『ほたるいかちゃん』(桃萌)

日記 4/17

お腹いっぱいなのに今しかホタルイカを食べられないから、食べてしまった。ずっと喉元で泳いでる。

富山県産のシールが貼ってあった。ちょっと前に、ホタルイカの身投げの記事を読んだ気がする。「日本海で蒼く光る宝石」。宝石というより、おままごとのおもちゃみたい。いつも、パックにぎゅうぎゅうに詰められた、ぷりぷりでちいさなホタルイカを可愛いと思って見てしまう。でも、苦しそうに詰まったホタルイカは、1人で食べるにはちょっと多い。だから母とふたりで食べる。ひとり暮らしの時は、いのちをいくつも余らせてしまうことが怖くて買えなかった。

そして、お腹がいっぱいなのに、ホタルイカを5匹も食べてしまった。食べすぎたせいか、喉のあたりで何かが引っかかる感覚がする。もしかしたら、食べたうちの4匹はじょうずにわたしの身体の下のほうへ泳いでくれたけど、のこりの1匹はまだ喉元で迷子になってるのかもしれない。魚の群れでも、渡り鳥でも、ちょっとはぐれて迷子になっているのをよく見るけど、わたしの体内でもそれが起きたのかもしれない。

そういえばさっき、母が掬い損ねたホタルイカの目を、わたしの箸で拐って「かわいそうだよ」と笑いながら食べたのを思い出した。ひまわりの種を食べたらお腹の中でひまわりが咲いちゃうような感じで、ホタルイカも小さな目からクルンとカラダを生み出して、わたしの喉あたりを拠点にしてゆっくり泳いでるかな。それか、実はわたしがほんとうに食べちゃったのは「かわいそう」の部分で、気まぐれに飲み込んだ同情が、しらないうちにわたしの嬉しいとか楽しいとかを養分にして、おおきくなってしまったのかもしれない。もしそうだったら、多分わたしはものごころ付いた時から、何かとまちがえて「かわいそう」を飲み込んでるのだと思う。おおきなひまわりを咲かせられなかったわたしには、何を咲かせられるんだろう。


中西桃萌

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