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柔術の打ち込みについて

 今日も今日とて柔術が楽しい。9月になって少しずつ過ごしやすくなってきました。柔術日和です。昼休みにSNSとか教則動画を見て「お、これいいじゃん!今日の稽古で試そう!」とテンション高めにジムへ行くときのあのワクワク感いいですよね。スパーで実際に決まることはほとんどないのですが。。。それもまたよし。

 今日は打ち込みについて、感じることをまとめてみました。個人的には打ち込み大好きなんですが、万能ではないですよね。


1.打ち込みの重要性(目的・メリット・効果) 

 打ち込みに限らず練習の目的は「強くなること(うまくなること)」です。「強くなる」という目的を細分化して打ち込みでどの部分を強くするのか、何を伸ばすのかを考えないといけません。

打ち込みの目的・メリット・効果

1.技を覚える(◎) →形、手順を覚える、体で覚える
2.研究する(○) 
 →スパーや試合の形を再現、動画で見た技をやってみる、リアクションの研究 ひらめきやアイデアが生まれるetc..
3.精度を上げる(○) 
 →手順と動きを覚えたら次は精度。持つ位置、足の位置、重心、などなどディティールを詰める
4.その他
・柔術の動きのトレーニング →柔術的な動きを反復して、柔術の動きに慣れる、柔術の動きを鍛える
・ウォーミングアップ、有酸素運動 →ベストはしっかり時間を取ってアップをするべきだが、、、いきなりスパーに入るよりは二人一組で打ち込みやってから入った方がいい
・強度が低いのでケガしにくい。スパーリングができない人も柔術を楽しめる。

打ち込みのデメリット・できないこと

1.本気のリアクションがない
2.スパーリングにて打ち込みの正しい形を再現しようとしてしまう
3.本数が増えると惰性で繰り返す中身のない練習になる

「できないことをできるようにする」のが練習です。できる動きを何度も繰り返すのは効率が悪いです。(できていないのにできたつもりになっている場合も多いので注意)

2.スパーリングの重要性(目的・メリット・効果) 

スパーリングの目的・メリット・効果

1.技を覚える(△) →形、手順を覚える、体で覚える
2.研究する(○) 
 →動画で見た技をやってみる、リアクションの研究 ひらめきやアイデアが生まれるetc..
3.精度を上げる(○) 
 →手順と動きを覚えたら次は精度。持つ位置、足の位置、重心、などなどディティールを詰めていく
4.リアルなリアクションの中で技をアップデートできる(◎)
 →これが一番の目的。スパーリングでしかできない。
5.その他
・柔術の動きのトレーニング →柔術の動きに慣れる、柔術の動きを鍛える
・有酸素運動、筋トレ的効果 →結果的に得られる効果。メインの目的ではないけど大事。

スパーリングのデメリット・できないこと

1.動きが速いのでやりたいことができないことがある
→手順を確かめながらゆっくりやることはできない、ディティールを細かく確かめるのが難しい
2.何回も同じ技を試すことが難しい
→打ち込みなら技を10本やるのに1-2分だけど、スパーでやろうとしたら5分のスパーで2,3回しかできないので10本やろうとしたらスパー25分かかる
3.練習強度が高い、ケガのリスクがある
4.考えてやらないとただの有酸素運動になる

スパーリングのイメージ

アドリブ、対応力、臨機応変、応用力、判断力、思考力、集中力、工夫、考えること、センス、感性、技のつなぎ目、流れ、無数のシチュエーション、リアルなリアクション、相手の数だけのリアクション、適切なタイミングと方向と力と重心、課題の発見、

3.スパーリングと打ち込みどっちで練る?

 上記の打ち込みの目的のうち、打ち込みの主な目的は1.の「技を覚える」です。なので、簡単に言うと技を覚えていない人は打ち込みをしましょう。「技を覚える」とは「形だけでなく体で覚える段階」まで含みます。
 そして2.「研究する」3.「精度を上げる」の部分は打ち込みだけでは完結できません(スパーリングでは完結できる場合もあります)。試合やスパーリングのない武道の選手が試合のある格闘技の選手を倒すことはほとんどありません(試合のない武道を否定する気はありません)。

