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THE IMPACT|インパクトマネジメント

はじめに

はじめまして。「公共の力をともに革新しよう」をコンセプトに、インパクトマネジメントツールの開発に取り組んでいる&PUBLIC株式会社(アンドパブリック)の桑原憂貴・長友まさ美と申します。デジタルブック「THE IMPACT」に関心をいただき、本当にありがとうございます。

2015年、気候変動抑制のために採択された国際協定「パリ協定」により、わたしたちの社会は「脱炭素」にむけて大きく舵が切られました。日本でも2050年までにカーボンニュートラルを目指すことになっており、脱炭素にむけた企業のアプローチも加速しているように感じます。

翌年2016年に発効された「SDGs(持続可能な開発目標)」という言葉。多くの方がすでに耳にしたことがあるかと思います。国連総会で採択された持続可能な開発のための17の国際目標であり、169の達成基準と232の指標が定められています。

環境・社会・企業統治に配慮している企業を重視・選別して行なう投資「ESG投資」や、財務的リターンと並行し、ポジティブで測定可能な社会的及び環境的インパクトを同時に生み出すことを意図する投資行動「インパクト投資」といった社会的な意義も目的とするお金の流れにも大きな注目が集まっています。

こうした国内外の潮流を受けて、取組が「社会のなかでどんな成果を生み出しているか」は、ますます問われる世の中になっていくと思われます。ですが、「成果」をうみだすためには、あなたの事業や活動にとって、そもそも「何が社会的成果なのか」を明確に決めなければいけません。また、めざす社会的な成果が大きなものの場合、すぐに達成することは難しい。だからこそ、その手前で実現されているべき成果は何かを考えて、成果の階段を描く必要があります。

「めざす社会的な成果」を明確にし、辿り着くための「道筋の検討」を行う。このプロセスで良く使われる思考ツールが「ロジックモデル」です。私たちはこの「ロジックモデル」をわかりやすくするために、「めざす成果と道筋の設計図」と呼んでいます。

図 1:めざす成果と道筋の設計図

本書では、「ロジックモデル」をチームで策定し、運用するためのヒントをお伝えします。

本書をきっかけに
・自組織が何のために存在するのかが自信を持って言えない
・事業や施策がうみだす成果と道筋がわからないまま進んでいる
・優先順位のない思いつきでやることが増えて、現場が疲弊している
・ビジョンやミッションが「つくって終わりに」なっていて誰も意識していない

こんな悩みを持つリーダーの負担が少しでも軽くなることを願っています。

ロジックモデル策定の準備

|目的の決定

ロジックモデルを策定する準備として、最初にやるべきことは「何のために策定するのか」という目的を明確にしておくことだと思います。

例えば、スタート間もない組織なら「メンバーの考えていることや見ていることの目線あわせ」が一番の目的になるかもしれません。こうした組織の場合、組織内に上下関係も強く存在していないケースが多いため、参加者は自由闊達に思ったことを言える環境が多いと思います。だからこそ、雇用形態や勤務スタイルで日々の業務に関する情報量に違いがあったとしても、できるだけ全員での対話を行うことが目線あわせにつながるでしょう。

一方で、歴史の長い組織なら、「後から参画したメンバーに創業時の想いや経営陣のめざすものを共有すること」かもしれません。こうした組織の場合で、組織の風通しがあまり良くなかったり、経営層と現場の年齢が離れすぎている場合は、あまり年次や役職の上の方が入ると、組織に参画したばかりのメンバーにとっては自由な意見が言いづらくなってしまいます。よって、新人メンバーと管理職くらいまでで一度実施し、たたき台ができてから、上層部の方々も入ってブラッシュアップをするように段階を踏むと進みやすくなると思います。

