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アンデルスとクリストフェル

『ミッドサマーがやってくる』


ゴーーーールッッッ

 実況の絶叫に合わせて、アンデルスは黄色の
ソファの上で飛び跳ねた。
生まれる前から家にあるソファに座ってお気に入りのサッカーチーム、マルメを応援するのがアンデルスの楽しみ。
 エリクはラガー・ビールを傾け、少し伸びた顎髭を撫でながらアンデルスが喜ぶのを嬉しそうに見ている。カーテン越しの空を見て、明日のニシン漁のことを考えながら。

 双子の弟のクリストフェルはお気に入りの童話を読みながら、喜びを爆発させるアンデルスに目を向けた。今しがた夕食の片付けを終えたヘレナがクリストフェルの肩に手を置いてそっと微笑んだ。
 「腕は痛む?クリス?」ヘレナが尋ねると動かすことを遠慮してるみたいに小さく首を振って「大丈夫だよ母さん」と答えた。
 ヘレナは返事をする代わりに、クリストフェルの金色の髪を軽くくしゃくしゃと撫でた。

 翌朝、早くにエリクは漁に出かけて行った。アンデルスもお気に入りの赤いじてんしゃに乗って、地元のサッカースクールに出かけて行った。
 ヘレナも最近出来た漁協に働きに出かけ、静かになった家の中でクリストフェルは本を読む。時々、両足をぷらぷらと遊ばせて、時々、今日はたくさんニシンが獲れると良いなと思いながら。
 変えたばかりの左利きにまだ慣れていない。アンデルスや友だちと川遊びに出かけた時に乗っていた青い自転車ごと土手を滑り落ちて折れた右腕は一年を過ぎても少しだけ曲がったままで痺れが残っている。家族の誰にも言ったことはないけれど、クリストフェルは父のように漁師になることが夢だった。けれど、どうやらそれは叶いそうにないと諦めた。
 アンデルスは『プロサッカー選手になって、
ヨーロッパ中で活躍してお金をたくさん稼いで、
クリスの腕を有名なお医者さんに診てもらうんだ』と言ってくれている。怪我をしてから、赤いじてんしゃの後ろには、青い風車がつけられた。『クリスと一緒に走ってるんだ』と、ミッドサマーの太陽みたいに明るく大きく笑う。
 クリストフェルの次の夢は気象予報士になることになった。いつも窓の外を見て次の日の天気を気にしているエリクを傍で助けたいと思ったから。たくさん勉強をして大学に行こう。奨学金をもらって両親に楽をさせるんだ。
 ぽんぽんと音を鳴らして沖に出るニシン漁の船を想像した。父さんが帰ってきた時の顔が嬉しそうでありますように。

〈つづく〉

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