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どの世界でも母ちゃんは優しい/Guatemala/たびのきおく

 世界のいろんなところを旅して気づいたことがある。どの世界でも母ちゃんは母ちゃん。母ちゃんは優しい。温かい。世界中、特に田舎にいけばいくほど、それを感じる機会がある。

 2013年の9月、大学生だった僕は、学生最後の夏に2ヶ月かけて中米縦断の旅に出かけていた。メキシコからパナマまで。その2つ目の国がグアテマラだ。2ヶ月で、航空機代が10万くらいなのを別にして、旅予算は10万。楽しい貧乏旅行だ。メキシコの友人宅を巡りながらしばらく南下して、グアテマラ国境近くの世界遺産パレンケ遺跡を見たあと、国境になっている川をボートで超えるというなんともエキゾチックなルートでグアテマラに入国して、フローレスという町に辿り着いた。

 フローレスでもケチって500円ほどの安宿に泊まると、個室の扉が監獄のような鉄扉という恐ろしい夜を過ごしたが、なんとかやり過ごして、近隣のこれまた世界遺産のティカル遺跡をみた。遺跡巡りが目的の人には大変申し訳ないが、僕にとっては「ついで」である。とはいえ文化人類学を勉強していた自分には見れば見たで面白いんだけども。

 そんなこんなで1日かけて遺跡をみたあと、夕方になってバスセンターでグアテマラシティ行きのバスを予約した。これまた安いバスを取ったので、座席も硬く、寝るしかないと思ってさっさと缶ビールを飲んで寝ることにした。しかしなかなか熟睡はできず、夜中に何度か休憩所に停車するたびに目が覚めたが、荷物に離れないようにしようとバスの中で過ごした。そんなこんなで時間が経って、朝が来る前には爆睡していた。

 はっ、と目覚めると窓から太陽が差し込んできた。あれ、早朝着のはずなのにな、と思いながら周りを見渡すと客はおろか運転手も誰もいなかった。なにが起きたんだと思って荷物を持ってバスを出ると、そこにはスパナを持ったマリオとルイージのようなツナギのおじさんが2人立っていた。周りをみわたすとバスや車がたくさん泊まっていた。時計を見ると到着時刻を3時間すぎていた。「やっちまったな〜。」と、なんとなく何が起きたのかわかったような気がしながらも、おじさんに訪ねてみると、「ここは、車の整備場だ。このバスは今朝の運行後、整備する予定だったんだ。起こしてもらえなくて気の毒だったな〜!ハハハハハ!」と笑われた。やれやれ、である。まあそういうことはあるよね。

 仕方ないので、郊外にあるというこの整備場から、行きたかったグアテマラシティの中心までの行き方を聞くと、「タクシーしかないし、100ケツァーレス(1000円強)以上かかるんじゃない?」と言われた。やれやれ。まあいいや。財布を見ると300ケツァーレスくらいはあった。気にせず行こう、とタクシーを捕まえて町の中心に向かった。

 無事グアテマラシティの中心に到着し、バスに乗れる場所に下ろしてもらえるようにお願いした。たびの経験上、「首都はどこも居心地が悪い。そして物価が高い」と感じていた僕はグアテマラシティに滞在せず、そのまま湖沿いの街、コーヒー農園広がるパナハッチェルに向かう予定をしていたのだ。「パナハッチェル行きのバスはどこから乗れるのか?」とタクシーの運ちゃんに聞き、不安げなアンサーとともに降ろされた場所でバスを待った。残金は残りすくなかったが、地球の歩き方を見るには"路線バスを使えば安価で辿りつける"と書いてあった。それならお金は足りそうだし、目的地についてからお金を下ろそうと思ってバスを探した。何度かバスに乗りこんではバスの運ちゃんに行きたい場所を告げて確かめていると、ようやく3台目くらいのバスで「近くまで行くから乗りな〜!」と言われた。やれやれだぜ。トラブルがあったが、やっと安息の地にたどり着ける。そう思いながら安心してバスに1時間ほど揺られた。

 周りに建物が見えなくなり、延々と道が続く田舎道に差し掛かった頃、バスのにいちゃんが代金を回収しにきた。自信満々に小銭を用意して待って、目的地を告げた。しかし、帰ってきたのは衝撃のアンサー。金額は想像の5倍は高かった。そんなお金は持っていない!!なんでやねん。what's happen。Que haces。ちんぷんかんぷん。落ち着いて理由を聞くと乗ったのは路線バスじゃなくてちょっ〜とだけ良いバスらしい。。知らんわ〜。

 状況を把握して僕は焦った。お金がなくても殺されやしない。今すぐ降りれば許してもらえるだろう。でもこんな荒野で降りたら間違いなくやばい。お金もないしネットもない。ドルは持ってたが、もちろん使えるはずはない。1000円札を出して、「両替したら儲かるぜ!」といっても聞き入れてもらえない。トラブルって続くもんなんだな、、、、ついてない。やばいな〜、、、と嫌な汗がでてきた。

 その時。なんと隣の席に座っていおばちゃんが爆笑し始めた。そして、「なんであんた、そんなお金ないのよ!」と言い放った。このままじゃどうしようもないので、とりあえず「思ったより高かったんです」と正直に言ってみると、おばちゃんはまた笑いながら、前後の席の乗客に話しかけて、なんと小銭を集め出した。前後2~3列のおばちゃんが100円玉的な硬貨を持ち出してくれて、あれよあれよと僕の手にバス代に十分なお金が届けられた。僕は呆然とした。こんなことってあるんでしょうか。ドラマか。

 バスのにいちゃんに代金を払ったあと、僕はおばちゃんに只々グラシアスを言い続けた。ジブリに出てきそうな恰幅の良いおばちゃんは、ニコニコしながら「良いの良いの」、と笑い続けてくれた。

 ところで、どこで降りれば良いんだろう。そう思っていた時、おばちゃんはバスを降りようとした。僕が少し不安げな顔をしていると、おばちゃんは空いた席に座り込んできた別のおばちゃんに状況を共有してから降りていってくれた。新たに隣に座ったおばちゃんはもう少し痩せ型で慈しみに溢れた目をしたおばちゃん。このおばちゃんは偶然僕と目的地が一緒だったらしく、到着したら一緒に降りるから心配いらないよ、と言いながら、僕に興味を持って色々話かけてくれた。僕の旅のこと、家族のことなど。

 無事バスを降りて、小さな街に降り立つと、おばちゃんは「お金下ろしたいのよね?」と銀行に連れて行ってくれた。お金を下ろすのを待ってくれて、そのあと、目的地であるパナハッチェル行きのバス乗り場へ連れてってくれた。そしてにっこりして去って行った。

 パナハッチェルの街は落ち着いていて、みんな優しかった。母ちゃんもにいちゃんもおっちゃんも。子供達も。

 美味しいコーヒーを飲んで、美味しいビールを飲んで、素朴なグアテマラ飯を食って緊張した自分を解きほぐしながらゆっくり過ごした。

 どこの世界でも母ちゃんは優しい。母ちゃんに宿る母性というものの世界共通性を感じた出来事であった。地球の裏側だって、マフィアの居るメキシコだって、母ちゃんは母ちゃん。全然知らない国に行っても変わらないことはあるのだな、と思った。と、同時に母ちゃんに会いたくなった瞬間だった。見ず知らずと地球の裏側のおばちゃんがみるみると小銭を集めてきて渡してくれた時の衝撃を僕は忘れられない。


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