 柔術の技術は相手のリアクションありきのものがほとんどです。リアクションがないならそもそも技術は必要ないし生まれないので。リアクション取らない相手の格闘技なんて一発殴って終わりです。なので柔術の技術とは相手のリアクションを制するものだと考えられます。(リアクション=アタック、ディフェンス、エスケープ、耐える、などあらゆる相手の行動)
 柔術の技術=リアクションを制するもの、と考えると、柔術の技術を磨く際には相手のリアルなリアクションが必要になります。ではリアルなリアクションはどこにあるか、と考えるとスパーリングです。打ち込みではリアルなリアクションは出せません。もっとも、試合のリアクションが一番リアルですが、試合は毎日できません。

 実際のスパーや試合でも、打ち込み通りに技がかかることはほとんどないのではないでしょうか。一度として同じ形はなく相手の数だけリアクションがあり、その都度アドリブ的な対処が必要です。打ち込みで100回反復するよりもスパーの流れの中でのアジャスト1回のほうが上達することもあります。スパーで10回腕十字をしかけたら一度として同じ腕十字にはなりません。その10パターンの腕十字は上達につながります。打ち込み10本したらその10本は同じ10本で、しかもリアルなリアクションではありません。
 同様に、例えばストレートフットロック(アキレス腱固め)でも、ストレートフットロックの打ち込みを100本やってもスパーリングで極められるようになることはほとんどないように思えます。スパーリングの中で何回もトライしてアジャストしないと上達しないでしょう。(入り方の打ち込みしてスムーズにできるようになったら極められるようになる、極めのポイントがズレている人が打ち込みでポイントをつかんで極められるようになるというのはあるかもしれません)

 また、打ち込みの弊害として正しい形をスパーで再現しようとしてポジションを取り逃がしてしまうことがあります。打ち込みの技を再現するのが柔術のゴールではないのであくまで打ち込みは打ち込みとしてスパーでは流れの中で技を出すのがいい気がします。

柔道では何回も打ち込みをしますが、相撲では打ち込みはほとんどしないそうです。柔術の技は相撲に近い気がします。スパーリング(相撲でスパーリングとは言いませんが)の中で技を練る。その技に入るまでの当たりや崩しやフェイント、技そのもの、技の後のフォローと対応、すべてを相手のリアルなリアクションの中で身に付けていきます。

 打撃格闘技では毎日ガチスパをやったら壊れてしまいます。なのでガチスパは本数を制限するのがほとんどでしょう。そしてリアルではないけどよりリアルに近くなるよう工夫してマススパーやミットやシャドーを行います。本数制限のあるガチスパや試合の中で実戦感覚を養っていきます。
 では柔術は?というとなんと毎日ガチスパをすることが可能なのです。毎回試合と同じ条件の中でリアルなリアクションの中で技を試すことが可能なのです。柔術の練習環境は、打撃格闘技でいうと「毎日ガチスパやっても脳へのダメージがほとんどない」状況なのです。打撃格闘技ではやりたくてもなかなかできないガチスパが柔術ではできます。なんとぜいたくなことでしょう!ガチスパやり放題!本数制限なし!それが柔術のスパーリングです!

 ちなみに、打ち込みではなくスパーリングで技を練るという意見については、青木真也選手もnoteで言ってました。トライフォース芝本幸司選手も柔術ナビの記事にてスパーリングで技を磨く旨の話を書いてました。またグラップリングシュートボクサーズ加古拓渡選手に打ち込みについての意見を聞くと同様の考えでした。

4.打ち込みのポイント・注意点

 さんざんスパーリングが大事と前の項で語りましたが、ここで打ち込みの話に戻ります。打ち込みのポイントをまとめてみました。

・集中してやる、考えながらやる
→試合やスパーをイメージしながらやる
・できれば同体重の人とやる
・惰性でたくさんの本数をやらない
→集中力がない状態で良くない動きを繰り返すのはむしろ下手になる。頭を使わずに本数だけやっても上達はあまりしないが頑張った感は出てしまう。
・技を覚える(形を覚える体に覚えさせる)段階の打ち込み
→集中して反復して覚える。回数たくさんやるよりも1回1回を丁寧に
・精度を上げる段階の打ち込み
→手足の位置やグリップの仕方、重心などディティールを意識
・技研究の打ち込み
→練習後や試合後になるべく早くやる。早くやった方がより正確に再現できるし自分の熱意も高いので。

とにかく、ダラダラと本数だけ繰り返す打ち込みはよくないと思います。

5.打ち込みが必要な人(向いている人)