また、これから立ち上がるまちづくり会社なら、「生まれたら嬉しいまちの光景をありありと描くことで、一緒にプロジェクトを進める仲間をふやすこと」かもしれません。この場合は、自治体職員から地域住民までできるだけ広く声がけすることで、組織を認知していただくとともに、関わり方の機会が拡げることができます。一方で、多様な方が関わる対話の場は、それぞれの人のもともと持っている知識や情報に発言やアイデアは左右されることや、「実行するつもりはない思いつき」のような意見も混ざってきます。よって場にでる全ての意見を鵜呑みにするのではなく、自分たちにとって重要なものを組み上げていく取捨選択が必要になります。この辺りは、後ほどもう少し詳しく触れたいと思います。

ここにあげた3つのケースは、これまで私たちがお手伝いさせていただいたケースそのものですが、目的にあわせて誰と一緒に策定するかや、どこに対話の重点を置くかが大きく変わってきます。ですが、プロジェクトや組織に関わるメンバーが取組を通じてうみだしたい「光景」を言語化し、対話を通じて共有しあうことで、バラバラだったピースが集まり「1枚の絵」ができる、そんなチームの土台づくりに必ずつながる重要なプロセスだということは共通して言えると思います。

|時間の確保

ロジックモデル策定ワークショップは、素早くまとめることより、互いの理解が深まることや言葉1つ1つに納得感を持てることのほうが重要です。よって、初回については、3ステップで時間を確保することをオススメしています。(対面で開催できる場合は3時間×2回にまとめて実施することを推奨)

第1ステップ:めざす成果の言語化(2〜3時間)
どんな幸せな光景をうみだしたいか。願い(めざす成果)を言語化し、共有する。

第2ステップ:成果と打ち手の整理(2〜3時間)
言語化された成果を「初期・中期・長期」の3段階にわける。「初期成果」を中心に、打ち手を考える。

第3ステップ:指標の設計(2〜3時間)
成果につながる打ち手として、何をどのくらいやるのかを考える。またその打ち手に必要な人・物・金・ネットワークなどの資源について考える。

「ロジックモデル」は策定時点での「最も精度の高い仮説」に過ぎません。ですから、一度策定して終わりにはせず、現場での実践と得られた気づきをもって定期的にロジックモデルを練り直していくことが大切です。めざす社会価値と辿り着く最も効果的なルートが見えたとき、それは団体におけるソーシャルインパクトをうみだすノウハウであり、貴重な知的財産と言えるでしょう。

|道具の用意

ロジックモデルを策定する際、模造紙に付箋を貼って整理するというのが一般的な方法です。これは「積極的に意見を言える人」や「声の大きい人」だけでなく、書くという行為で誰でも意見を出しやすくなる方法だと思います。そこで、オンラインでロジックモデルワークショップを行う際にも、付箋を使ったり、文字を書き込めるツールを使って進めることをオススメします。例えば、無料で使えるオンラインツールとしては「Google Jamboard」や「miro」といったものが使えると思います。

対面で開催できる場合には、以下の道具をご用意いただくと良いでしょう。チェックリストとして、ぜひご活用ください。

□ 付箋(安い付箋は丸まって文字が読みづらかったり、剥がれやすいので要注意)
□ 模造紙(付箋を貼って、全員で全体像を見るときに活躍します)
□ 水性サインペン(油性の場合は机などに色がつかないかテストしてからが◎)
□ 落ち着いて話せる静かな空間(無機質な会議室より創造性が発揮される場所で)
□ 参加者の名札(なければ養生テープに名前を書いて胸にはってもらいましょう)

参加者が積極的に話せない性格だったり、考えをまとめて話すのが不得意があっても良いように、少しでも話しやすい状態をつくるためには全体の進行役のほかにテーブルごとのファシリテーターを配置するなど工夫をすると良いと思います。

ロジックモデル策定の実践

|はじめかた

チームでロジックモデルを策定する場合、チームメンバーが進行役を兼ねると参加者としての意見を言いづらくなるため、ファシリテーターを依頼するほうが結果として充実した時間になると思います。どうしても予算や時間などの兼ね合いでチームメンバーが進行役を行う際には次の内容を意識いただくと良いと思います。

