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【書評】『人類進化の700万年 書き換えられる「ヒトの起源」』

【書評】『人類進化の700万年 書き換えられる「ヒトの起源」』
三井 誠著
講談社現代新書
800円+税

チンパンジーとホモサピエンスの遺伝情報(塩基の数)のちがいは1.23%。共通祖先から分かれて、ホモ・ハビリスなどの原人、ホモ・ネアンデルターレンシス(ネアンデルタール人)などの旧人が生まれ、多数が交差する時代を経ながらも、現生人類だけがヒト族として残った。

食べることや味、料理を考える時、それはいったいいつから始まっているのかルーツを知りたくなることがある。ヒトはいつから調理をしたのか? 現生人類からなのか、旧人あるいは原人も調理をしたかもしれない? いつから家畜を飼い、魚を釣ったのか? どのタイミングで穀物を粉にして練って焼き、パンにしたのか? なぜ飲酒が始まったのか? 疑問がいっぱいだ。

考古学や人類学は化石や遺跡などを解説するものが多かったが、最近ではこうした生活や文化的な側面に目をむけた考察が深まっているようで、本書でも多くの「食」にまつわるエピソードを読むことができる。

たとえば現生人類の体に対する脳の大きさは、他の生物に比べて突出している。その消費エネルギーは全体の20〜25%にも及ぶ。他の霊長類では8〜10%。倍以上のエネルギーをどうやって補給したのか? 「石器を使って肉あるいは骨髄を食べた」ことが脳の大型化を支えたという。最古の肉食の証拠はウシ科の動物のすねや下あごの骨。すねから骨髄を、下あごの骨から舌を切り取って食べた。これを著者は「柔らかくジューシーな牛タンは私も好物なのだが、(中略)最古の肉食の証拠にウシ科の舌があると聞くと『歴史ある牛タン』という気分にもなる」と記している。人類学という硬派なテーマを、しかもさまざまな学説が分かれる事柄についても、著者のこうした軽やかな筆致のおかげで難なく読み進めることができる。文章を読ませる力と調査力はさすが新聞記者のご出身である。

遺伝子から探る「ビタミンCはいつからビタミンか」「退化する嗅覚と味覚」も興味深い。人間が他の動物同様に体内でビタミンCを合成することができなくなったのはなぜか。料理をすることで一見、進化しているように思われる嗅覚と味覚が”退化”しているとはどういうことなのか?

もちろん食べものについてだけではなく、ネアンデルタール人とクロマニョン人(現生人類)が混血したのか? など気になるテーマも丁寧に解説してくれるので、人類学好きをふくめ幅広い方におすすめしたい、読みやすい良書。

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