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短評『堀江貴文 vs. 鮨職人 鮨屋に修業は必要か?』

短評『堀江貴文 vs. 鮨職人 鮨屋に修業は必要か?』

堀江貴文 著
ぴあ株式会社
定価:1300円+税

”ホリエモン”の愛称で知られる実業家・堀江貴文さんと気鋭の鮨職人たちとの対談集。数年前、堀江さんの発言「鮨職人になるために修業するのはバカ」が炎上し、話題になった。タイトルだけ見れば本書はその後日談のようだが、通読してみると「炎上」への反論や「なぜ何年もの修業は要らないか?」という論説よりは、それぞれの鮨職人がどのように現在の人気に至ったのかを丁寧に聞き出して、経営者的な観点で読み解いていく。

もちろん「無用な修業は要らない」という話を前提に話が展開されているのだが、これは飲食業界の内側にいる者ならこの数年誰でもヒシヒシと感じているテーマであって、飲食専門誌出身の筆者にとっても違和感なく受け止められる。どころか、堀江さんは飲食専門誌の記者もできるのではないかと思うほど、よく内情をご存じであり、言葉の端には飲食への愛情を感じる(「バカ」という言葉が強すぎて炎上した?と推察)。

章立てだが、30〜40代の職人さんとの対談が7本並ぶ。番記はされず「vs. 店名 人名」とした目次は、挙げた職人さんたちに番号(順序に通じる)をつけたくないという意思が見られる。対談本としての仕立てはシンプルで写真も少なく、キーワードが太字や見出し文字で示されて読みやすい。話を遮らない程度に脚注もついている。全体にトーンは真面目だ。

鮨業界と開業にまつわるそれぞれの物語を興味深く読んだ後で、この本を面白がれるのはどんな読者か、ふと考えてしまった。飲食業界(飲食専門誌を含む)の人や食通・フーディなら、職人世界が抱える現代的な課題の糸口として、参考になるにちがいない。しかし、一般客として飲食店を利用したい、いい鮨店を知りたいという人には深すぎるだろう。そういう意味では、意外とニッチな本ではないかと思う。

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