「OARR(オール)」を最初に共有しよう

ロジックモデル策定ワークショップに限らず、対話の場でよく意識されることに「OARR」という考え方があります。

O:アウトカム(目的)
何のためにロジックモデル策定を行うことにしたのか。主催者から参加者に目的を明確に伝えることが大切です。職場の役割や立場の違う多様な人が集い、ともに考える場では「なぜ、その場を持つことが必要だったのか」という理由や目的を最初に参加者に理解いただくことがスムースな対話の鍵になります。忘れずに実施しましょう。

A:アジェンダ(プログラムの流れ)
次に、対話の流れについてお伝えします。例えば、「今日は目指す成果とその測り方を考えます」というように、考えるテーマと時間の使い方について全体像を示すことで、これからやることについて理解してもらいましょう。

R:ロール(役割)
ワークショップの参加者はお客さんではありません。また批評家でもありません。自分の想いや普段感じている何気ないことを伝える役割を持っていることを、参加者全員に理解してもらうことが重要です。

R:ルール(約束)
答えをだすために意見をぶつけあわせる「議論」ではなく、想いを共有して重ね合わせるための「対話」であることを参加者に意識してもらいます。具体的には、次の5つをお伝えすると良いでしょう。

①人の話を最後までよく聴こう
②意見に対して良し悪しの判断を加えない
③気軽に口に出してみる
④誰かの意見に積極的に乗っかってOK
⑤どうせならみんなで楽しんで過ごそう

|対話の流れ

さて、ここからは対話すべき具体的な問いの中見についてお伝えしていきたいと思います。ロジックモデルでは一般的に理想の未来から現在を考える「バックキャスティング」と呼ばれる手法で対話を進めていきます。現在やっていることから生み出したい成果について考えると、どうしても現在の手段が考えるベースとなってしまうため、本当の理想の成果や願い、幸せな光景を描きにくくなるからです。できるだけ最終的な目指す願い・成果から対話をはじめます。

図 2:対話の流れイメージ

ステップ1:最終的にうみだしたい「幸せな光景」を言葉にする

まず、活動や事業を通じて、最終的にうみだしたい願いについて付箋に書き出してみます(成果の特定)。書き方のコツは、「誰が/何が」+「どうなっている」という2つの要素を入れること。対象者とその変化という対になるように考えていくと、誰のことをいっているのか?周囲にも伝わりやすく、議論がぶれにくくなりますので意識したいポイントです。

ステップ2:最初にうみだすべき「変化」を言葉にする

次に、最初にうみだすべき変化について考えます(成果の特定)。問1は最終的な願いについて考えるため、大きなビジョンについて書かれた付箋が必然的に多くなります。遠い未来といっても良いかもしれません。それらを一足跳びに実現することは難しいため、手前で成し遂げる必要のある成果について考える必要があります。

例えば、「地球温暖化が解決された状態」を最終的にうみだしたい光景として描いたとします。明日、すぐにこれらの解決は難しいと思います。だからこそ、その手前のめざす成果として「工場からの二酸化炭素の排出量が減少する」とか「家庭の無駄なエネルギー消費が少なくなる」などの付箋が必要になると思われます。

ステップ3:付箋を「初期」「中期」「長期」の3段階に分ける

次にやることは、書き出された成果の付箋(めざす幸せな光景や対象の変化=成果)を階段のように分類します。(道筋の整理)この際に、同じような内容の付箋はできるだけ近くに貼りながら、類似内容でのグルーピングもしていくとわかりやすくなります。

図 3:道筋の整理

アイデアの発散で生まれた無数の付箋をもとに、全ての成果を目指すということは現実的には難しい。そこで似たような意見を束ねたり、最も重要な成果は何かという視点で、それぞれの成果同士のつながり(因果関係)を想像しながら、優先順位や注力すべき成果の濃淡をつけていくことになります。

私たちの活動や事業は、最終的にこんな幸せな光景を実現し、その手前ではこのような変化をうみだすという成果の道筋が整理されることが重要です。現時点での仮説に過ぎませんが、活動や事業を通じて、階段の登り方が検証されていることで、より確かな道筋が確立されていきます。

