフスタイルの変化をふまえつつ、新しいお客様を呼び込む仕組みづくりが必要だと感じています。

― 友好都市側から見た「麦わら帽子」のメリットとして、特産品を常設で販売・PRできるというのは大きいと思いますが、その辺りについてはいかがでしょうか?

平塚:「麦わら帽子」ができたことで、友好都市のイベントはやりやすくなったと思います。毎週のように各地の生産者、事業者がいらっしゃっていますし、行政の観光担当者がPRイベントを開催したりしています。定期的に吉祥寺の中心部で大きな物販イベントを行っている友好都市がいくつかあるのですが、その際「麦わら帽子」のスタッフが販売サポートを行ったり、お店が荷受けの拠点になったり、色々な面でメリットがあると思います。

友好都市大崎上島町の中学生が麦わら帽子前で商人体験   

(友好都市の小中学生が店前で地元のものを販売することも Photo by 武蔵野市役所)

― 昨年私たちは、鎌倉で鹿児島県阿久根市のイベントを1週間行いました。阿久根市から行政職員をはじめ、地元の高校生や若手の漁業・水産業者などさまざまな立場の方たちが鎌倉に来て、鮮魚の販売や食堂の営業に携わってくれたのですが、それまで仕事へのモチベーションがあまり高くなかった若手の人たちにとっては、鎌倉で多くの人たちに喜んでもらえたことが、自分の仕事の価値を再認識する良い機会となり、さまざまな学びや気づきがあったそうなんです。他地域の人たちがイベントをしやすい場所であるという「麦わら帽子」も、人材育成や学びの場としても機能しそうですが、何かそういった取り組みはされていますか?

平塚:友好都市の子どもたちが、修学旅行や市民交流ツアー(※1)に合わせて「麦わら帽子」で販売体験をすることなどはあります。今年も広島県大崎上島町、長野県安曇野市などいくつかの地域の小中学生が来て、地元の野菜や果物を販売しました。ただ、人材育成という切り口は、これまであまり意識していなかったですね。

※ 市民交流ツアー
武蔵野市と国内の友好都市の間で市民レベルの交流を推進することを目的として双方で実施しているツアー。市民交流団を組んで友好都市を訪れ、現地で暮らす人たちと交流し、各地の文化、歴史、風土、季節の名物などに触れる。

10都市が関わっているアンテナショップだけに、何をするにしても調整が大変だと思いますが、地域間連携事業のひとつのモデルとして、「麦わら帽子」の今後の展開にも期待をしていきたいと思います。

地域間交流における行政と民間の役割とは?

― 「〇〇と鎌倉」は民間主導型で、地域の事業者や団体、住民などを巻き込みながら地域間交流を進めているのですが、武蔵野市の交流事業についてはいかがでしょうか?

平塚:武蔵野市でも、民間主導の地域間交流はいくつかあります。友好都市でもある富山県南砺市のPRイベント「結ぶ祭」は、武蔵野市在住の方が複数の飲食店などを巻き込んでいますし、長崎県波佐見町とは吉祥寺在住のフードコーディネーターの方がハブとなって、波佐見焼のイベントが吉祥寺の商業施設やショップで開催され、人の行き来もあるようです。
個人的には、友好都市との交流事業においても、地域の事業者やお店などを巻き込んでいけると良いのではないかと思っているのですが、そこまでの余裕がないというのが正直なところです。地域間交流に取り組んでいる民間の方と連携できると面白い流れはできそうなのですが…。ただ、
行政として”つなぐ”役割は担えると思っているので、多くの人たちに開かれた企画については、私たちもサポートしていきたいと考えています。

― 民間ベースでの地域間交流も結構行われているのですね。

平塚:どちらかというと民間ベースでやる方が自由度も高く、面白いことができるんじゃないかと個人的には感じています。まずは民間の交流があり、そこに対して市がPRなどをサポートしていくという関係性が理想的なのかもしれませんね。実際に友好都市の成り立ちも民間ベースでの交流がきっかけというケースがあります。
あと、最近は移住促進のイベントも増えてきているようですね。

― 移住促進の場合、武蔵野市は”流出”側になるはずなので、市としては難しいところもあるとは思いますが(笑)、移住や二拠点生活の流れが強まっている中、武蔵野市と他地域をつなげたいという人も今後は増えていくかもしれないですね。

食堂

(武蔵野市役所内にある食堂では地元と友好都市の食材が積極的に使われている)

武蔵野市が交流事業を続けられる理由とは?

― 交流事業は基本的に利益を生みにくいですし、評価が難しい事業かと思います。それでも武蔵野市がこれだけの規模感をもって交流事業を継続できているのはなぜだと思いますか?