打ち込みが必要な人

・その技を覚えていない
→形だけ知っているのではなく、体で覚えるレベルまで
・柔術の動きが身についていない
・試合やスパーリングで失敗したシチュエーションを把握していない
→なるべく早くその状況を再現して技研究
・スパーリングができない
→ケガ、年齢、体格、体力の問題でスパーリングの強度ができない
→人と争うのは苦手だけど柔術の技術を楽しみたい
→スパーリングするレベルではない初心者
・凝り性、時間をかけて研究するのが好き

打ち込みが不要な人

・上級者
・技ができる
・センスがある
・技を見て、すぐにスパーで使うイメージができる
・スパーリングの中で打ち込みができる
→めちゃくちゃ強い
→ちょうどいい感じに自分より弱い人がジム内にいる

 ものすごい雑に言えば、上級者はスパーだけでも強くなります。例えば知らない技でも動画を見たら使う場面をイメージできてスパーにすぐ実戦投入して自分なりにアジャストできます。
 知らない技や動きが多い初心者中級者はたくさん打ち込みして、いろんな技や動きを体に覚えさせましょう。

まとめ

まとめると

・技を覚える段階では打ち込みをする
・試合で使えるようにする段階では、スパーリングをメインにして、精度を上げるために打ち込みを取り入れる
・試合やスパーリングの復習や技研究で打ち込みをする
・できない動きをできるようにするために打ち込みをする

という感じです。

打ち込みを妄信するな、されど軽視するな

 「強くなるために打ち込みは必要か?」と聞かれたらほとんどの人は「YES」と答えるでしょう。しかし「強い人はみんな打ち込みを時間をとって熱心にやっているか」というと100%「YES」となるかは微妙な気がします。実際、打ち込みをそんなにやらなくてもスパーリングだけで強い人はいます。かといって「強い〇〇先生は打ち込みしてないからやらなくていい」とはなりません。しかし「とにかくたくさん打ち込みやれば強くなる」というのもまた違う気がします。例えばですが、スパーを毎日5本やっている人と打ち込み5本やっている人がいたらスパーやっている人が勝つことが多いと思います。では「スパーさえやっていれば打ち込みは必要ない、打ち込みはスパーに劣る練習である」というとそれは違うのではないでしょうか。
 打ち込みには打ち込みのメリットや目的があるので、それを考慮したうえで自分にどれだけ必要かどうか考えていくのが大切です。それはスパーやソロムーブ、筋トレも同様です。

 毎回練習の話は結論が同じになりますが、自分の頭で考えて工夫して練習することが大事です。

 練習で打ち込みをする際、このnoteを少しでも思い出して、よりよい打ち込み練習になってくれたら幸いです。

2023/9/14 アンディ

追伸① 打ち込みはみんなのもの

 本編から内容がズレるので追伸に書きます。
 個人的に打ち込みが好きなのは「打ち込みはみんなのもの」だという点です。「リアルなリアクションのあるスパーリングが大事」というのは先に述べたとおりですが、だれもがスパーリングで技をかけられるわけではありません。
 体重30キロの小柄な人、高齢になってから柔術を始めた人、優しくてスパーで相手に強く力を出せない人、どうしても男性と組むのが苦手な女性、ケガではハードな運動ができない人、もちろんスパーリングをする人も、だれもが打ち込みをすることで柔術の技術を楽しむことができます。
 強くなるにはスパーリングは不可欠ですが、強くなるだけが柔術ではありませんし、打ち込みの中で上達を感じることもできます。スパーリングができない人でも柔術を楽しめる手段が打ち込みなのです。

追伸② モノ申したい!クラスの打ち込みちゃんとやれよ!

 これも本編の内容からズレるので追伸に。
 クラスでの打ち込みタイムで1~2回やってあとはテキトーに座って休んでるやつ、ちゃんと打ち込みやれよ!いやマジで!できてねえんだよ!
 
100回とか打ち込みさせられたとかならともかく、たぶん受け手と交互にやって5~6回とかだろ、多くても10回とか。マジでちゃんとやれよ!だいたい1~2回やって休んでるやつ技できてねえんだよ!1~2回やってできたつもりになってんなよ!できてねえんだよ!スパーリング大事って散々書いたけどお前はちゃんと打ち込みやれよ!10本やそこらの打ち込みくらい集中してちゃんとやれよ!あとクラス中だからな!一生懸命やらないと先生に失礼だろうが!

・・・つい語気が荒くなりました。申し訳ございません。今後は、他人のことなど気にならないくらい自分の打ち込みに集中しようと思います。押忍。


 


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