ステップ4:なぜ、成果は実現していないのか。原因と対策をセットで考える

ここからは、打ち手の議論に入っていきます。とくに「初期成果とした付箋」に注目し、その初期成果が生まれるための打ち手を考えています。ポイントは、成果が今、生まれていない/十分でない原因をきちんと考えた上で、対策としての打ち手を発想することです。打ち手のアイデアというのはいろいろな視点からたくさん考えることができますが、できるだけその精度をあげるためには、原因に着目するのが効果的です。打ち手のブレストができたなら、そのなかでも「実現可能性」が高く、「成果への貢献度」が高いと思われるものに絞ってまずは取り組んでいきましょう。

ステップ5:指標を考える

成果や打ち手を整理できたら、測り方を決定しましょう。ところで、そもそもなぜ、指標がないといけないのでしょうか?

それは活動や事業を改善するためには、うまくいっているのか、うまくいってないのかを「判断」をする必要があるからです。

例えば、登山をしていて山の5合目にいるとします。
果たしてそれは良いことでしょうか?悪いことでしょうか?

5合目にいるという事実が良いか悪いかは、目指す目的地が7合目なのか頂上なのかによって変わります。あるいは昨日の時点で1合目だったのか、4合目だったのかでも変わるかもしれません。つまり、指標とは現在地を特定し、良い悪いの価値判断を加えるための判断軸になるのです。

成果(アウトカム)で設定される指標は、数値などでわかりやすく表される「定量的」なものでも、言葉や状態などで表現される「定性的」なものでもOKです。あまりにも数値化された指標設定にこだわると、「測りやすい指標」が無理やりセットされる可能性があるため注意が必要です。あくまで、活動に価値判断を加える際に、最も適切だとチームのメンバーが考える指標を設定すると良いでしょう。

さて、ここまでロジックモデルにおける重要なポイントである「成果(アウトカム)」、「打ち手(アウトプット)」、「指標」の設計についてお伝えしてきました。めざす成果を言語化し、重ねあわせること。最終的に見たい幸せな光景への道筋を整理することは、社会価値を発揮するためのノウハウにもなるものです。ぜひ、いろいろな立場の人とともに、多様な視点で眺めながら、現時点で最も角度の高い仮説をつくりあげましょう。

|進行の工夫

ここでロジックモデルを策定する対話のステップを進めるときの進行の工夫を2つだけお伝えします。意識するだけで充実度が変わってきます。ぜひ、目を通していただければと思います。

柔軟なタイムキーピングを意識しよう

対話はテーマごとに話し合う目安時間をあらかじめ設定しておくと良いですが、当日は話し合いの様子をよく観察し、まだ意見が十分に言い切れていないと判断したら、柔軟に予定を変えましょう。「時間のなかでまとめること」が目的になってしまうと効果的な対話にはなりにくいため、意見が活発に出ているようであれば、タイムキーピングは柔軟に変更させ、場合によっては策定ワークショップの回数そのものを増やすなども考えるほうが後々にとって良いものになります。

まとめすぎず、モヤモヤも大切にしよう

最後にもう1点、大切なポイントがあります。ファシリテーターやテーブルごとに進行役に入ってもらう人が「つまり、〇〇ということですね」と意見を最初からまとめていくことはできる限り避けたほうが良いと思います。言葉の編集力が高い人は、こうして噛み砕いてわかりやすく変換しがちなことがあります。

これは、その場では非常に納得感が高いのですが、後日、振り返ると参加者自らの言葉ではなく、かつ、微妙にニュアンスの違うものが綺麗にまとめられてしまうことがあります。その場合、つくられたロジックモデルが自分ごとになりづらい弊害が生まれるため、「つまり○○ということですか?」と問いかける対応のほうが時間はかかりますが、意味のあるものが出来上がる可能性が高いです。能力の高い人ほどまとめたくなりがち。ファシリテーション役を担う人は注意が必要です。