永嶋:たしかに数値的な成果と言えるのは、市民交流ツアーの参加者数くらいで、交流事業全体を定量的に評価するのは難しいところがあります。それにもかかわらず交流事業が続いているのは、これまでの経過で形づくられた「交流の意義(※)」が市役所の中で浸透していることや、数十年にわたって続けてきた交流事業への理解というものがあるからだと思います。

※ 交流の意義
「武蔵野市は都市一極集中によるメリットとして、富、人、情報、エネルギーなどの資源を享受しているが、この資源の源は地方の市町村が生み出し、育て、守り抜いているもの。都市は地方に支えられてこそ存立する。
半面、武蔵野市は過度の都市化による住宅困窮、自然現象、人間関係の希薄化、ふるさと感喪失などデメリットも甘受している。また地方の市町村は、若者の都会志向や少子化により地域の活力がそがれ、豊かな自然が傷つき、失われる恐れすらある。
都市と地方は互いに尊重し合い、プラスの面をさらに伸ばすとともに、それぞれに持つ特性を生かして、相互のマイナス面を補い合う関係を作り上げることが望まれる」(「武蔵野市市町村協議会資料」より抜粋)

平塚:武蔵野市は財政面が比較的豊かな自治体で、補助金にしばられず独自の施策を打ちやすいというのも大きかったと思います。交流事業の意義を説いた当時の市長は広い視野を持った方でしたし、その先見性によって始まった事業ではありますが、財政的な支えがあるからこそ実現・維持できているというのも事実です。一方で、成果が測りづらいものだからこそ、例えば子育て支援やマイノリティ支援にもっとお金を使うべきだという議論が出た時に、真っ先に縮小される可能性のある事業だと思います。

― 担当者として個人的に感じている課題などはありますか?

平塚:事業内容がルーティン化してしまっているというのはひとつの課題だと思います。各担当者が、よりよい形を考えながら主体的に交流事業を推進できているかというと、必ずしもそう言い切れないところがあるように思います。

永嶋:たしかに何かしらの変化は必要かもしれません。交流事業が始まった30年ほど前から時代は変わり、いまは興味があれば個人でどこにでも行けるようになりました。その中で、例えば市民交流ツアーをこれまでと同じようなやり方で続けていくことへの限界も感じています。また2003年以降友好都市の顔ぶれは変わっていないので、刺激を得るためにも新しい自治体との交流があってもいいと思っています。これは課題というよりは、チャレンジしてみたいことですね。

酒田市への市民交流ツアー

(山形県酒田市への市民交流ツアーの様子 Photo by 武蔵野市役所)

姉妹都市でできることはたくさんある

今回武蔵野市役所の担当者3名にお話を伺い、姉妹都市事業のポイントになりそうだと感じたことは下記の3点です。

1.行政が苦手なことは民間を巻き込めばいいのでは?

武蔵野市の場合、「麦わら帽子」の経営改善に市の職員だけが関わるのではなく、協力してくれそうな友好都市10自治体内の小売事業者を広く募り、サポートチームをつくるようなこともできそうです。収益改善のための品ぞろえや値付け、オペレーションの見直しなどは、商売のプロからアイデアをもらった方が絶対に良いですし、いまならオンライン上で店舗スタッフを交えた会議を定期的に行うことなども可能です。10自治体の事業者間交流を進める意味でも良いかもしれないですし、ひとつのプロジェクトに地域を超えて悪戦苦闘しながら取り組んでいくことで、それぞれが得られるものは多いはずです。

2.既存の交流事業は時代に合わせてアップデートできる
姉妹都市事業として全国で行われてきた「市民交流ツアー」ですが、時代に合わせて変えていく必要性を感じているという話が武蔵野市役所の永嶋さんからもありました。
武蔵野市の場合は、「交流の意義」に則り、SDGsへの理解が進むようなツアープログラムに組み替えたりすることで、継続していく意義が生まれるような気がしました。

3.いざという時のための関係づくり
災害時の地域間連携というのはこれからますます重要になってくると思いますし、武蔵野市役所の永嶋さんも有事の時にこそ日頃の交流が活かされると話されていました。そういう意味でも、行政がどのような思いで交流事業に取り組んでいるのかということを伝える機会をつくっていくことが必要だと感じました。
武蔵野市では、国際交流としてホームステイの受け入れを定期的に行っているそうなので、災害時の一時的なホームステイの受け入れ登録などを進めるということもできるかもしれません。いざという時は、地区ごとに友好都市に避難できるような仕組みなどもあったら安心ですよね。

というわけで、勝手にアイデア出しまでしてしまいましたが、武蔵野市役所のみなさん、お忙しい中ご対応頂き、本当にありがとうございました!
「〇〇と鎌倉」でお役に立てそうなことがあれば、ぜひお声がけください。




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