見出し画像

雨の思い出

 雨は意外と好きなのですが、今でも匂いや温度と共に思い出されるのは、大学時代の記憶です。

 大学の門の向かいにある喫茶店(カフェというような小洒落た場所ではなく)で、授業も終わって、そのまま下宿に帰るのがなんとなくもったいなかったので、その喫茶店の窓際の席に座っていました。

 真正面の大学の門から出入りする学生たちを眺めながら、
あー、私も一人暮らしに慣れてきたなあ、
ちょっと大人になったなあ、
授業も面白かったしと、充実感を覚えながら感慨に耽っていました。

 晩秋の雨の日は寒く、傘をさして肩をすぼめるように表を歩く人々。喫茶店の中はほんわかと暖かかく、窓を滴り落ちる雨粒の向こうのその景色をいまだに覚えています。

 まだ外の冷たさが鼻の頭あたりに残っていて、目の前のコーヒーカップから立ち上る湯気と香は、私をこの上なく幸せな気分にしてくれました。

 そしてふと気づきました。

 私は昔から、ひとり時間が好きだったこと。特にコーヒーを飲んでいるひとときがとても好きだったこと。

 下宿生活は、寂しくないと言えば語弊があります。でも、その寂しさの隠し味があるからこその幸せ感があるのもまた事実です。

 初めての下宿にひとり残り、田舎に帰る父親の背中を、心細さに押しつぶされそうになりながら眺めていたのは、ほんの数ヶ月前のことです。

 それからめまぐるしい数ヶ月が過ぎ、自分なりに生活してこられている充実感と、完全に消えることはない寂しさと心細さが混ざった、ちょっと泣きそうになる幸せ感を、私はその瞬間味わっていました。

 雨粒の中に映り込む景色の一部に吸い込まれるようにして物思いに耽る時間は、どんなマインドフルネス瞑想よりも気持ちをリフレッシュしてくれます。

 だから今でも、雨に降り込められると、泣きたくなるような幸せ感を味わえて、やっぱり、私は雨の日が好きなのです。

もし心を動かされたら、サポートをよろしくお願いします。いただいたサポートは美味しいコーヒーを飲みながら、次の記事を考える時間に活用させて頂きます。