ロジックモデルを活用する

ロジックモデル策定ワークショップの最も注意したいことは、「つくって終わり」になることではないかと感じています。特にチームメンバーが集まって、付箋を模造紙に貼ったり、ワイワイと意見を交換できるとそれだけで満足してしまうケースも少なくありません。何度も繰り返しますが、ロジックモデルとはそのタイミングでの最も社会価値を発揮できるであろうと考える仮説にすぎません。だからこそ、策定後にどれだけ現場で実践した内容をフィードバックしあい、策定したロジックそのものを改善し続けられるかが大切になるのです。

こうした社会課題解決や社会価値創造のための改善サイクルを回すことは「社会的インパクト・マネジメント」と呼ばれます。ここからは活動や事業の結果、生まれる社会や環境の変化である「社会的インパクト」を追求するために、どのような点に注意して改善サイクルを回していけばいいか。そのヒントをお伝えします。

|指標の測定

指標は主に成果(アウトカム)と打ち手(アウトプット)の2つの項目に設定されますが、「アウトカム」と「アウトプット」の違いが混同されがちなので先に整理します。まず「アウトカム」とは活動や事業をもたらす変化・便益・成果のこと。簡単にいえば、「結果として生まれる対象の変化」です。一方で「アウトプット」は活動や事業の商品・サービスなど。例えば商品の提供やイベントの開催などと考えてもらうとイメージがしやすいと思います。

図 4:アウトプットとアウトカムのイメージ

さて指標の測定に話を戻します。例えば、指標測定をする場合には以下のようないろいろな手段が存在します。

1|行動観察
2|インタビュー
3|アンケート
4|テスト
5|計測
6|既存資料

1|行動観察
行動観察という手法は、「初期の成果(アウトカム)」を確認するときに役立ちます。対象者のその瞬間における行動・態度・表情を掴みたいときにオススメです。定量・定性の両方のデータ収集が可能な手法です。

2|インタビュー
気持ちの変化や行動の変化など、理由や経緯を把握して深く知りたいときに使われる手法です。定性的なデータ収集の際によく活用されます。

3|アンケート
対象者の傾向を知るときに役立つ手法です。複数の人から同じ質問の回答を得ることができるので、結果を数値化しやすいのも特徴です。ただし、アンケートの場合は設問の作り方や表現でも結果が変わってきますし、得られた回答が本音・真実であるとは限らない点には注意も必要です。じっくりと検討して少人数で試すことをオススメします。

4|テスト
対象者に知識やスキルの習得を問うなどを行う手法です。習熟度や経験値などを測る際に用いられます。

5|計測
機器などを活用して対象者や対象の状態を測定する手法です。健康状態の確認など定量的に把握する際にも使われます。

6|既存資料
各種の文献や統計データなど既存の資料に掲載されたデータを活かす手法です。

さまざまな測定方法がありますが、運営基盤が強固な団体以外においては、測定にかかるコストも大きなものになりがちです。客観性や正確性への配慮はできる限り必要ですが、日々の活動や事業のなかで現実的に測定し続けられる方法という視点でも手法を選択していくことが必要になると思います。

|測定の時期

指標については、「どのように測るか」も大切ですが、「いつ測るか」も検討が必要です。基本的な考え方は以下の4つのタイミングをベースとすると良いと思います。

① 事業を開始する前
② 事業を実行している間(複数回に渡って測定)
③ 事業が終了した時
④ 長期間経過後(数年後など)

まず、活動を開始した際に測定することで「初期値」がわかります。つまりこれが現在地になるわけです。次に、事業の実行途中での複数回の測定が必要です。このときに指標によってはすぐに何かしらの変化が現れるものと、そうでないものがあります。指標設定のタイミングで、あらかじめ、「この指標は順調に打ち手が打てたなら、どのくらいの期間で変化が起こり始めるか」という観点で議論をしておくと良いでしょう。例えば、教育による影響は変化が起こるまで時間が必要です。長期でしか変化が起こらないものを、短期で測定してしまって、変化が起こらないことで打ち手をコロコロ変えてしまうと、より1つ1つの打ち手の効果がわかりにくくなってしまうので、注意が必要です。最後に事業終了時と長期間経過後にも測定ができると打ち手がどのくらい成果に影響したのかがより鮮明になります。

|注意する点

ここまでロジックモデルを活用し、社会課題の解決あるいは社会価値の創造をより向上させていくための「社会的インパクト・マネジメント」のポイントについて触れました。最後にもう1つだけ、意識いただくと良い視点をお伝えさせてください。

