『花束』(桃萌)

人間の心は底なしだから、どれだけ大丈夫をもらっても暗いほうへ落ちていく。まわりがいろんな色の、いろんな形の大丈夫をくれるのに、暗いほうに落下した瞬間、それは粉々になってキラキラ鳴きながら散る。

明るさは痛みや不快をもたらすから、耳鳴りがするほどの不幸を吸い込みたいんです。あなたがくれた優しさは、わたしがおおきな音を立てて咀嚼してからばらばらになり、真っ黒に液状化した共感と融合する。あなたの優しさは黒に溶けて、キラキラわめく。あなたの優しさだったキラキラはあまりにうるさいから、吸い込みすぎた不幸による耳鳴りと同化する。

あなたがくれた優しさは水溶性で、花瓶に挿したら消えてしまう。雨粒にあそばれても消えてしまう。あなたの優しさはあまりに脆くて弱くてうるさい。あなたの優しさはあまりに白すぎるからわたしの黒に触れられない。

飾るにはいびつで、捨てるにはもったいなくて、だから手向けられない。あなたのありふれた優しさは、飾るには黒すぎて、捨てるには白すぎる。あなたの優しさはしゅわしゅわほどけて、いらない気体のひとつになる。

あなたの優しさは、
聞こえるように吐かれたため息によって、
聞こえるように立てられた物音によって、
魔法が解けて、
うるさい心拍と同化する。


中西桃萌

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