バイアスを排除すること

ロジックモデルをつくり、運用していくときに、「バイアスを極力排除する」というのは常に気を付けたい点です。「バイアス」とは、先入観や偏見のこと。特にインタビューやアンケートを行う際には、表現や言葉遣いを吟味しないことで、回答者が誘導されたり、回答に偏りが生じることが起こりやすくなります。

例えば、「最近はSDGsが話題ですが、SDGsという言葉を知っていますか」と聞いた場合、前半の「SDGsが話題」というキーワードに引っ張られてしまい、回答に偏りが起こることがあります。

アンケートのタイトルからアンケートの目的を回答者が事前に知ることで、目的に沿った回答になってしまうこともよくあるケースですので注意が必要です。できるだけ客観的に捉えて、正確に状況を把握することが、改善サイクルを回すために必要な作法とも言えます。ぜひ、意識して進めてみてください。

なお、社会的インパクト・マネジメントでは、このような指標を軸に得られる様々な情報(定量・定性)をもとに価値判断を行います。打ち手(アウトプット)として実施する内容は目標を十分に達成しているのに、成果(アウトカム)がでていないなどがあれば、自分たちでコントロールできる打ち手(アウトプット)の

・数をふやす
・質を変える
・打ち手そのものを変える

などを議論しながら、めざす成果にたどり着ける自分たちらしい方程式を探っていくことになります。ひいてはそれこそが、その団体が発揮する社会価値のノウハウであり公共領域の大切な知恵となっていくと思います。

おわりに

本書では、「ロジックモデル」を活用した社会的インパクトの可視化と最大化について、はじめての方が理解しやすいよう要点のみをヒントとしてお伝えしてきました。ロジックモデルについて紹介すると「事業はロジックモデルに描くような予定調和にはいかない」と言われることもあります。

私たちもそれぞれ組織を経営してきたなかで、たくさんの偶然の出会いやご縁に活かされて今があり、その気持ちはよく理解できます。未来のことはわからないし、すべての物事が計画通りにいくなんてことは、絶対にあり得ませんよね。

それでもロジックモデルを策定し、活用することに意味があると感じるのは、その目的がガチガチに固められた計画をつくり、計画に縛られて進むことではないからです。

変化の激しいなかで、1つの旗のもとに集まった仲間たちが、いったいどんな幸せな光景を夢見ているのかを知り、互いに重ね合わせ、チームだからこそできる夢や想いを言語化すること。

そして、「成果と手段の設計図」を手に、トライアンドエラーを繰り返し、予期していたことと、予期できていなかったことを学習し、自分たちがほしい願いへの辿り着き方を見つけていくこと。

ロジックモデルは答えでもないし、魔法の杖でもありません。それでも、振り返りながら歩くための共通の地図があることは、個人の幸せや、組織だからこそできる願いの実現に大きな力になります。

何よりも複雑に絡み合う多様な社会問題を前に、多くの個人と組織が試行錯誤しているならば、そのなかで見つけた目指す未来のための階段の登り方は次の世代を担うこどもたちにとっても大きな財産となるはず。

めざす成果を言葉にして重ねあわせる。成果への道筋を設計し、実践のなかで変化を収集しながら自分たちらしい山の登り方を発見していく。そんな組織が1つでも多く生まれる一助になれるなら、私たちにとっても心から嬉しいです。

2023年2月1日
&PUBLIC株式会社
桑原憂貴・長友まさ美

&PUBLIC(アンドパブリック)は、「公共のチカラをともに革新する」をコンセプトに、ソーシャルインパクトを追求する組織のために「インパクトデザイン研修」や「インパクトマネジメントツール」を開発・提供しています。ビジネスをより良い社会をつくるための力に使いたい経営者・リーダーの皆さんを支えます。もっと知りたいという方は、以下のページをご覧ください。

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